表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/17

数字が語り始める

最初に違和感として現れたのは、帳簿だった。


農務役人が、いつものように収穫見込みを書き付けていた時のことだ。


「……あれ?」


小さな呟き。

それだけで、誰も気に留めなかった。


同じ畑。

同じ作物。

同じ時期。


だが、数が合わない。


「測り直せ」


命じられ、再確認する。


結果は、変わらなかった。


「……増えている?」


言葉にした瞬間、役人は首を振った。


まだ早い。

誤差だ。

偶然だ。


そう片付けようとした。



数日後。


別の畑でも、同じことが起きた。


大きな差ではない。

劇的な変化でもない。


だが、確実に――増えている。


「水量は?」


「変えていません」


「種は?」


「同じです」


「人手は?」


「普段通りです」


原因が、見当たらない。


役人は、帳簿を睨みつけた。


「……土か?」


誰かが、ぽつりと呟いた。


その言葉に、空気が変わる。



報告は、伯爵のもとにも届いた。


「収量が、僅かに上がっている?」


「はい。特定の畑で」


伯爵は、帳簿に目を落とす。


数字は、正直だ。

だが、まだ判断材料としては弱い。


「天候は?」


「平年並みです」


「水害は?」


「ありません」


「害虫は?」


「例年通りです」


伯爵は、指を組んだ。


「共通点は?」


農務役人は、言いづらそうに答えた。


「……裏手の畑と、同じ処理をした区画です」


処理。


その言葉に、伯爵の記憶が動く。


土。

息子。

農夫。


「肥料か」


断定ではない。

確認だ。


「はい。あの時、試しに混ぜたものと、同じです」


伯爵は、ゆっくりと息を吐いた。



畑を視察する。


派手な変化はない。

見た目は、ほとんど同じだ。


だが、近づくと分かる。


茎が太い。

葉の色が、わずかに濃い。


「……確かに、違うな」


農夫が頷く。


「収穫量が、増えてます」


「どの程度だ」


「一割、二割……場所によっては、それ以上」


伯爵は、数字を頭に置き換える。


一割。

それだけで、領全体なら大きい。


二割なら――なおさらだ。


「再現性は?」


「まだ、分かりません」


正直な答えだ。


伯爵は、それを評価した。



夜。


伯爵は、執務室で一人、計算していた。


収量。

備蓄。

人口。


紙の上で、未来が少しだけ変わる。


「……間に合うかもしれん」


誰に言うでもなく、呟く。


不作の年。

凶作。


そこに、一割の余裕があるだけで、救える命は変わる。



同じ頃。


俺は、畑の隅で、その様子を眺めていた。


誰も、俺を呼ばない。

誰も、俺に聞かない。


それでいい。


数字が出始めた時点で、

もう俺の出番ではない。


前の人生では、ここで俺が前に出た。

説明し、誇り、主張した。


結果、反発を生んだ。


今回は、違う。


帳簿が語る。

土が証明する。


人は、それを拾うだけだ。



農務役人が、伯爵に言った。


「来年、区画を増やしても?」


「増やせ」


短い答え。


「だが、段階的にだ」


「承知しました」


慎重だ。

だが、否定はしない。


それで十分だ。



夜、部屋に戻り、俺は布団に横になる。


胸の奥に、微かな安堵が広がる。


まだ、成功ではない。

ただの兆しだ。


だが――確かに、道は続いている。


時間は、相変わらず足りない。

だが、ゼロではない。


処刑台の高さを、俺は覚えている。


あそこに立たないために、

俺は今日も、前に出ない。


静かに、確実に。


数字が、俺の代わりに、語ってくれるのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ