分岐点の向こう側
これで、取り合えず隣国への移動は阻止出来た。
それが正解だったのかどうかは、正直なところ解らない。
だが――今の俺に出来る最善は、これしか無かったと思うしかない。
それにしても、だ。
まさか俺を殺した男が、こうも素直に俺の判断に従うとは。
……いや、本当にそうだろうか?
前回の世界。
あの時は、すでに情勢は手遅れだった。
王国の内情は筒抜け、隣国は侵攻の口実と機を得ていた。
その「結果」の一部として、俺は捕まり、首を刎ねられた。
もし――
もしも、あの男が「実情」を知っていたとしたら?
王国の腐敗、虚偽の報告、民を切り捨てる判断。
それを見た上で、傭兵として命令に従い、
そして最後に刃先を向けた相手が――俺だった。
そう考えると、辻褄は合う。
今回は、まだそこまで至っていない。
だからこそ、あの男は俺を敵と見なさず、
「従う」という選択をしたのかもしれない。
だとすれば――
世界は、確実にズレている。
俺が知っている未来とは、もう別物だ。
同じ様に見える出来事でも、その中身は全く違う。
それが分かっただけでも、収穫だ。
これからは、
「大きな流れ」だけを見ていては足りない。
些細な言葉、視線、判断の理由――
その一つ一つが、未来を変える。
俺はもう、知っている世界をなぞっている訳じゃない。
ここから先は、
自分で選び続ける世界だ。
だからこそ、
一瞬も気を抜く訳にはいかない。
――この分岐点の、その先へ行く為に。
思考は一度、ここで切る。
今は考え過ぎても仕方がない。
取り合えず――
保護民の対応に集中しなければならない。
住居、食事、医療。
どれ一つ欠けても命に直結する。
考えるべき事は山ほどあるのに、今はそれ以外を抱える余裕は無い。
正直なところ、これが片付かないとどうにも落ち着かない。
頭の片隅で、先の戦や国の行く末を考え続ける事は出来る。
だが、目の前で震えている人間を放っておいて、先の未来だけを見る事は出来ない。
……それに。
ここで躓けば、どれだけ先を読んでも意味が無い。
まずは足元を固める。今はそれだけだ。
俺は深く息を吐き、視線を現場へ戻した。
考えるのは――
保護民が「生き延びる事」。
未来の分岐点は、この一つ一つの対応の先にある。




