第11話『クエストの初報酬』
クエストを達成したあと、ギルドの受付でスライム討伐完了の報告をしていた。受付のお姉さんは驚いていた。
「す、すごい。新人の方がこんなに手早くクエストを完了させるなんて……」
そりゃ普通の新人な五時間かかる仕事を一時間でこなして、行き帰りで二時間でクエストを終わらせて帰還したのだから驚いても仕方ない。
世界的には中の上でも、あれだけ努力したのだ。今更スライム如きに苦戦するわけがない。
ゲームではレア個体のスライムを倒して、レアドロップ品の【スライムジェル】を粘るために数千匹は倒した経験があるのだからな。
五匹倒すくらいわけないのだ。
しかし、目立つのはよくないので、俺は話を穏便な方向へと誘導した。
「基礎的な努力は自宅で散々してきましたからね。でもこれ以上上はちょっと今の俺らには荷が重いです」
「そうですよ。わたしとクレイはまだまだ初心者なんです。そんな強いモンスターといきなり戦えませんよ!」
普段は世話焼きで無鉄砲なミーナだが、どうやらまだまだ自分たちが未熟である自覚は持てているようだ。
まあ、ミーナはあの感動的な【聖女】覚醒イベントを行わないと、ただの凡人の治癒師だからな。
妥当な判断だと思う。流石は俺の推し、いや婚約者だ。
受付のお姉さんも落ち着きを取り戻したようで、はっとしていつもの冷静な表情に戻った。
「すみません。確かに新人のうちが一番危ないのが冒険者ですからね。焦らせてすみませんでした……」
受付のお姉さんが頭を下げたので、俺は大袈裟に両手を掲げた。
「そんな。頭を上げてください。俺たちはジョブも最低職ですし、この強さも実家で努力していたからです。冒険者ランク的に見たらEからDまでが限界ですよ」
冒険者ランクはFが最下級。それから順にランクが上がり、Aが上位級。Sが最上級だ。
俺の言うDランクはようやく一人前程度のランクで、言ってみれば普通の中の普通だ。
つまり俺は自分の口から自分たちはスタートダッシュが早かっただけで、普通の域を出ないと釘を刺しておいたわけだ。
お姉さんも納得してくれたようで、営業スマイルで微笑んだ。
「確かにおふたりの言う通りですね。あまり焦って上を目指し過ぎて命を落としたら大変ですしね。でも昇級試験はいつでも受けられるようにしておくので、いつでも挑戦をお待ちしております」
「はい。ありがとうございます」
とは言っても、絶対に昇級なんてしないけどね。いざ強制的に受けろと言われても適当に手を抜いて落ちるつもりだ。
ミーナも治癒師なので、単独ではFランクの域を超えない。それが落ちこぼれ聖女に課せられた使命だからだ。
それと俺の本当の強さはおそらくだが、Bランクだ。世界的に見ても中の上くらいしかない。
でも序盤の街では絶対に目立つことになるので、どんなことがあっても正体は隠し通すつもりだ。
すると、お姉さんはようやく今日の討伐報酬をくれるみたいで、いそいそと準備をしていた。
お姉さんが出した額は当初予定していた通り銅貨八枚だった。
「こちらが報酬となります。お納めくださいませ!」
「ありがとうございます」
俺は銅貨八枚を受け取り、半分の四枚をミーナに握らせた。
「ふたりで頑張ったからな。分け前も半分ずつだ!」
「うん。ありがとね。クレイ」
こうしてふたりで分けて、今日の稼ぎは日本円に換算すると四千円だ。最初は目立たないように十匹討伐にしておくつもりだが、いずれはニ十匹討伐か、採取クエストも兼用する予定だ。
そうすれば日給八千円。週休二日で、税金で引かれても、十五万円は稼げるだろう。
行き帰り含めて、一日三時間ノーストレスで、最低限稼げるのだ。こんな上手い仕事は他には存在しない。
おそらく畑を耕すより楽だろう。
長年の社畜経験に則った通りだ。人生は前半に努力していた奴が楽できるシステムになっているのだ。
前世ではゲームばかりして、Fラン大学にしか行かなかったから、あんな底辺みたいな労働環境で地獄を見たが、ここまでストレスなく効率良く最低限稼げるのも努力を積み重ねた結果なのだ。
俺たちは日銭を受け取ったあと、受付のお姉さんに軽く会釈した。受付のお姉さんは営業スタイルで対応した。
「本日もクエストお疲れ様でした。またのご利用お待ちしております」
そのまま受付窓口から離れて、残りの可処分時間をどう使うか、ミーナと話し合うことにした。
「このあとどうする?」
ミーナは俺に木製のお弁当箱を差し出した。
「まずはいつも噴水でお弁当でも食べようよ? わたしお腹空いちゃった……」
「そうだな。まずは腹ごしらえが先か……。噴水へ行くぞ!」
「りょーかいだよ!」
噴水に向かうためギルドを出ると、辺りはお昼の買い出しに来た人たちで溢れかえっていた。
中にはベンチでお弁当を食べている人もいる。俺たちも噴水のベンチまで移動した。
ゆっくりと椅子にもたれて、俺はミーナのお弁当を心待ちにしていた。
俺はミーナから木製のお弁当箱とナプキンとスプーンを受け取った。
「開けてみて?」
「ああ」
俺は弁当箱を開くと、そこには美味しそうなオムライスが入っていた。あまりにも美味そうなので、俺のテンションは思わず爆上がりしてしまった。
しかし、いい年こいたおっさんがオムライスでテンションマックスになるのは少し恥ずかしい。
俺は落ち着いた表情で、手を合わせた。
「女神よ。ささやかなる糧に感謝を。いただきます……」
俺は一口食べると、思わず舌鼓を打った。なんという美味なのだろうか。
思わずスプーンが止まらず一分でオムライスを完食してしまった。
「ご馳走様。美味かったよ」
ミーナは嬉しそうにしながらも半分呆れていた。
「もう。クレイったら、そんなに早く食べたら消化に悪いよ?」
「すまない……」
いい年して焦って食い過ぎたか。どうも身体が若返ったせいで、食欲も十代並みになっている。
恥ずかしそうに静かに謝罪した俺に、ミーナは天使のように嬉しそうに笑った。
「でも最後まで食べてくれてすっごく嬉しかった。ありがとね!」
「……ああ」
俺はクールに接しながらも、一撃で心臓を撃ち抜かれた。俺の推しはやはり世界一可愛い。それだけは確定事項だ。
そのあとはベンチでお互いに肩を寄せ合って、静かに座りながら、幸せな時間を過ごした。




