第三話・お決まりの第三王子エルマ追放……本人にとっては好都合♪
喰太郎は、その日の城の晩餐にエルマから招待された。
エルマが釜揚げシラス丼を食べながら、身の上話しを勝手にはじめた。
「オレは、元々母子家庭でシラス漁をしていた……オレの育ての父親は、オレがガキの時に男のロマンとか言って、白鯨に挑んで喰われて死んだ……大人しく二代目フィッシャーマンを名乗って、シラス漁してりゃあ良かったのにな」
エルマが近くに給仕にきたエルフの、胸を触ろうとするとエルマがかぶっている王冠が収縮して、ギリギリとエルマの頭を締めつける。
「ぐおぉぉぉ! 頭が! 頭がぁ!」
エルマの前に置かれた木製カップに、飲み物を注いだエルフ給仕が微笑みながら言った。
「ほほほほっ、忘れたんですか……相手の合意を得ないで、胸を触ろうとすると頭を締めつける〝エルフの呪いの王冠〟だというコトを」
痛みが治まったエルマを、少し可哀想にと思いながら近くにいたエルフ給仕の尻に手を伸ばした喰太郎の頭に、別のエルフが。
「ほいっ」と、孫悟空が、かぶっているような金色の輪っか──緊箍児をかぶせる。
途端にエルフの尻を触ろうとした、喰太郎の頭蓋骨から軋む音が聞こえてきた。
「ぐおぉぉぉ! 頭が、頭がぁ!」
頭の輪っかが、締まった理由はエルフに聞くまでも無かった。
エルマの身の上話しは続く。
「オレが平和にシラス漁をしていた、ある日いきなり隣国城からの使者だと名乗る者が、やって来てオレを、隣の大国に連れて行った……そこで、オレには母親違いの兄二人がいるコトが判明した」
皿に乗った酢漬けのママカリで飯を食べながら、喰太郎がエルマに訊ねる。
「それで、どうなったんだ?」
ちなみに、最近の異世界は喰太郎がいたような現世界との交流や接点を持っている世界も多く、現世界のモノも普通に異世界に存在する。
「なんでも、オレの本当の父親は兄王子二人の父親と同じで、オレには王族の血も流れているらしい……その実の父親がオレがシラス漁をしていた、エルフ国で亡くなったから急遽オレが隣国の城に呼ばれたってワケだ」
給仕をしているエルフが横から口を挟む。
「ちょうど、隣の大国の属国扱いだった、このエルフの国には国を統治する者が居なかったので、隣国の王子たちはこれ幸いにと第三王子を追放して、エルフ国の王に無理やりしたんですよ」
「どうして、そんな面倒なコトを……城に呼んでから?」
給仕エルフが、喰太郎の木製カップに飲み物を注ぎながら、尻を喰太郎の方に向ける。
喰太郎がエルフの尻を触っても、頭の締めつけは起こらなかった。
シラス丼を食べ終わったエルマが、お茶をすすってから爪楊枝をくわえて言った。
「城の体裁だろう……このエルフの国に追放されたのは、オレにとっては好都合だった──オレはエルフたちを国内外の敵から守って、エルフを増やしてエルフの楽園を作る!」
喰太郎がエルマの言葉に同調するように、親指を立てる。
「その考えにオレも賛同する……幼女エルフとエルフの尻に栄光あれ」
「熟女エルフとエルフの胸に栄光あれ……喰太郎と一緒にエルフの楽園を作る!」
二人の意気込みを、晩餐に参加して聞いていた乳牛エルフのホルスタインと、海洋エルフのツナは。
(どうでもいいわ)と、思った。
喰太郎がエルマに訊ねる。
「ところで、このエルフ国の正式な国名はなんだ?」
「国名かぁ、実はまだ決まっていない……ボキャブラリーが無くて、なかなか良い国名が決まらなくてな」
それを聞いたホルスタインと、ツナは。
(おいおい、勝手に国名まで決めるなよ)と思った。
喰太郎がエルマに近づいて、耳元で囁く。
「……って、国名はどうだ、オレを突き飛ばしたクラスメイトの女が、ノートの隅に書いてあった名称なんだけれど」
「それいいな、採用! 誰か墨と和紙を持ってきてくれ」
エルマは墨をすって、和紙に国名を書いた。
『ニュー・エルフニア』
書き終わった国名の和紙を、エルマは裁判で勝訴した場面のように、城内を走り回ってエルフたちに見せて回った。