表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/57

半分にして土へ

じゃじゃ芋。


まさか、こんなに早く手に入るとは思っていなかった。


商人に手配を頼んでから、数日。

「たまたま手持ちがありまして」と、申し訳なさそうに差し出された袋の中身は、ずっしりと重い。


運がいい。

いや――父が動いた結果だ。


「……十キロか」


袋を開け、転がる芋を確認する。

一つ一つの大きさは不揃いだが、問題ない。


この畑で試すには、ちょうどいい量だ。


畑の端。

肥料の実験をしていた区画の隣を選んだ。


土の状態も把握できているし、違いも分かりやすい。


芋を並べ、包丁を手に取る。


半分に切る。


躊躇はない。

前の人生で、何度も見てきた。


切り口が湿っているのを確認し、用意しておいた灰を指でつまむ。

暖炉の残り。細かく、乾いたものだ。


切り口に、丁寧に塗り込む。


「……よし」


これでいい。


灰は、腐敗を防ぐ。

完全ではないが、十分だ。


「おーい! エドワルド! 何してんだ?」


聞き慣れた声が、背後から飛んできた。


振り返ると、兄が立っている。

剣の稽古帰りだろう。額に汗が浮かんでいた。


「兄上!」


思わず声が弾む。


「新しい作物の植え付けです!」


「へー!」


興味本位の声。

だが、目は芋と手元をしっかり見ている。


「兄上も、やってみますか?」


「俺が?」


「はい」


兄は少し考え、


「簡単か?」


と、率直に聞いてきた。


「はい。見ててください」


そう言って、俺は作業を続けた。


切ったじゃじゃ芋を手に取り、

灰を塗った面を下に向ける。


畝の土を少し掘り、

穴に入れ、

土を戻す。


それだけ。


「……これで終わりです」


兄は、目を瞬かせた。


「へ?」


「これだけです」


「半分に切っても、平気なのか?」


当然の疑問だ。


「はい。芽があれば問題ありません」


兄は芋を手に取り、切り口を見つめる。


「……なんか、勿体なくないか?」


「逆です」


即答した。


「増えます」


兄は、しばらく黙った後、


「面白いな」


と、短く言った。


「俺もやる」


包丁を受け取り、見よう見まねで芋を切る。

切り口に灰を塗る手つきは、少し不器用だが悪くない。


「こうか?」


「はい。それで大丈夫です」


兄が土を掘り、芋を埋める。


その様子を、少し離れた場所から、農家たちが見ていた。


最初は遠巻きだった視線が、

次第に近づいてくる。


「坊ちゃま、それは……」


年配の農家が、恐る恐る声を掛けてきた。


「じゃじゃ芋です」


「聞いたことのない作物ですな」


「南の地方領では育てているそうです」


農家は、切られた芋と、埋められた畝を交互に見る。


「半分に……」


「はい」


「腐りませんか?」


「灰を塗っています。完全ではありませんが、試す価値はあります」


農家は、腕を組んで唸った。


「……なるほど」


否定しない。

だが、すぐに信じる様子でもない。


それでいい。


「芽が出て、育てば分かります」


そう言うと、農家は静かに頷いた。


「結果を見てから、ですな」


「はい」


それが、この領地のやり方だ。


兄は、いつの間にか夢中になっていた。


「土に埋めるの、楽だなこれ」


「はい」


「剣より向いてるかもしれん」


冗談めかして言うが、手は止まらない。


畝に、芋が並んでいく。


半分になったじゃじゃ芋が、

一つ、また一つ、土の中へ消えていく。


「……育つかな」


兄が、ぽつりと呟いた。


「育ちます」


根拠のある言葉だった。


だが、それを説明する必要はない。


芽が出れば、

葉が広がれば、

土を掘り返したとき、答えは出る。


数字でも、理屈でもない。


「……楽しみだな」


兄はそう言って、土を払った。


農家たちは、最後まで畑を見つめていた。


誰も笑わない。

誰も否定しない。


ただ、覚えて帰る。


半分に切っても、植えられる作物があることを。


この日、畑の一角に、

新しい可能性が静かに埋められた。


芽が出るまで、

まだ少し時間はかかる。


だが――


土は、裏切らない。


少なくとも、正しく向き合えば。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ