土の下の選択
次に考えるべきは、作物だった。
肥料が形になり、保存食の芽も出始めている。
だが、それだけでは足りない。
穀物は、不作に弱い。
一度天候を外せば、すべてが崩れる。
――別の柱が必要だ。
俺の頭に浮かんだのは、前の人生で何度も目にしたが、最後まで広まらなかった作物。
じゃじゃ芋。
土の中で育つ、塊根作物。
この領内では、今のところ栽培されていない。
理由は単純だ。
「土の中から掘り出す食い物など、下賤だ」
貴族の評価は低く、見た目も地味。
宴向きではなく、税の計算もしづらい。
だが――実際は違う。
料理の幅は広い。
煮ても焼いても、粉にしても使える。
痩せた土地でも育ち、多少の暑さにも耐える。
そして何より大きいのは、
年に二度、収穫できる。
一度失敗しても、やり直せる。
量も、そこそこ取れる。
これがあれば、飢えを「完全に防ぐ」ことはできなくとも、凌ぐ確率は確実に上がる。
◇
問題は、どう手に入れるか。
俺が突然「新しい作物を育てたい」と言い出しても、話は進まない。
種芋の確保には、領主の許可と金が必要だ。
なら――正面から行く。
今回は、父に頼む。
書庫に籠もり、地方領の記録を洗う。
地図。
作物の記述。
交易品の一覧。
あった。
南寄りの地方領で、細々と栽培されている記録。
保存性は低いが、飢饉の年に役立ったとある。
十分だ。
◇
父への報告は、簡潔にした。
「新たな作物を試したいと考えています」
「名前は?」
「じゃじゃ芋と呼ばれています。地方領では栽培例があります」
父は、即座に否定しなかった。
それが、今の俺にとっては大きい。
「特徴は?」
「痩せた土地でも育ちます。暑さにも比較的強いです」
「収量は?」
「年に二度、収穫可能です」
そこで、父の指が止まった。
「……二度?」
「はい」
帳簿をめくる音。
「商人経由で、種芋を入手できるか調べてほしいのです」
父は、少し考え、頷いた。
「量は?」
「最初は少量で構いません。私が育てます」
◇
畑は、すでに頭に入っている。
肥料を試した区画の一部。
日当たり。
水はけ。
最初から農家に任せる必要はない。
俺が育てる。
失敗も、成功も、全部見せる。
収穫できたら――試食。
いや、違う。
少量の試食では意味がない。
まとまった量を作り、食事として成立させる。
その上で、農家に渡す。
「これだけ取れる」
「こうやって食える」
「次は、あなたの畑で」
順番は、それでいい。
◇
土の下にあるものは、見えにくい。
だからこそ、評価されない。
だからこそ、備えになる。
前の人生で、俺は見栄えのいい改革ばかり追った。
数字と制度ばかりを。
今回は、違う。
目立たない。
だが、確実に腹を満たす。
じゃじゃ芋は、英雄にならない。
だが、人は救う。
土を掘り返しながら、俺は思った。
反乱を防ぐのは、剣でも言葉でもない。
――まず、飢えさせないことだ。
そのための一歩が、今、土の下に埋まろうとしていた。




