昭和の学校11
いままで、当時多くの僕が中学時代お世話になった先生を紹介して来たが、何といっもこの人は一番お世話になった先生であり、私の人生に多大の影響を与えてくれた先生である。先生の名前は、赤石芳郎 通称熱血先生である。この先生はとにかく、勉強熱心で中学校での勉強は、長い人生においても大変重要な時間であり、この三年間は、血の小便が出るほど勉強に励む時期であると良く言っていた。先生自身も学生時代本当に血の小便が出る程勉強したそうである。僕はその言葉を聞いて、そんなに学校の勉強しなくたって、僕は漁師にはなれるから良いもんなど思っていた。そんな人間離れした文句を口癖に僕達をスパルタ教育し、勉強をさせるつもりなのである。
先生の授業が始まった。まず先生は、教壇に立ちこう僕達に質問した。
「君達は何の為に中学校で勉強するのかわかっていますか?」いきなり何を言っているんだよ。勉強嫌いの僕がそんなのことわかるわけないだろう。義務教育だからたとえ学校へ行くのが嫌いでも、行かないと社会に出られないんだよ。小学校卒だけで義務教育が終われば、来ないよ中学校なんて・・・・・と心の中で思いながらも、口に出して先生に言う勇気も無く。ただ、ただ、黙り込んでいた。僕以外のクラスのみんなも誰一人この質問に返す言葉も無い。静まり返った教室に、暫くすると先生の目線が僕と会い「坂田、わかるか?」「そんなの義務教育だからでしょう?」僕はあたり前のように先生に言った。
「それならばなぜ義務教育で勉強しないといけないんでしょうか?」「国が勉強しろって言うからでしょう」僕の頭では、お国が決めたことにとやかく言える身分でも無くそれに従って登校しているだけなのだ。すると先生は、黒板に(選択)と言う字を書いた。そして先生はみんなに向けてこう語り始めた。「この選択とは、人生とは宿命以外すべて選択の繰り返しです。男性に生まれたとか女性に生まれたとか自分で選択できない物が宿命です。君達が、数ある学校の中で、この中学校を選んだのも、また今日昼ご飯何を食べようかと思う事も、あらゆる日常生活で人生はこの先選択の繰り返しなんです。その選択が果たして間違っているのか、間違っていないのかを判断する為には、最低限の知識が必要です。その知識を得る為の学校が義務教育なのです。その為に中学校までの勉強は大変大事なんです。」
先生は、その選択と言う言葉を繰り返し僕達に伝え、改めて中学校で勉強する事の重要性を語った。この先生はとにかく勉強熱心で、国語担当の教師であったが、なぜか体育や音楽など以外の主要五科目全教科を教える事ができる教員免許を持っており、専門以外でも解らないことがあったらすぐに聞きにこいと言っていた。まあ、それだけであれば良いのだが、とにかく家に帰っても勉強をするように言われ、わざわざ生徒の自宅を夜に家庭訪問するのである。僕の家にも週に何度か訪問に来た。
僕がいつものように、自宅でテレビ漫画を見ていると、玄関のチャイムが鳴った。紺色の背広姿で立っていたのはあの赤石先生である。「今晩は、川上中学校の赤石です。坂田君勉強してますか?」母ちゃんが出て先生と何か喋っている。「あ、先生いつも息子がお世話になっています。ひろしですね。すぐ呼んで来ます」そう言ってテレビを見ている僕を呼びに来る。「先生今、国語の勉強をしてました。なかなか、読解力が無くて時間がかかってます」「そうか、それは、頑張ってるな、あまり無理しなしでやってくれ」僕が先生にそう嘘を言いその場をしのいでいると、玄関の横にあるトイレから、小便が終わり、ばあちゃんが出て来た。「ひろし、もう漫画は終わったか、時には、ばあちゃんの好きな時代劇でも見せてくれよ、学生はテレビばっかり見らず勉強せにゃー」ばぁちゃんの言葉に先生は、少しうなずきながら「そういう事か、わかった今からでも良いから勉強して終わったら先生の家に電話してくれ」そう言って先生は自宅の電話番号を教え帰って行った。とんだ、ばあちゃんのお蔭で先生に怒られてしまった。