昭和の学校12
中学一年生の夏を迎えた。僕は相変わらず勉強が嫌いで成績もビリから数えたほうが早い位置に陣取っていた。放課後の残業部屋へも常連のごとく出席していた。そんなある日の事、残業部屋に新顔が入って来た。よく見ると同じクラスの妙子である。妙子は吉川妙子という女性徒でクラス一の美人である。また勉強も学年でトップクラス性格も良く僕も片思いで、僕にとっては彼女は常に高嶺の花であり、遠くから見ている存在だった。そんな妙子がなぜか「妙子珍しく赤点とったのか」僕は彼女にそう言った。「赤点じゃなくて、家庭の事情で学校休んだんで、補修で残っているの」家庭の事情って良くわからないが、まあいつものさえないメンバーといるよりは、精神的にも張合いがあり、長く感じる残業時間も楽しく過ごせるのでどこか嬉しく感じた。しかし、それとは別にもうひとり、これまた美男子スポーツも万能の中川光という名前の同級生がいる。彼も頭は良いので、残業部屋など来るやつでもない。しかし彼も風邪で学校を休んでいたのでこの部屋へ来たようだ。そんな残業部屋とは縁のないふたりが机を並べ座っている。そればかりか妙子が光が休んた授業の分を教えているではないか。光と妙子は本当に仲が良い僕は横目でそんなふたりを見つめながらどこか心がいたたまれなくなり嫉妬していた。 中学校は、小学校と違い定期テストがある。そして優秀な生徒は、学校内の廊下に張り出される。全学年三百人の僕の中学校では、上位二十番までは貼り出され各科目の上位五名も貼り出される。所詮ビリから数えたほうが早い僕だからそんなことは、どうでも良いことである。やはり貼り出されたのは、常連の妙子と中川光だった。それを見ていて少し悔しい思いもあるが、頭が悪いのは親譲りだから仕方がない。そう思いながら僕は掲示版を見つめていた。教室へ戻ると、あの熱血赤石先生が、こう言った。「まだまだ、みんな勉強が足りんもっともっと頑張らないといかんぞ、一部の生徒だけ成績が上がってもいかん、クラスみんなが成績を上げないと・・・」ようするにみんな血の小便が出るほど勉強せいとの事だった。それから先生は、ますます熱血ぶりが加速し、週に一回自宅を家庭訪問していたものを、週に二回から多い時は三回も訪問するようになっていた。そんなに頻繁に訪問されるものだから、僕は残業部屋で残業した後また家でも家庭訪問されていた。勉強嫌いの僕は、どんなに勉強しろといわれても、なかなかやる気が起らないのである。今日から真剣に勉強するぞと思っても、テレビや他の遊びなどの誘惑が入り、前に進めない。そんな時、父ちゃんが普段勉強をしない僕が学校に残ってまで勉強しまた家でも勉強しているものだから、時には頭を休めて遊んで来いとばかりに、組合からもらった東京ベアーズの野球観戦チケットを三枚を僕にくれた。ベアーズのチケットなんてなかなか手に入らない品物である。残業部屋の常連で野球部の友達と一緒に行くこともできるが、あんな男友達と行っても仕方ないのである。このチケットは、やはり大好きな妙子と行こうと思い後日彼女を誘うことにした。 学校で彼女を誘うには、なかなかタイミングが難しい。そこで、僕は彼女の家へ直接電話をかけることにした。ある日の日曜日、公衆電話から妙子の家へ直接電話すると、男性の声で「もしもし、妙子に何の用ですが?妙子は今風呂に入ってます」何と妙子の父ちゃんが出てしまった。しばらくしてまた電話をすると、また父ちゃんが出て来てなかなかつながらない。携帯電話のない時代その内、公衆電話ボックスには、何人かの待ち客がいて長電話はできない。こんなことなら家から電話すれば良いのだが、ばあちゃんや父ちゃんなど家族が居ては恥ずかしい。そんなわけで後日僕は学校で、誘うことにした。