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第15話『デートの始まり』

 屋敷を出たあと、俺たちはすぐに昼食をとるために焼肉屋へと向かった。この世界にも何故か焼肉屋が存在する。おそらくゲームスタッフの趣味だろうが、それでも焼肉食べ放題が心のオアシスだった社畜のおっさんからするとありがたい。


 銅貨四枚で食べ放題だ。これもおそらくスタッフの趣味だろうが。食べ放題がある異世界って、何処か現代的でゲームらしい感じがして嫌いになれない。


 俺とミーナは焼き肉食べ放題店【オタベヤタベタベーヤ】に来ている。店の名前が壊滅的にダサい以外は、物凄く美味しい焼肉屋だ。


 建物は赤い看板を掲げていて、何処か和風なテイストを感じる。こんな中世な世界観に和風な建物の店というのも乙な物だなと感心してしまった。


 とは言え、何年も前から両親に連れてきてもらっていたので、今更感はあるけどな。ミーナとも来たことが何回かあるので、それほど緊張感もない。

 客の列を待つこと五分。ようやく俺たちの番がやってきた。犬耳のウェイトレスに案内されて、店内へと案内された。


「お客様。いらっしゃいませわん。あちらの奥の席までお進みくださいませわん!」


「すまない。ありがとう」


 俺は犬耳美女の指示に従って、奥の左側窓際席へと座った。ミーナと向かい合わせだ。今日のゴシック調の胸元につい視線が引き寄せられそうになり、視線を顔に移した。ミーナはこちらが意識しているのを気にすることもなく。無邪気にメニューを開いて見ていた。


 俺とミーナは前世の記憶を抜くともう十五年来の付き合いだ。生まれた頃から隣にいるのが当たり前な兄妹のような関係なので、特に意識することもないのかもしれない。


 けど今日の服は少し露出が高いというか。男としての本能を刺激してしまうところがある。


 そこまで性的というわけではないのだが、でも肌色多めな衣装をいつも隣にいる幼馴染が着ていたら破壊力抜群だ。


 こちらの心情を察することもなく、ミーナは俺にメニューの相談を持ちかけてきた。


「ねえ? 最初は塩タンでいいよね? その次にカルビとロースとハラミ。それからホルモンとかでいいかな?」


 焼き肉を頼む順番としてはけっこういい線をいっているのだが、俺はおっさんとしての保守的な感情が混ざり合い、自然とメニューの指摘をした。


「それだと胸やけするぞ? 間にキャベツやキュウリやサンチェも挟んでおけ。あと白米やわかめスープも忘れるなよ。あとエールだ!」


 ミーナは納得したように頷いた。

「わたしもそれでいいと思う。でも段取りがいいというか。クレイってたまにブレイおじさんより大人っぽく見える時あるよね。ウチの父さんより落ち着いてるもん」


 やばい。心の中のおっさんが漏れ出ていたかと反省したが、ここで取り繕うと不自然なので、あくまでも自然体に応えた。


「これでも魔法の訓練でたくさん本を読んだり考えたりしてるからな。そのせいだろう」


 俺たちが自分たちの話に花を咲かせていると、ウェイトレスがやってきた。


「ご注文はお決まりですかわん」


 俺はミーナと事前に取り決めたメニューを淡々と口にした。


「塩タンとカルビとロース。あとハラミとホルモン。飲み物はエール。サイドメニューはキャベツとキュウリとサンチェ。最後に白米とわかめスープ全部ふたつずつで!」


 ウェイトレスはメニューを書き記して、メニューを繰り返した。


「「塩タンとカルビとロース。ハラミとホルモン。飲み物はエール。サイドメニューはキャベツとキュウリとサンチェ。最後に白米とわかめスープ全部ふたつずつでお間違いないですかわん?」


 俺は頷いた。


「ああ。間違いないよ。それで頼む」


 ウェイトレスは頭を下げた。犬耳がぴょこぴょこしていて可愛い。


「かしこまりましたわん。少々お待ちくださいですわん」


 そう言い残して、犬耳のウェイトレスは厨房に消えていった。


 しばらくの沈黙が訪れた。

 焼き肉を待っている間。俺は思い切ってあることを聞いてみることにした。


「なあ? ミーナは俺の何処に惚れたんだ?」


 その言葉にミーナは水を噴き出して咳き込んだ。


「おい。大丈夫か。これで拭け」


「う、うん。ありがとう……けほけほ……」


 ミーナはナプキンで口と机を拭いたあと、しばらく沈黙した。不味い。いきなり踏み込み過ぎたかと気になったが、ミーナは顔を赤らめつつ俺への想いを語り始めた。


「それはクレイが大人っぽくて、優しいからだよ」


「どういうことだ?」


 正直ピンとこない。ミーナはその理由を淡々と口にした。


「まずクレイって十歳くらいから凄く大人になったでしょ? 何かの本を読んで悟ったみたいに」


「そ、そうか?」


 不味い転生がバレたかと思ったが、ミーナは俺の予想外のことを話し続けた。


「そうだよ。きっとクレイを大人に変える何か凄い本読んだんでしょ? クレイの家には不思議な本がたくさんあるから」


 俺は嘘ではないので、上手く誤魔化した。


「ま、まあ、そんなところかもしれんな。も、もうあまり記憶にないよ……」


 ミーナはくすくす笑った。


「きっと口に出せない内容の秘伝の書なんでしょ? とにかくそれを読んで大人になってからのクレイが凄く頼もしくて恰好良く見えたの、それと勇者になりたがらなくなったのもポイント高いかな。勇者なんて危ないもん」


 俺はその意見に激しく同意した。確かに物語の序盤ではミーナはクレイが勇者になることに反発していたっけな。俺は自分の正直な気持ちを表にした。


「確かに勇者なんてブラックだしな。思い改まって正解だったと思うよ」


 俺がそう語るとミーナはうっとりした顔で微笑んだ。


「そういう落ち着いていて、大人なところがすごく好き。わたしにはクレイが頼もしい年上の男の人みたいで、そんなところに惚れたんだよ?」


 その言葉を聞いて、涙が溢れそうになった。ミーナはクレイではなくて、社畜時代の俺の魂を愛してくれているのだ。まるで報われなかった自分の心がすべて癒された感じがした。


 その時、ウェイトレスが塩タンとサンチュとエールを持ってきた。


「お取込みのところ失礼するわん。塩タンとサンチュとエールだわん」


「ああ……。ありがとう……」


 俺は涙を服の袖で拭いて、メニューがテーブルに置かれるのを確認した。


「続きのメニューは適宜持ってきますわん。それでは失礼しますわん」


 ようやく肉が届いた。俺はもう泣くのを辞めて、話題を変えた。


「ミーナの気持ちは嬉しいよ。ありがとう。それより肉を食うぞ!」


 ミーナも恥ずかしそうに慌てた。


「そ、そうだね。もう。クレイが変なこと聞くから気まずくなっちゃった。それより早く焼こっか?」


「おう!」


 俺たちはひたすら焼肉を焼くことに集中して、肉を育て始めた。俺の心には確定的にミーナを守る覚悟が固まったのであった。


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