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第18話『世界一大切なもの』

 大急ぎでジャイアントを葬ったあと、俺は街外れの廃墟で着替えを済ませて、猛スピードで街へと戻った。


 街の明かりはもう黄金色に染まっていた。これはミーナとのデートはもう無理かもしれない。


 そうがっかりして家に帰ることにした。勝手に置いてきたんだ。きっとミーナは怒っているだろうな。


 もしかしてこれを機に愛想を尽かされるんじゃないかと不安が過る。リアルの恋人関係は本当にデリケートで脆いからな。


 俺はしのごのと今後の対策を考えているうちに、自宅の門の前に辿り着いた。門のベルを鳴らし、家族を呼んだ。


「はーい!」


 その声は母さんのものではなかった。信じられない。俺は声の主が出てきた瞬間、嬉しさのあまり脳が痺れた。


「おかえり。クレイ!」


 出迎えてくれたのは母さんではなくミーナだった。俺は驚きのあまりつい、不思議そうに尋ねてしまった。


「どうしたんだよ。なんでミーナが俺の家に居る?」


 ミーナはくすくす笑いながら答えてくれた。


「だってクレイったら酔っぱらったわたしを送ったあと、どっかに行っちゃうんだもん。きっと修行のノルマをこなしたくて、デート中止したんでしょ? 本当に真面目なんだから!」


 俺は正直に答えられなかった。だって俺は数年前にミーナを救った【魔剣士スロウ・ディストラクション】として街の脅威となるジャイアントを討伐していたのだ。


 そんなこと口が裂けても言えるはずがない。


 俺はミーナの話に合わせて誤魔化すのが最適だと判断した。嘘を吐く罪悪感でちくりと胸が痛みながらも、彼女に偽りの記憶を語った。


「すまない。昨日やるはずだった街の外をランニング十キロ走るって日課を忘れていてな。ミーナとは焼肉に行けたし、解散するにはちょうどいいかなと思ったんだ……」


 推しの前で嘘を吐く罪悪感が凄まじい。しかし、ミーナは怒ることなく、俺に笑いかけた。


「あはは! そんなことだろうと思った! 本当にクレイらしいよね!」


 俺は思わず心の中の疑問をそのまま口に出した。


「どうして怒らないんだ? 俺はデートをすっぽかして、自分の都合を優先したんだぞ? 婚約者であるお前を蔑ろにして……」


 すると、ミーナは笑いながら、安心する声音で囁いた。


「知っているよ。きっとその努力もわたしを早く幸せにしたいとか誰かのためを思ってやってたんだよね? クレイは優しいから、自分の欲望のためだけに動いたりしないよ」


 俺は涙が出そうになったが、ぐっと堪えた。正体は知られなくても街を守るために、ミーナとのスローライフを守りたいという俺の想いは空気としてミーナに伝わっていたのだ。


 そう思うと胸がじんわりと温かさで満たされるような気がした。俺はミーナに謝罪した。


「すまない。それでもデートを途中でほったらかしにしたのは悪かったよ……」


 ミーナは俺にそっと近づくと、両手で俺の手を包み込んだ。


「そんなのもう気にしてないよ。それよりも今日はわたしが最高に美味しい料理を作ったからさ? 一緒に食べよ?」


「……おうッ!!」


 俺はミーナに連れられて、居間へと向かった。そこには父さんと母さんとミーナの両親が美味しそうなシチューを飲み、食卓を囲んでいた。


 俺は驚きのあまり声をあげた。


「おじさん。おばさんまでどうしたんですか?」


「あはは。実はミーナに誘われてな。一緒に街長の家でご飯を食べないかって!」


 おじさんが語ったあと、おばさんも続いた。


「そうなのよ。失礼かもと思ったけど、町長さんが優しく出迎えてくれて安心したわ」


 そこで父さんが鋭いツッコミを入れた。


「馬鹿言うな! 騎士のジョブを持とうが、町長だろうが、兵士団長だろうが関係ない。俺たちは同じ村で育った幼馴染のダチじゃねぇか!」


 その言葉にミーナの父さんは笑った。


「あはは。全くブレイはいつまで経ってもブレイのままだよな!」


 ミーナの母さんもにこにこしながら呟いた。


「そうよね。ブレイはいつも真っすぐでみんなの太陽だったものね!」


 俺が思っていた以上に、俺の両親とミーナの両親は仲が良いようだ。確か原作では父さんはこの街の人たち全員の人気者だったという設定があった。


 こんなにたくさんの友人やら幼馴染に恵まれている父さんは、まさに太陽。陽キャの中の陽キャなのかもしれない。


 クレイも原作では完全に主人公気質で真っすぐな陽キャだったもんな。


それがこんなしょぼくれた社畜のおっさんと魂が融合してしまったせいで、陰キャのようになってしまっているのを申し訳なく思う。


 俺が複雑な気持ちで両親たちを眺めていると、父さんに注意された。


「ほら。いつまでも突っ立てないで。早く席に着け! せっかくのミーナちゃんのシチューが冷めちまうぞ?」


 俺は父さんの言われた通りに席に座った。そして、ミーナがシチューをよそって俺の机の上に置いてくれた。


「はい。冷めないうちに食べてね!」


「おう!」


 置かれた皿に入っているのは真っ白のクリームシチューだった。しかも鶏肉やじゃがいもやにんじんたっぷりだ。


中世の世界にじゃがいもやトマトや焼肉があるのは可笑しいのではと思うが、ゲームの世界ならクリエイターが遊び心で設計しているため、基本的には何でもあり。JRPGなんて所詮そういうものだと思う。


そんな細かいことは放っておいて、俺は手を合わせた。


「女神よ。ささやかなる糧に感謝を。いただきます!」


 俺はその現実世界にあるシチューを再現したかのようなものをスプーンで掬い口に運んだ。


濃厚なクリームの甘味と塩気が効いていて思わず口が蕩けそうだった。


次に鶏肉を頬張ると、柔らかくて、でもきちんと火の通った絶妙な茹で加減だ。


 俺は感動してしまい。わずか一分でそのクリームシチューを平らげてしまった。


 俺はミーナに向けて一声かけた。


「ミーナ。ごちそうさま。めちゃくちゃ美味かった!」


 俺が素直な感想を口にすると、ミーナは優しく微笑んだ。


「まだまだたくさんあるから遠慮せずに食べてね!」


「おう!」


 俺は温かいご飯を家族や未来の家族と一緒に囲むことができて、前世では大学生までしか味わえなかった幸せを心の底から味わった。


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