表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

昭和の学校9

それから数日が経ったある日、僕は署名集めの為、朝夕と校門の前に立ち在校生に向けて署名をお願いした。

「校則の丸刈り廃止の署名にご協力をお願いします。」始めは、少なかった署名も妙子やぽかちゃん達が男女を超えて署名集めに協力してくれたおかげで、全校生徒の三分の二以上の署名をもらうことができた。その署名を校長先生に提出し後日全体会議が開かれることになった。全体会議では、生徒から丸刈り廃止の意見や先生から校則改正反対の意見が述べられた。

「中学生として、勉学に、スポーツに専念する為、学生らしい服装身なりは、必要で今後も改正すべきではない」そんな意見を述べる先生もいた。

それに対し、あんなに普段おとなしく自分から意見を言わないぽかちゃんまでが、

「先生、髪型は、本来人間であれば、憲法でも個人の自由が規定されており、私にとっても髪は女の命なんです」と泣きながら発言する。確かにしかしぽかちゃんは本当は女だったのか?そんな思いをその言葉から僕は感じた。


その発言が発端となり、他の男子生徒も積極的に丸刈り廃止の発言が相次ぎ丸刈りの校則は廃止になった。しかし丸刈りが廃止になった後も僕は、それ以降も丸刈りを続けた。丸刈りがあんなにいやだった僕が、それを続けたのは、理容代金が長髪より七百円も安かったからである。中学生にとって七百円は大金である。母親からは、長髪代金をもらい差額は懐に入れるのである。母ちゃんも丸刈り代金など知るよしも無く、余ったお金で好きなお好み焼きや漫画を借りるのである。学校近くの商店街はそんな余り金やおこずかいを使う魅力的な店でいっぱいだった。

 ある日いきつけのお好み焼屋へ友達三人と来店する。赤提灯が店の入口に架かり古い暖簾をくぐると、大人六人程が座れる四角い形の大きな鉄板がある。「いらしゃいよ、どっこいしょ」七十半ばの老婆が、椅子から立ち上がり僕達を迎える。老婆は、鉄板の一面に立ちお好み焼を焼く。後の友達二人と僕は他の面に座り注文する。注文といっても、メニューはお好み焼だけだ。一枚二百円のお好み焼きである。七百円の理容代を浮かして、お好み焼を三回食べても百円残る計算だ。僕や友達みんなも腹ペコである。老婆が、お好み焼きの土台となる練り物を三枚鉄板の上に置く。崩れないほどに薄く微妙に焼いている生地の上に具材を入れて行く。老婆は、具材の入った小さな木の引き出しのある入れ物を手に持ち、これまた薄く切ったソーセージを数えながら絶妙に入れて行く。その薄いソーセージを入れる時に、みんなの顔も一緒に動いており、自分のお好み焼きには、ちゃんと数を間違えず入れているかを目で追っているのを見ている。たかがお好み焼きだが、当時はおばさんと少年三人の真剣勝負を見ているようで実に漫画のような光景だった。お好み焼を食べた後満腹になり、これから家に帰りまた母ちゃんの晩御飯を食べれるか不安になっていた。なぜならば、夕食前にお好み焼を食べたなど母ちゃんにわかると、いったいどこにそんなもの食べるお金があるのとか、夕食は食べたくないのとか、こっぴどく叱られる為、無理してでも家で夕食をたべなければならない。そんな苦痛に思いをはせ、不安な足取りで帰宅した。 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ