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第四話・エルマ王子、死んだ親父の悪霊にブチ切れる

 その日──上半身がエルフのエルフケンタウロスの、(くら)乗って(あぶみ)に足をかけた喰太郎は。

 エルフケンタウロスの傍らを並んで歩く、第三王子エルマとエルフの従者と一緒に、エルマが案内したい場所に向かっていた。


 エルフケンタウロスの口にくわえた、馬銜(はみ)に繋っている手綱を持って進んでいる喰太郎が、歩いているエルマに質問する。

「どうして、王子のエルマがエルフケンタウロスに乗らないで、別世界から来たオレが乗ってもいいのか?」

「王子はやめてくれ、エルフマニアのエルマでいい……オレが乗ると、どうしてもムラムラしてエルフケンタウロスの胸を触ってしまって……振り落とされるからな」

 そう言って、エルマは自分の胸を代用で触る。


 王冠の呪いで、どうしてもエルフの胸を触りたくなったら自分の胸を代用で触ってもいいように。

 エルフたちが、国名をつけてくれたコトのお礼に呪い調整してくれた。

 これは、喰太郎の緊箍児(きんこじ)にも、同様の呪い調整がされている。


  ◇◇◇◇◇◇


 一行がしばらく進むと、コケが岩肌をおおった山の(ふもと)に空いた洞窟に到着した。

 洞窟の中から、男性の怒鳴り声が聞こえていた。

「バーロー、わたしは亡霊になっても元王様だぞ! こんな洞窟に封印して、ただですむと思うな! バカヤロウ!」

 かなり口が悪い男の声だった。


 エルマが先頭になって洞窟を進む……前方に松明の明かりが見えて、槍を持って防具に身を固めた二人のエルフ兵士が、平らな石から立ち上がってエルマに対して一礼する。


 壁に護符が貼られて牢獄のようになった、洞窟の袋小路空間に青白い顔色をした一人のヒゲ男が立っていた。

 男の周囲には、青白い人魂が飛び回っている。

 ヒゲ男がエルマを睨みながら言った。

「おまえ、よく実の父親をこんな場所に平然と封印できるな」

「オレは種男のあんたを、父親だなんて思っていない……エルフのお袋からよく聞かされたぞ……酔っぱらった、あんたが寝ていたお袋の寝所に侵入して、その時に、こぼれた種でオレが生まれたんだってな」

「おおそうだ、オレの一発が命中しておまえが誕生した」

「そういう下品な言い方やめろ!」


 エルマが剣を抜いて、亡霊となった実の父親に切っ先を向けて言った。

「答えろ、死んだおまえに、誰が半実体化の力を貸している」

「バーカ、誰が言うか実の父親に剣を向ける、親不孝息子に」


「おまえが、それを言うか! エルフのお袋を孕ませてオレを生ませだけで懲りずに……オレが成長した数年後のシラス漁をしていた時期に、集会していたエルフのレディースグループに酒に酔って乱入してボコられて死んだ人間が」


 エルマの実の父親は、こともあろうにまたエルフの国にやって来て乱暴を働こうとしてボコられて……死んだ。

 エルマの父親が、反省もせずに、耳の穴を指でほじくりながら言った。

「おまえの、弟か妹を作ってやろうとしただけだ」

「ふざけるなバカ親父! あんたが、死ぬのは勝手だけれどな……その死んだ未練を悪霊化してエルフたちに、ぶつけるな! 迷惑だ! オレはエルフを守る」


 エルマが父親の亡霊に一太刀浴びせる、剣は自称悪霊王を名乗る父親の霊体を、少しだけ揺らしただけだった。

 悪霊王が、ふてぶてしい笑みを浮かべて言った。

「効かんなぁ……そんな物理攻撃は」

「腹立つ……ちょっと、待っていろ」


 エルマは、結界の外に出ると胸が大きいエルフの兵士に、両手を合わせた。

「頼む、胸触らせてくれ……自分の胸を触るくらいじゃ、パワーが出ない」

 少し考える素振りをしてから、巨乳のエルフ兵士は胸当てを外した胸を、エルマの方に突き出して言った。


「服胸か……まぁ、我慢しよう」

 エルマが、エルフの胸を揉み回すと、エルマの全身に力がみなぎってきた。

「きたきたきたきた! 乳パワー最高!」


 エルマが握った剣に、母性のパワーが宿る。

 エルマが、その剣で亡霊になった父親をぶった斬る。

「悪霊退散! 乳は剣より強し」

 何度も寸断されて、悲鳴を上げる悪霊王。

「ぎゃあああ、痛い、痛い!」

 斬られても、斬られてもすぐに半実体化している霊体は、元の状態に戻るので無限の苦痛が悪霊王に続く。

 ブチ切れた悪霊王が、エルマに反撃を試みて殴りかかる。

「調子に乗るな! 追放されたバカ息子!」


 悪霊王の拳は、無情にもエルマの体をスリ抜ける。

 不敵に笑う第三王子エルマ。

「効かんなぁ……そんな親父のパンチ、おらおらおら、歯を食いしばれ!」

 ボッコボッコに切り裂いて、地面にうつ伏せで倒れた悪霊王を見て、エルマは剣を鞘に収めた。

「今日はこのくらいで勘弁してやる、必ず力を貸している者をつきとめるからな……エルフの国『ニュー・エルフニア』は、オレが守る」

 うつ伏せで倒れている悪霊王が小声で。

「だっせぇ、国名」

 と、言ったのが聞こえたエルマは、ふたたび剣を引き抜いて、霊体親父の背中を突き刺した。

「ぐえっ」


★エルマの父親である王も、先代の国王の一夜の過ちで生まれた子供で、他に世継ぎがいなかったので養子にして王位を継がせた庶民王です。その父親の二人の息子〔エルマの二人の兄〕は、典型的な王族気質で世間では「ミイデラゴミムシからヘラクレスカブトムシが生まれた」と揶揄されるほどでした。

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