命令の重さ
レオン団長を呼んだのは、夕刻だった。
南町の方から戻ったばかりなのだろう。
鎧の隙間に、まだ土の匂いが残っている。
「団長、少し時間をくれ」
「はっ」
簡潔な返事。
だが、その目は既に“ただ事ではない”と察している。
俺は、包み隠さず話した。隣領の状況。
村が消えている事。
そして——王政を通さず、こちらの判断で動いた事。
全て。
話し終えた後、しばし沈黙が落ちた。
「……そうですか」
レオンは短く、そう言った。
驚きも、動揺も無い。
あるのは、現実を受け止めた者の静けさだけだ。
「報告にあった様に」
俺は、言葉を続ける。
「自力で、こちらまで辿り着けそうか?」
レオンは、首を横に振った。
「……恐らく、厳しいかと」
即答だった。
「歩ける者もいるでしょう。
ですが、子供や老人、病人を連れての移動は無理です」
「途中で倒れる」
「はい。置いていくか、全滅か——選ばされます」
俺は、目を伏せた。
答えは、最初から決まっている。
「団員を動かしてくれ」
顔を上げ、はっきり言う。
「数は制限しない。荷馬車も貸す。使える物は全て使え」
一拍置いて、言葉を足す。
「……一人でも多く、助けてやってくれ」
レオンの目が、僅かに揺れた。
傭兵団長としてではなく、一人の人間として。
「……解りました」
深く、頷く。
「直ちに動きます」
踵を返しかけて、ふと立ち止まった。
「エドワルド様」
「何だ?」
「これは……戦ですか?」
俺は、少し考えてから答えた。
「いいや」
首を振る。
「戦じゃない」
だが、間を置いて続ける。
「だが、覚悟は戦と同じだ」
レオンは、静かに笑った。
「……我々向きですね」
そう言い残し、足早に去って行く。
廊下の向こうで、指示が飛び始める気配がした。
鎧が擦れる音。
人が動く音。
命令は、もう俺の手を離れている。
「……始まったな」
助けに行く。
それだけの事だ。
だがその“それだけ”が、
どれほど重いかを——俺はもう知っている。
窓の外を見る。
南町の灯りは、今夜も消えない。
だが、これから迎えに行く場所には、もう灯りが無い。
それでも。
「迎えに行くしかないだろ」
小さく呟き、俺は次の書類に手を伸ばした。
決断は、もう止まらない。




