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第7話『ミーナ視点~クレイのために~』

 ~ミーナ視点~


 わたしは家の中でお母さんの家事を手伝っていた。お皿を洗い、部屋を箒で掃除する。


 今日の朝食は目玉焼きと黒パンとサラダだ。いそいそとお母さんの横でサラダを包丁で切る。サラダと言っても準男爵家であるうちの家計ではそんな贅沢はできない。キャベツと玉ねぎを刻んだ簡素なものだ。


 今日はクレイと一緒に遊んでから、夕飯をご馳走してもらうことになっている。流石は男爵家。うちと階級はひとつしか違わないのにとてもお金持ちだ。


 何せ、クレイのお父さん。ブレイ・ノーマルフィールド男爵はこの街の町長兼、兵士団の団長まで勤めている。


 それだけ働けばお金だってたくさん入ってくる。最下級の準男爵の爵位しか持たないうちとは格が違う。


 わたしのお父さんも兵士団の副団長として、ブレイ町長の指揮下の元で働いている。近頃はモンスターの活性化が激しく、この村もわりと危ないらしい。


 でもそれも杞憂だろう。何せブレイさん率いるノーマルフィールド兵士団は、この【リザルトの街】が誇る最強の兵士団だ。


その武勇は王都の兵士団にもひけをとらないらしい。


 わたしは最近クレイが無理なトレーニングをしていることに気が付いていた。ハードな肉体トレーニングに魔力の訓練。クレイの強さは治癒師をしている私も知っている。


 その強さは父であるブレイ男爵と同じか、それ以上の強さを秘めているだろう。


 そんな無茶ばかりするのでクレイの身体はいつも傷だらけである。一度はポーションを飲ませてやりたい。


 わたしの小遣いではポーションを買うには心許ないので、裏山にでも薬草を積みに行こうか迷っている。


 わたしだってそれなり魔法は使える。この辺りの魔物に負けるほど弱くはない。


 決めた。朝食のあとに、裏山まで薬草採りに行ってこよう。わたしは朝食を作り終えると、父母と共に食卓に着いた。


「女神よ。ささやかなる糧に感謝を。いただきます!」


 本当にささやかなる糧なのだから、なんだか笑えてくる。わたしはまずはサラダから手をつけた。


 キャベツのシャキシャキ感とお手製の塩ドレッシングの味が絶品だ。ちなみにこの塩ドレッシングはわたしが作ったものだ。


 これを初めて作った時には母さんはとても激しく褒めてくれた。いつかクレイと食卓を共にして、色々食べさせてあげたい。


 そんな未来への空想を巡らせながら、わたしはてきぱきと食事を済ませた。


「ご馳走様でした」


 わたしはきちんと手を合わせてから、皿を台所まで運んで食器を洗い始めた。わたしは自分の食器は自分で洗うことにしている。


 ふわふわの石鹸の泡で汚れを洗い落とし、水道の蛇口を捻って、せっせと洗った。洗い終えて、食器を手巾で拭いてから、わたしは母さんに一言告げておくことにした。


「母さん。わたし裏山まで薬草採りに行くから」


 わたしの唐突な発言に母は驚いた。


「どうしたの? 何処か怪我でもしたの?」


 わたしは首を振った。


「わたしじゃなくて、クレイが無茶なトレーニングをして傷だらけなの。だから今夜ご馳走を奢って貰う代りに、ポーションをプレゼントしようと思って」


「そうなのね。でも裏山にはモンスターが出るわ。危ないんじゃない?」


 わたしはすっと胸に手をかざした。


「大丈夫。こう見えてわたしは氷の攻撃魔法が使えるからね。身体強化だって使えるし、この村の近くのモンスターなんかに負けないよ!」


 母さんは安心したのか、ホッと溜息を吐いた。


「それもそうね。じゃあ気を付けて行ってくるのよ!」


「うん。それじゃ着替えてくる」


 私は階段を上がり自室へと向かった。自室へ入るとクローゼットから青い治癒師のローブを取り出した。


 いつか冒険者になるクレイを支えるために、こつこつとお小遣いを貯めて買ったものだ。


 成長しても着られるようにあえてぶかぶかにしてある。わたしは茶色の村娘服を脱ぎ、青い治癒師のローブに袖を通した。


 ちょっとぶかぶかだが、いい感じだ。


 この服は不滅の効果が付与されており、破れたり、汚れたりすることはない。


 かなり高価な品なため、銀貨二枚もした。


 わたしの小遣いが銅貨二枚だから、お小遣い五カ月分である。


 そして、部屋の隅に立てかけられていた。魔法樹の杖を取り出した。これも銀貨一枚で、お小遣いを貯めて買った。


 さて、装備も整ったし、出発の準備は万端だ。


 わたしは杖と袋を持って部屋を出て、階段を降り、玄関で靴を履き、「行ってきます」との掛け声と共に自宅を飛び出して【リザルトの裏山】へと向かった。


 ☆☆☆


 わたしは裏山に無事到着した。道中モンスターに出くわしたが、スライムやゴブリンばかりなので【身体強化】を行ない、杖で殴り倒した。


 光魔法は貴重な切り札だ。魔力温存のため、そう簡単に使うわけにはいかないのだ。


 辿り着いた裏山にはたくさんの薬草が生えていた。わたしがクレイのために用意したいのは【ポーション】十個だ。


 どうせすぐに傷だらけになるので、十日分くらいはプレゼントしてあげたい。家の手伝いとかあるので、いつもわたしが回復魔法をかけてあげるわけにもいかない。


 だからたくさんのポーションをクレイにプレゼントしてあげたいのだ。何故ただの幼馴染の男の子にそこまでするのか。それは決まっている。わたしはクレイが大好きだからだ。


 大好きなクレイに痛い思いとか、怪我とかして欲しくない。ただそれだけのことだった。


 わたしはいそいそと薬草をひたすら袋に詰め込んだ。十個分だから薬草は五つ。聖水は自宅の水にわたしの回復魔法をかけたら、聖水になるので問題ない。


 聖水と薬草があればポーションを作成することができる。


 だから薬草の数は五十個くらいでいいのだ。


 わたしはひたすら薬草を採取していると、もうお昼を過ぎてしまった。


「ふぅ。このくらいでいいかな」


 ちょうど薬草を採取し終えて、昼食の黒パンにしようと思っていたその時だった。


 空から紫色の竜がわたしの目の前に飛び降りてきた。


「き、きゃああああああああああああああ!」


 わたしは腰を抜かした。だってこのモンスターは紫色の竜だ。つまりワイバーン。この村の兵士団でも倒せないほどの強敵だ。


 そんなモンスターが何故、こんな田舎の裏山に出現したのか分からない。モンスターが活性化していると言っても、オークくらいしかいないと思っていたのに。


 わたしを睨むワイバーンは舌なめずりした。どうやら捕食対象とされてしまったらしい。


「いや……いや……」


 ワイバーンがその大きな口から炎を吐き出そうとした。わたしは自分の死を自覚した。その時だった。目の前に黒い仮面の男がワイバーンの炎をオリハルコンに黒魔法石であつらえた剣で、炎をかき消した。


「大丈夫か?」


 その男は小柄だった。でも何故か絶対の安心感がある。わたしはそう確信した。


「な、なんとか……」


 わたしは声を絞り出すと、黒仮面の男は無言でワイバーンの前に立ちふさがった。


「後は任せろ!」


 その黒仮面の男は膨大な魔力を放出して、ワイバーンに単身で立ち向かっていった。

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