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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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越えた線の感触

指示は、既に出していた。


保護命令。

物資の優先配分。

医療人員の臨時派遣。


書類の上では、どれも正当だ。

誰にも止められる筋合いはない。


——それでも。


「……動いた、か」


執務室で一人、呟く。

自分の声が、やけに乾いて聞こえた。


机の上には、先程まとめさせた一覧。

向かわせた人員。

動かした物資。

通した商人の名前。


全部、俺の判断だ。


誰にも諮っていない。

父上にも。王政にも。


必要だと思ったから。

間に合わないと思ったから。


それだけの理由で。


「……」


紙の端を、指で押さえる。

ほんの少し、震えているのが分かった。


助けた。救った。


——そのつもりだった。


だが、視点を変えればどうだ?


隣領の内部に人と物を送り込み、状況を把握し、独自に“保護”を始めた。


それはもう、支援じゃない。


「介入、か……」


声に出した瞬間、胸の奥に重たいものが落ちた。


思い出すのは、レオンの報告だ。

村が消える話。

最後の文。


——存在しないものとして扱って欲しい。


あれを、見過ごせたか?

数字が揃うまで待てたか?


無理だ。


分かっている。

分かっているからこそ、なおさら。


「……これは」


机に両手をつく。


「善意の顔をした、越権だ」


自覚した瞬間、逃げ道は無くなった。


一度動いた物資は、戻せない。

一度流れた噂は、止まらない。

一度助けた人間は、次も助けを求める。


——当然だ。


その“当然”を、俺は背負った。


コンコン、と控えめなノック。


「入れ」


入って来たのは、グレゴールだった。

手にした帳簿を、静かに差し出す。


「……商人筋です。もう、動き始めています」


「早いな」


「ええ。早すぎるくらいです」


彼は言葉を選びながら、続けた。


「“エドワルド様の領地は、困っている所に物が来る”そういう認識が、既に広がり始めています」


俺は、目を閉じた。


来たか。


「止められるか?」


「……今から止めれば、逆効果でしょう」


グレゴールは、はっきり言った。


「“助けたのに、次は助けない”そう見られます」


「だろうな」


椅子に深く座り直す。


もう、選択肢は減っている。

いや、最初から無かったのかもしれない。


「王政に報告は?」


「形式上は、問題ありません。

ただ……」


「ただ?」


「いずれ、“誰が主導しているのか”を、問われます」


——その時、名前が出る。


俺の。


「……分かった」


短く答えると、グレゴールは一礼して下がった。


執務室に、再び静寂。


窓の外を見る。南町の灯り。

動き続ける人影。


もう止まらない。


「……やるしかない、か」


これは理想でも、英雄譚でもない。

ただの現実対応だ。


だが現実は、

一度動かすと、必ず代償を要求してくる。


「……覚悟しろ、エドワルド」


誰に言うでもなく、そう呟いた。


線は、越えた。

あとは——引き返さずに、責任を取るだけだ。後は父上にも報告もしなければ。

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