第14話『休日デートの誘い』
今日は世間では休みの日だ。日本で言うなら土曜日。こちらの世界なら土の日。つまり働かなくてもいい最高に幸せな時間なのだ。
「さて。今日も楽しい。楽しい。修行に励むか!」
俺が庭の裏手で【究極突破】を使用して、アビス系の魔法を自分の心臓に打ち込む練習をしている。
これは歳をとっても、心不全で死なないためだ。心なしか、魔力量や身体能力のキレも上がっているような気がするが、おそらく気のせいだろう。
心臓に魔力を打ち込んで強くなるなんて裏技ゲームにはなかったからな。
俺は心臓に何度も魔力を爆発させながら、剣やら魔法の訓練に勤しんだ。
「ああ♪ 楽しい♪」
実は努力の成果が実り始めてから、俺は修行ジャンキーになっていた。毎日努力を積み重ねて新しい魔法や奥義を習得するのが楽しくて仕方がないのだ。
しかもノーマルフィールド家にはそれ系の書物がたくさんある。
禁書庫なんて宝の山だ。これも全ては英雄因子による主人公補正を回避するためなんだけどな。
俺は再び自分の心臓を爆発させながら、新奥義を試そうとしていると、母の声が聞こえてきた。
「クレイ。ミーナちゃんが家を訪ねてきてるわよ?」
「うん。わかった。すぐいくよ!」
どうせ例のアレだろうと思い、部屋に戻って服を着替えた。それも黒系統のわりとお洒落な奴で髪も整えている。
俺がリビングへ向かうと、そこには自宅に上がり込んで母から紅茶を出されて待ってくれていたミーナの姿があった。
なんていうか。いつもの青い身にミニスカートドレスではなく、黒基調のゴシック風のミニスカートドレスを着ていた。太もももムチムチだし、小柄な体型に似合わずに豊かな胸部もある程度露出されている。
なんていうか可愛い。最高だ。俺は胸のときめきが早まるのを感じた。いい歳したおっさんが成人とはいえ十五歳の少女にデレデレするのはおかしいのだが、肉体に精神年齢が引っ張られているため、どうしても反応してしまう。
つまり俺の恋愛センサーは思春期の男子高校生そのものなのだ。
緊張しつつも、ミーナに語りかけた。
「おはよう。待たせたな。ミーナ」
「ううん。全然待ってないよ。美味しい紅茶をご馳走になったしね」
「いや。それを待っているというんじゃないか?」
「確かにそうだけど。楽しめたから大丈夫だよ。それより今日は、そ、その……すごくお洒落でカッコいいね……」
不意打ちに服を褒められたので、なんだか気恥ずかしくなってしまう。俺は仕返しにミーナの服についても褒め返した。
「そういうミーナこそ、今日の服に合ってると思うぞ? いつもよりゴシック調でお洒落だ!」
「えへへ。そ、そうかな……。クレイ。ありがとね!」
互いを褒め合っていると、母さんが横槍を入れてきた。
「もう早く結婚しちゃえばいいのに。今日のデートで既成事実を作りなさいな!」
母さんが茶化してきたせいで、どんと空気が気まずくなったので注意した。
「馬鹿なこと言うなよ。いくら婚約しているからって嫁入り前の女子に手を出すわけがないだろうが。まだ冒険者として安定もしてないのに、男として責任が取れないじゃないか!」
しかし、ミーナは正反対の意見を口にした。
「え……でも、クレイとならそういうことしてもいいよ。責任だってすぐにとれなんて言わないし……」
ミーナが頬を朱色に染めながら大胆発言をすると、俺も気恥ずかしくて顔が沸騰するのを感じた。
「お、おい。ミーナまで無責任なこと言うなよ! と、とにかくそういうことは、きちんと結婚してからだ。分かったな?」
「むぅ……クレイは固すぎだと思うな……」
ミーナが口を尖らせると、母のそれに悪ノリした。
「そうよね。それでも男かって感じよね。父さんなんか母さんをデート初日から物にしていたわよ?」
母の無責任は発言と聞きたくもない親の馴れ初めを聞かされて激怒した。
「おい! 父さんの話は関係ないだろ。母さんも息子の恋路をからかうのは辞めてくれ……」
「ふふ。確かに母親が息子に言う発言ではなかったかもしれないわね。でもミーナちゃん。もうクレイはツンケンしながらもメロメロのはずよ。頑張って!」
「はい。おばさん。頑張ります!」
「だから茶化すなよ! 全く……」
なんかこれだと俺がツンデレ男子みたいじゃないか。俺はそこまで好意を隠しているつもりはないのに。
それに社畜のおっさんとしては軽率の女性に手を出すのは悪手だ。そのせいで苦しい思いをした同期をたくさん見てきたからな。女性問題で会社をクビになった奴もいるくらいだ。
だからこそ、責任を取れるまで、同業者であるミーナに手を出すわけにはいかない。
仕事が安定するまでは絶対に超えてはならないラインだ。
コンプライアンスの問題もあるので、そういうことは絶対に許されない。
母とミーナはそれぞれ愚痴をこぼしていたが、勘弁してもらいたい。
母に愚痴っているミーナに声をかけた。
「ミーナ。そろそろ行こう。もう少しで昼だぞ?」
ミーナは我が家の時計を確認して焦り出した。
「確かにもう行かないと、お昼のお店が混んじゃうね。じゃあいこっか!」
「おう!」
俺たちが部屋から出ようとすると、また母が余計な発言をした。
「孫は双子がいいわね。頑張りなさい!」
俺は母にきつく怒りをぶつけた。
「だから茶化すなよ! この下世話ババアが! それじゃ行ってきます!」
下世話ババアという単語に傷ついたのか、母さんがかちんと固まっているのを無視して、俺とミーナは屋敷を出たのであった。




