第八話・とりあえずエルフ宇宙人側が宣戦布告……フォンリル星人が城に狼牙棒を担いでやって来た
心地よい風が森を吹き抜ける、晴れた日──森の中から現れた、狼牙棒を担いだフォンリル星人は、木々の間から漏れる日差しに目を細めた。
「いい天気だ」
フォンリル星人の後方には、メスのオオカミたちが控え。
中には子供を連れたオオカミもいた。
フォンリル星人の足元に走ってきた子供オオカミたちの頭を、しゃがんで撫でるフォンリル星人。
「父ちゃんちょっと、城に挨拶してくるからな……母ちゃんたちと一緒に待っていてくれ」
フォンリル星人は、メスオオカミが咥えていた、取っ手付きの紙袋を受け取ると、エルフ城に向かって歩きはじめた。
◇◇◇◇◇◇
城では人目がつかない場所に呼ばれた、アホ毛の幼女エルフが熟女の魔女エルフと対峙していた。
若作りの魔女エルフが、魔法の杖の先を幼女エルフに向けて、厳しい表情で言った。
「白状しなさい……この城に来た目的は何? あなた、死んでいるわね……生者のように見せかけているけれど、魂の色と大きさでわかる」
アホ毛の幼女エルフが何も答えないでいると、魔女エルフの眼光が炎と化した。
「答えなくても……だいたいの見当はついている、あの喰太郎さまに媚びる自然な態度……あなた、スパイね、認めなければ爆裂魔法で燃やすまで」
魔女エルフの杖から放たれた火球が、両目を閉じた幼女エルフに向かって発射される。
その時、飛び込んできた喰太郎の背中が、幼女エルフをかばって爆裂の火球を受ける。
驚く魔女エルフ。
「どうして? 喰太郎さま」
振り向いたら喰太郎は、魔女エルフに向かって爽やかに親指を立てて言った。
「幼女の尻はオレが守る……誰にも傷つけさせない」
「いやいやいや、一見カッコいいコト言っているみたいですけれど、すっごく恥ずかしいコト言っていますよ……大丈夫なんですか? 威力を抑えた火球でしたけれど」
「尻が傷つくことを考えたら、このくらいの背中の傷なんて」
「いやいやいや、花火程度の火力なんですけれど……喰太郎さま、その幼女はスパイですよ……たぶん」
喰太郎が幼女エルフを抱きしめて、尻を撫で回しながら言った。
「スパイも、オッパイも関係ない……女の尻はオレの友だちだ、スパイでもなんでもすればいい」
尻を執拗に撫で回されている、幼女の目から涙が溢れる。
その時──空を飛んできたスーパーガールエルフのシオが、喰太郎を空へと連れ去った。
「なに、幼い子供のお尻を触っているのよ! この異常者! ロリコン! 変質者!」
シオは空中で喰太郎を放り投げて、キャッチをする行動を繰り返した。
◇◇◇◇◇◇
エルフ城の城門前までやって来たフォンリル星人は、空中でシオに遊ばれている喰太郎を眺めていた。
「出直した方がいいかな……立て込んでいるみたいだし」
フォンリル星人が、どうしようか考えていると、背後から女性の声が聞こえてきた。
「オオカミの人、城に何かご用ですか?」
振り返ると異形エルフのクト子が、カゴを提げて立っていた。
クト子の体から突出した触手が、数匹のリスを捕らえている。
カゴの中には、何やら怪しい物体が蠢いていた。
それを見た、フォンリル星人が言った。
「ショゴスですか……原種の」
「まあ、これを見て何か言い当てた人は初めてです……城に御用なら案内しますよ」
そう言うとクト子は、城門を軽く押した門は簡単に開いた。
「鍵を掛けないのが、城主エルマの開かれた城内です……誰でも自由に城に出入りできます……どうぞ、中へ」
そう言ってクト子が先に立って歩き、フォンリル星人が後に続く。
後ろを歩きながらフォンリル星人が、クト子に質問する。
「その、触手で捕まえているリスどうするんですか?」
「食べるんですよ、丸呑みにすると、結構いけますよ……こんな風に」
触手が動いて、クト子の後頭部に開いた口に、暴れるリスを押し込んだ。
城内で放し飼いにされている、チュパカブラとコッカトリスが戯れている近くを通って、クト子とフォンリル星人は中庭のガゼボで、エルフの胸を揉んでいるエルマのところに行った。
クト子が、城で雑務をしている、エルフの胸を揉んでいるエルマを見て言った。
「あらぁ、そんなに胸を揉みたかったら……わたくしの胸でお相手して差し上げるのに」
クト子の胸が膨らむ。
それを見てエルマが言った。
「気持ちだけ受け取っておくよ……また、機会があったらクト子の胸も揉むから……そちらの、オオカミの方は?」
「城に御用がある方のようです、城門のところで会ってお連れしました」
フォンリル星人は、自己紹介をしてから、持参した紙袋をエルマに差し出す。
「訪問するのに、手ぶらだと失礼かと思いまして……エルフ星人のミルキーウェイが、店で焼いた森のパンを持っていくようにと」
「それは、ご丁寧に……あの、美味しいと評判の森のパン屋さんのパンですか……そうですか、あのパン屋でバイトをしていた看板娘のエルフは、宇宙人でしたか」
フォンリル星人は、さらにエルマの実の父親の悪霊王が、悪霊や地縛霊を集めてエルフたちに復讐するために、悪霊軍団の結成を企んでいて……その、悪霊軍団の構成が整ったとエルマに伝えた。
フォンリル星人は狼牙棒の柄で自分の肩をトントンしながら言った。
「まあ、我々が悪霊王に力を貸しているのは間違いないんですが……あの幽霊のおっさんに、軍団をまとめて、指揮できる器量があるかと問われれば……ちょっと」
「わかるぅ、そっか……あなたたち、宇宙人がアホ親父に力を貸している目的は?」
「それは、まだ秘密です……そこまでは、伝えないように口止めされていますから……幻獣宇宙人とか、幻獣生物も悪霊軍団とは別に計画のために動くかも知れません……ヤギ男とかカエル男の星人とか、ドラゴンとかの合成幻獣生物も」
フォンリル星人が話しをしている、中庭の片隅には城内を徘徊している、フラットウッズ・モンスターの姿や。
ナイトウォーカーや、ナイトクローラーと呼ばれている生き物の姿もあった。
城主のエルマは、そういった異形のモノに対しては寛大な放任主義だった──エルマいわく、城内を彷徨いている変なモノは、田舎の自由なネコと同じ感覚らしい。
石のベンチから立ち上がってフォンリル星人が言った。
「それでは、今日はこれで……基本的にわたしたちは、残された預言の目的さえ果たせられればいいんですが……ミルキーの本心は、あまり乗り気ではないようです」
「わかった……オレもエルフを守るためには、降りかかる火の粉は払わないといけない……それは先に宣言しておく」
エルマとフォンリル星人が固い握手を交わしていた時──空中から喰太郎が斜めに墜落してきた。
喰太郎に続いてマントをヒラヒラさせて、フワッと着陸してきたシオが舌を出しながら言った。
「わりぃ、空中でキャッチし損ねた……特別にお尻を触らせてあげるから、それで許して」
シオが喰太郎の方にしゃがんで、青い超人スーツに包まれた尻を近づけると、喰太郎は手を伸ばしてシオの尻を触った。
エルフ城に胸と尻を触る、平和な時間が流れていた──この後に、悪霊王と化したエルマの父親との、笑える戦いが待っているとは……この時はまだ、誰も知る由もなかった。