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第8話『魔剣士スロウ・ディストラクション』

 ミーナが裏山から帰ってこない。もう約束のお昼過ぎだ。まさに緊急事態。


 やはり主人公補正――つまり俺の中にある英雄因子が中盤の敵を引き寄せてしまったのだ。


 英雄因子は世界を救わせようとするこの世界の運命やら神的なシステムだ。


 勇者はこの英雄因子を持つ者だけが選定される。


 英雄因子は生まれつきの力だ。つまり本来勇者になるはずで大量の英雄因子を持つ俺にモンスターが引き寄せられるのは必然だ。


 だから俺は努力を積み重ねてきた。英雄因子に引き寄せられたモンスターを倒すために。


 これが俺の恐れた主人公補正の正体だ。



 俺はおばさんにすぐ言伝を伝えた。


「おばさん。俺は街に帰っていないか探してみます。それより早くおじさんに連絡してください!」


「ええ。分かったわ。クレイ君も無理はしないでね?」


「分かっています。無理なことだけは絶対にしません」


「それじゃ気をつけて!」


「はい。では失礼します」


 俺は頭を下げておばさんから離れた。無理するなとおばさんに言われたが、それは嘘ではない。


 ワイバーンは中盤のモンスター。つまり修行した俺ならなんとか太刀打ちできるからだ。


 それでもギリギリの接戦になることに違いはない。それよりもまずは街の裏手に回って正体を隠す変装と索敵魔法でミーナの位置を探らないとな。


 流石にワイバーンは裏山にいると言っても、ミーナを狙うとは限らない。裏山には冒険者だって駆り出されているのだから。


 それでも被害が出る前に動く必要がある。俺は収納魔法を発動して黒マントと黒仮面を用意した。


 そういえばこの黒仮面の偽名を考えてなかったな。仮面ブラック。いやなんか戦隊物っぽくてダサいな。


 俺はゲーム内の歴史を遡っていた。確か太古の昔に存在した魔剣士がいたはずだ。その名前は【魔剣士スロウ・ディストラクション】と呼ばれていた。


 名前は決まった原作キャラの名前を拝借するのはパクリみたいで嫌だが、そうは言っていられない。


 正体不明の英雄の名を語る男とか、ちょっと厨二臭くて痛い気もするが、こういうのは気にしたら負けである。


 俺は着替えを完了させると、裏山へ索敵魔法を発動した。


「……居た」


 どうやらミーナは薬草の採取に夢中らしい。それと一つデカい魔力反応があった。これはワイバーンだ。


 どうやらミーナを狙い急接近しているらしい。これはうかうかしていられない。俺は禁書庫で習った【飛行】スキルによる飛行系魔法で空を飛んで、裏山へと猛スピードで接近した。


 索敵魔法によるとあと三キロの距離がある。俺は魔力を全開にして、猛スピードでかっ飛ばした。


 しばらく飛ぶと、ワイバーンとミーナの姿が見えた。ワイバーンは口から炎を吐こうとしていたので、俺は急いで着地して、収納魔法を発動して、家宝の剣に黒魔石で塗装しておいた剣を取り出した。


 俺は魔力を込めて、その炎を切り払った。どうやらワイバーンは好敵手を前にして興奮しているらしい。


 ふと背後を見やるとミーナが心配そうに見つめていたので、気を遣って語りかけた。



「大丈夫か?」


「な、なんとか……」


 どうやらミーナは声を絞り出すので精一杯と言った感じだ。俺はワイバーンの前に立ち塞がり、背後の彼女にこう伝えた。


「後は任せろ!」


 俺はそう口にしたあと、すぐに【究極突破】を発動させた。俺の気白にワイバーンはさらに戦闘意欲を燃やしたようだ。


 面白い。これなら俺も気兼ねなく本気を出せそうだ。俺は剣を構えて、ワイバーンに立ち向かった。


「せいッ!」


 俺は一太刀をワイバーンに浴びせた。


「ぎゃおおおおおおおおん!」


 あれ? 思った以上に大ダメージのようだ。ワイバーンはますますムキになって空中へと飛翔して、足の鉤爪で怒涛の連続攻撃を繰り出した。


 俺は全て剣一本でいなし、ひたすら魔力を溜めた。あれを発動させるには少し時間がかかる。だからこその回避と防御だ。


 しかもミーナを庇いながらの戦いなので、ほんの一瞬の判断ミスが命取りに繋がる。


 だが、俺はワイバーンの攻撃は既にゲーム原作で履修済みだ。攻撃方法さえ分かればいなすのも簡単というわけだ。


 そして、魔力のチャージが七割に差し掛かったところで、ワイバーンは大きく飛翔して、魔法を詠唱した。


 あれは風の中級魔法【トルネード】を発動させるつもりだ。これはミーナまで巻き添えを食らいかねない。


 俺はすぐに背後にいるミーナの前で盾になり、全力で魔力を溜めることに集中した。


 ――八割。――九割。――十割。


「準備完了だ!」


 ついにこいつを発動させる時がきた。幾年もの修行の積み重ねにより会得した最強クラスの奥義――【ディストラクション・ブレイバー】を発動させる時が。


 俺は剣を上に掲げて、思いっきり魔力を解放した。


「行くぞ。ワイバーン。社畜の意地を分からせる――ッ!」


 俺は自身の最大にして、最強の一撃を放った。


「ディストラクション・ブレイバァァァァァァーーッ!」


 俺は巨大な剣の渦を飛ばした。その黒い渦がワイバーンに迫る。途端にワイバーンも【トルネード】を詠唱したが、その【トルネード】すら、破壊の渦が打ち消し、貫いた。


「ぎゃおおおおおおおおおおおおおおおす!」


 ワイバーンに直撃した黒い渦は強烈な破壊音を鳴り響かせて、凄まじい威力で大爆発した。まるで俺の心臓が爆発した時のようだ。


 あっという間に、ワイバーンは塵芥と化し、ドロップアイテムのワイバーンの鱗と牙がドロップした。


 俺はそのドロップ品を背後にいるミーナに渡した。


「これを持って行くといい。これで君の家もかなり裕福になるだろう」


 ドロップ品を受け取ったミーナは素直に喜んだ。


「あ、ありがとうございます!」


 本当に嬉しそうだ。その素直さも彼女らしい。本当にミーナは天使だ。


 俺はそのまま立ち去ろうとすると、背面越しにミーナに話しかけられた。


「あの……。貴方のお名前は?」


 やっぱり尋ねられるよね。事前に用意しておいて正解だった。俺はちょっと気障に厨二っぽい雰囲気を醸し出しながら答えた。


「我が名は魔剣士スロウ・ディストラクション。この世界を守護する闇の剣士だ!」


 恥ずかしいくらい厨二なセリフだが、ミーナはどうやら感激を受けているようだ。


 俺はミーナにすっと右手をかざした。


「ではまた会おう。さらばだ!」


 そう告げて、俺はその場から空へと飛翔した。ついでに街へ帰還できる転移石もミーナの横に置いておいたのは言うまでもない。


 俺は夕暮れの空を飛翔して、そのまま街はずれの廃墟へと姿を消したのであった。


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