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第12話『初めてのお酒』

※この世界はファンタジー異世界なので、十五歳で成人という設定です。あくまでこの作品はフィクションなので、現実での二十歳未満の飲酒は違法です。飲酒は必ず二十歳を超えてから行ってください。


 あのまま微睡の中で幸せを噛みしめていると、もうすっかり日が暮れていた。どうやら眠り過ぎたみたいだ。


 俺は隣で眠りこけているミーナの肩を揺らした。


「おい。ミーナ。もう日が暮れているぞ?」


 ミーナは眠そうに目を擦って、口を押えて欠伸をしながら目覚めた。


「おはよう。クレイ……」


 呑気に欠伸をしている彼女に、俺は思わず突っ込んだ。


「まだ夜だぞ? というかお前、家に変えられなくて大丈夫なのか?」


 ミーナは首を振った。


「もうわたしは成人なんだよ? いちいち家族に門限を聞かれたりしないよ。それにクレイと一緒って言ったら父さんたちも安心していたしね!」


 どうやら俺はミーナの両親に信頼されているらしい。それよりこれからどうしたものか。


 俺が悩んでいると、ミーナがとんでもない発言をした。


「宿でお泊りしていく?」


 そのあまりにも大胆な発言に俺は厳しく注意した。


「馬鹿言うな。いくら婚約者と言え、嫁入り前の娘が男と夜を明かすなんてはしたないぞ?」


 すると、ミーナは頬を朱色に染めながら、またしても誘惑的な一言を口にした。


「わたしはクレイが相手なら嫌じゃないよ? だって愛しているもん!」


 その一言は反則だ。俺の心が揺れそうになったが、必死に自制心で自分を律した。


「恥ずかしい台詞を言うな。それにそういう関係になるのは結婚してからだ。俺はきちんと責任を取れるくらい稼げるようにならないと、そういうことはしない」


「もう! クレイは真面目過ぎだよ。でも、それだけわたしを大切にしてくれるのは嬉しいかな……。ありがとうね!」


「別にたいしたことはしていない。それより自宅まで送っていこうか?」


 ミーナはしばらく顎に手を当てて考えた。そして、またいつも通り好奇心のままに、大胆なことを言い始めた。


「だったらさ? お酒飲もうよ! せっかく成人になったんだし!」


「酒か……」


 確かに転生する前、俺はかなりお酒が好きだった。残業の時以外は、毎日ビールを三杯は飲んでいたし、酒を飲んでつまみのピーナッツを食べながらゲームをするのが最高の贅沢だった。


 この世界だとエールと果実酒か。飲むならやはりエールだな。まあ、前世ならまだ飲める年齢ではないが、この世界では立派な成人だしな。俺はミーナの誘いに応じることにした。


「いいぞ。エールを飲みに行こう」


 ミーナは嬉しそうに微笑んだ。


「やったぁ! それじゃあ、お店にいこっか?」


「おう!」


 両者の意見は固まったので、俺たちは近くの酒場へと向かった。入店すると猫耳のウェイトレスさんや、うさ耳のバニーガールの女性がお酒を運んでいる、どう考えても大人のお店だった。


 俺は近くにいるウェイトレスに声をかけた。


「ふたりだ。エールを一杯ずつ頼む!」


 猫耳のウェイトレスが反応して、俺たちを席に案内した。


「お客様が入店にゃ!」


 どうやらここのウェイトレスは全員獣人らしい。そりゃケモミミは需要があるわな。通りで男性の客が多いわけだ。


 すると、ミーナが隣で嫉妬を口にした。


「もう獣人さんが可愛いからってデレデレしちゃって。クレイの浮気者!」


 全くこれだから女の嫉妬というのは面倒臭い。これが嫌だから俺は前世から彼女を作らなかったわけだが、流石に最推しであるミーナを悲しませるわけにはいかないので、頭にポンっと手を置いて少し気障な台詞を呟いた。


「馬鹿言うな。お前が世界一可愛いに決まっているだろうが……」


 俺は赤面しつつ呟くと、ミーナは俯き顔を真っ赤にしてはにかんだ。


「もう。クレイってば。ホントにずるいよ……」


 俺たちは左奥のカウンター席に座った。ミーナは俺に子供っぽい台詞で語りかけた。


「ねえ? 初めてのお酒。なんだかわくわくするね!」


 俺は軽く首を振った。


「一杯だけ飲むなんて水みたいな物だぞ? ただ成人したてホヤホヤの奴が大量に飲むと下手したら死んでしまうからな」


 ミーナはじとっとした目で俺を睨んだ。


「なんかいまの知っている口ぶりだよね? まさか未成年の時に飲んだりしてないよね?」


 これは返答に困ったな。前世での経験を言葉に出したのは、流石に不味かったか。俺はすぐに誤魔化した。


「親父が口うるさく言っていたんだよ。飲むのは今回が初めてさ!」


 ミーナは少し怪しんだが、ふと上を向いて考えを巡らせて、ぽんっと手を叩いて納得した。


「確かにブレイおじさんなら言いそうだね。いいなぁ。わたしなんてお酒の話なんてお父さんとしたことないよ」


「別に羨ましいことなんて何もないぞ? ただのおじさんの口うるさい説教みたいなものだからな」


「そう言えばクレイもたまに少しおじさん臭いよね。でもクールで知的な証だし、やっぱりクレイって素敵だよね……」


「そういう恥ずかしい台詞をすぐ口にするな。それより注文が来たみたいだぞ?」


 俺が顎をくいっと向けると、猫耳のウェイトレスさんがエールの入った木製ジョッキを運んできた。


 猫耳ウェイトレスさんは、エールのジョッキを丁寧に置いてくれた。


「はい。エール二杯ですにゃ。ごゆっくりですにゃ」


 俺は自分の目の前に置かれたエールを見つめた。黄金色に白い泡の立つ液体がまるで聖水のように俺の乾いた喉が欲していた。


 俺はすぐさまジョッキを片手に持つとゆっくりと口へ運び一口だけ飲んだ。スバイスの香りとほんの少しの苦みとコクがのど越しに利いてくる。俺はまるで天国に導かれるようにエールをぐいっと一気に飲み干した。


「んっ、ああぁぁぁぁ~~!!」


 やはり酒はこうでなくてはな。やはりのど越しが最高だ。


 すると、ミーナは面白そうにふふふと笑った。


「ふふっ! いまのクレイなんだかおじさん臭いね。まるでうちの父さんみたい!」


 俺は思わずしまった。つい心の中のおじさんが表に出てきてしまったかと猛烈に反省した。


 それでも負けじと、俺はミーナのジャッキを指さした。


「いいから飲んでみろって。お前もそうなる!」


 ミーナはまさかと言ったような表情でお酒を一口飲むと、美味しかったのか、一気にごくごく飲み干した。


「ぷはぁぁぁぁぁぁぁ~~! ってやだ。わたしったらおじさん臭くなっちゃった……」


 俺はけらけらと笑った。


「はっはっは。仕方ないさ。酒飲むとはそういうもんだ。それより料理を頼もうか?」


「うん。そうだね。初報酬でお酒と外食って、なんだかすごく贅沢な気分!」


「それは否定しない」


「ふふふ。それじゃあゆっくり楽しもっか?」


「おう!」


 そのあと俺たちは、ポークステーキともう一杯エールを頼み。報酬の銅貨二枚をあっさりと消費してしまったのだった。

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