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反乱で処刑された若き領主、気づいたら過去に戻っていました。  作者:


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理にかなうもの

料理人が呼び出されたのは、昼の仕込みが一段落した頃だった。


「領主様がお呼びだ」


その一言で、料理人の背筋が伸びる。


思い当たる節は、ある。

ここ最近、食卓に並ぶものが、確かに変わっていた。


執務室に通され、頭を下げる。


「呼んだのは他でもない」


伯爵は、静かな声で切り出した。


「最近、食事が妙に違う」


料理人は、息を整えた。


「味が変わったわけではない。量でもない。だが――」


伯爵は、視線を上げる。


「保存の利くものが、混じっているな?」


料理人は、観念したように頷いた。


「……はい」


「何をしている?」


問いは、短い。

だが、責める調子ではなかった。


料理人は、正直に話した。


試食をしていること。

小麦を練り、細くし、乾かしていること。

長期保存を目的としていること。


「発案は……」


一瞬、言葉を切る。


「坊ちゃまです」


伯爵の眉が、僅かに動いた。


「息子が?」


「はい。ただし――」


料理人は、慌てて付け加える。


「坊ちゃまは、命じてはおりません。形を決めてもおりません。あくまで、考えを話しただけです」


伯爵は、黙って聞いている。


「乾燥させることで、腐りにくくなります。軽くなり、運びやすくなります」


「軍用か?」


「……はい」


料理人は、覚悟を決めて答えた。


一歩間違えれば、余計なことをしていると叱責される。だが、逃げなかった。


「書庫で坊ちゃまが見たそうです」


伯爵の目が、細くなる。


「なるほど」


しばし、沈黙。


伯爵は、机に指を置いた。


「理には、かなっている」


料理人は、思わず顔を上げた。


「乾燥させた小麦。保存性が高い。補給が楽になる」


伯爵は、数字を思い浮かべている。


倉。

輸送。

兵站。


「問題は、味と製造量だな」


「はい。まだ試作段階です」


「失敗は?」


料理人は、少し苦笑した。


「……全て、坊ちゃまが試食されています」


一瞬、伯爵の視線が鋭くなる。


「無茶をさせているな」


「止めましたが……」


「だろうな」


短く言い、伯爵は溜息を吐いた。


だが、怒りはなかった。


「これからは、私にも出せ」


料理人は、目を見開いた。


「領主様?」


「試さねば、判断できん」


伯爵は、淡々と言う。


「もし、これが形になれば――」


言葉を切り、静かに続けた。


「保存に、頭を悩ませることは少なくなる」


料理人は、深く頭を下げた。


「承知しました」



その夜。


伯爵の前に、小さな皿が置かれた。


乾燥した細長い生地を、茹でたもの。


完全ではない。

だが、食える。


箸で持ち上げ、口に運ぶ。


「……」


噛む。


硬さ。

味。

喉越し。


「改善の余地は、大いにある」


料理人は、緊張して頷く。


「だが」


伯爵は、皿を見つめた。


「これは、使える」


料理人の胸に、安堵が広がる。


「続けろ」


それだけ言って、伯爵は食事を再開した。



執務室に戻り、伯爵は一人考える。


息子は、前に出ていない。

料理人が、考え、動いている。


だが、始まりは――息子だ。


数字ではなく、土と食糧。

理屈ではなく、実例。


「……面倒なやり方を覚えたものだ」


だが、それは嫌いではなかった。


急がない。

押し付けない。

だが、確実に残る。


領主として、悪くない。


伯爵は、帳簿を閉じた。


保存食が形になれば、

次の不作にも、戦にも、備えができる。


まだ、確信には早い。


だが――可能性は、見えた。


それで十分だ。



だがその影が生まれる前に、

確かに、別の道が敷かれ始めていた。

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