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第6話『努力の結実』

 半年の月日が経過した。俺は今日もノーマルフィールド家の裏庭でフィジカルトレーニングや剣と魔法の訓練に明け暮れていた。


 やはり十二歳の成長期だ。鍛えたら鍛えた分だけ筋肉がつく。力こぶしを作ればもっこりするくらいは筋肉がついた。


 腹筋も三つに割れて、ずいぶんとたくましくなった気がする。


 もうそろそろ頃合いかな。俺はそう思い、家宝を複製したオリハルコンの剣を取り出した。


 複製して一年近く経つのに、まったくその輝きは色あせない。まるで永遠に輝き続けるかのような輝きだ。


 こんな名剣ですら、聖剣に比べたらたいしたことはない。何故なら聖剣は使用者と共に成長する剣だからだ。


 つまり勇者が強くなればなるほど強くなる一品。


 そんな至高の剣を前にしたら目の前のオリハルコンの剣なんて霞んでしまう。


 それでも俺が目指すのは平和で安全なスローライフだ。身に余る力なんて必要ない。


 俺はふぅと幾ばくかの深呼吸を終えたあと、銅の剣を持ち上げた。


「よし。一丁やってやるか!」


 そう口にした途端、ユニークスキル【究極突破】を使用した。半年の鍛錬で研ぎ澄まされた感覚が俺の肉体に迸る。


 ああ。なんて心地がよいのだろうか。まるで脳内に電流が走ったかのような心地よさだ。


 これが所謂フロー状態というものだろう。あまりの快楽と心地よさに脳がますますヒートアップする。


 冴えわたるフロー状態のまま、俺は迸る膨大な魔力をぎゅっと肉体と銅の剣に凝縮した。それにより魔力の気配を消えて、肉体と銅の剣をより次元の高みへと連れて行ってくれる。


 仕上がりは完璧だ。俺はこのハイになった状態のままで、銅の剣を地面に置いたオリハルコンの剣目がけて振り下ろした。


 その瞬間、ガキンと心地よい快音が響き渡り、見事にオリハルコンの剣を破壊した。


 脳内に何かが閃く感覚を覚える。


 俺はとうとう最後のユニークスキル【破壊】を習得した。


「……やった。ついにやり遂げたぞ!」


 俺は内心うぉぉぉぉぉぉぉと叫びたい気持ちでいっぱいだった。こんな達成感は社畜時代には味わえなかった。


 自主的に目的を持って何かを成し遂げるなど、半強制的に働かされている時代には一度たりとも経験したことがない。


 その喜びはまるでゲームに似ていた。そうか修行ってこんなに楽しいものだったのか。


 俺は脳汁がドバドバ溢れ出す快楽を覚えた。


 もっとやりたい。もっと修行したい。そう俺のゲーマー魂が叫んでいる。


 俺は止まることなく次は【破壊】を極めることに目が向いた。


「……やるか!」


 ユニークスキル【破壊】を極めるため、俺はまたもくもくと修行の日々へと没頭していった。


 ☆☆☆


 さらに半年が経った。俺は十三歳になった。しかし、身長は未だに155センチくらいだ。原作のクレイも小柄な体格の男だったので、きっと遺伝的な要因のせいだと思う。しかし、筋肉は順調に育っており、まるで細マッチョと呼べるほどの筋力を俺は手に入れた。


 社畜時代は筋トレをするとか面倒臭いし、食べるのも、寝るのも楽しくなかった。けど、いまは食欲も、運動欲も、睡眠欲も凄まじいくらい欲している。


 これが健康的な生活というものか。俺は生きているだけで心地よく幸せな感じがする。


 修行もかなり捗り、俺は全てのユニークスキルをカンストまで極めてしまった。いくら勇者スキルの劣化とは言え、序盤の村であるこの田舎ならそれほど苦労はしないはずだ。


 それでも世界的に見たらおそらく中の上だろう。俺なんてまだまだだ。それに最近は修行が楽しくなっており、毎日死ぬほど鍛えている。


 そのせいか、前より魔力量も三倍近く膨れ上がった。MPや魔法攻撃力に換算したら幾らかは分からないが、ゲーム中盤くらいの強さはおそらく身につけているだろう。


 それに明日は村の年末祭だ。まだ酒は飲めないが、美味い物やジュースをたらふく飲食できる幸せを思うと今からお腹が空いてくる。


 それと正体を隠すためのマントと仮面も用意した。黒いマント姿に、黒いアイマスクの仮面。この恰好良さを理解してくれる人はいるだろうか。


 まるでアニメの黒幕キャラにでもなったかのようだ。これで正体を隠す準備は万全だ。


 あと、今日はこれからミーナと遊ぶ予定がある。約束の時間が近づいてきたので、俺はマントも仮面も【収納】の魔法を用いてしまい込んだ。


 これで準備万端だ。いつ主人公補正が発動して、強い敵に襲われても、この村を正体を隠して守り抜く準備はできている。


 流石に魔王とか邪竜とか死神とかは、俺以外に真の勇者に選ばれた若者がきっと解決してくれるはずである。


 中身が五十歳近くのおっさんである俺は、悠々自適なスローライフを満喫すればいいのだ。

 毎日食って寝て修行して、最低限の冒険者家業で稼いで、また寝るの繰り返し。


 これ以上の幸せがこの世に存在するはずがない。俺は明日も平和が続きますようにと願いながら、服を着替えてミーナと待ち合わせをしている街の噴水へと行くため、裏庭から抜け出し、使用人に声をかけて、その場所へとゆっくりと歩きながら向かった。


 噴水に辿り着くと、そこにミーナの姿はなかった。可笑しい。約束の時間前にはきっちりと来る子だったのに、姿が見当たらない。


 もしかして、クッキーを焼くのに手間取っているのだろうか。俺はミーナのクッキーを楽しみにしながら、待っているとふと見かけた街の冒険者が不穏なことを呟いた。


「おい。裏山にワイバーンが現れたらしいぜ!」


「マジかよ。こんな田舎に現れるって一体どうなってやがんだ。ったく……」


 ワイバーンか。確かに物語中盤の前半に登場するモンスターだ。それがこんな序盤の村に出るなんて可笑しい。


 もしかすると、これも主人公補正が働いた結果だと言うのだろうか。俺が原作より早く強くなってしまったせいで、世界が俺を勇者にさせるべく、見えない力が働いているのかもしれない。


 そんな時、俺の元へミーナの母さんが駆け足で現れた。


「はぁはぁ。クレイ君。ミーナは?」


 俺は冷静に応対した。


「まだ来てないよ。ミーナに何かあったの?」


 そして、おばさんの一言は衝撃的だった。


「ミーナが。ミーナが、裏山にクレイにプレゼントするんだって、薬草を積みに行ったのよ!」


「う、嘘だろ……」


 いま裏山にはワイバーンがいる。俺は推しの危機に、とうとう力を使う時が来たなと焦りとわくわくがない交ぜになった。


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