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第二章 八神 愛の回想録1:夢と意識の淵にて
夕日が海を赤く染めて、世界が溶けていくようだった。
波音と潮風の匂いだけが、確かに私をここに繋ぎ止めていた。
私の目には、沈む太陽がオレンジから紫へ、
そして闇へ還っていく光の残像がうっすらと見える。
「圭……」その声は、震えて、途切れそうで。
でも、その震えの中に、わたしの全部を込めた。
「圭、お願い……」言葉は、水面に落ちた小石のように波紋を描く。
「……最後に、私の名前を呼んで……」
滲んでいく光。
その刹那を止めるように、圭は優しく囁いた。
「――愛……」
瞳からこぼれた一粒の雫が、
世界の終わりと始まりの境を静かに震わせた。
意識が、闇と霞に侵されていく中、
私の中で、あの日の志賀島の夕日が、残像としてちらついた。
水平線に沈む太陽、波の縁に光る細い線、空の縁が紫にじむその景色。
それは“緑の残像”だったかもしれない。
夕日の赤と海の青が重なり、わずかに緑が滲んだ。
私の声は、途切れ途切れに、夢の端で――
「いつの日か?この夜に……」
その言葉を最後に、私は静かに、眠りの淵に沈んでいった。
(真っ暗、でも波の音、潮風の匂い?戻ってきたんだ!この夜に…)




