昭和の学校 1
僕が体験した昭和の学校はとにかく面白い人が多かった。現在では到底考えられない出来事の数々みんなに聞いてほしいから書きました。
時代は昭和四十年代、僕はある中学校に入学した。入学と言っても義務教育なので、試験も無く小学校さえ卒業していれば、自動的にその校区にある中学校に進学できるのである。成績が優秀で家庭に経済的な余裕があれば、私立や遠く離れた校区以外の学校にも進学できるのだが、ごく普通の家庭で暮らし、学校の成績も後ろから数えたほうが早い僕にとって自分の意思で校区以外の学校に進学することは不可能であり、校区内の学校が好きか嫌いかを選択する身分でも無く、義務教育だという理由で当時は校区内の中学校へ通うことにした。
小学校の卒業式が終わり、母に連れられ通学用のカバンや帽子、制服合わせなどの為に今春入学予定の中学校へ訪れる。学校の入り口付近で立ち止まり、校外から校舎の全景を眺める。ここが中学校か・・・自宅からは遠く普段ほとんど間地かに見る事が無かった中学校。校門近くにある掲示板も小学校の掲示板のように、ひらがなばかりで多くが書かれているのでは無く、漢字が多く少し中学生は大人びて見える。校内には、この学校の在校生である中学生が掃除の時間であろうか、雑巾で拭き掃除をしている。小学生を終えたばかりの僕から、先輩である中学生の顔を見ると、妙に大人びて見える。少年時代を改めて振り返って見ると、小学生の時は、中学生を見ると大人びて見え、高校生を見るともう立派な大人に見えた。大学生などは、もう両親と同じように見える存在だった。それは、中学生の時だった。高校野球で地元の高校が甲子園に出場し勝ち進んでいた。その時僕は、知人でも親戚でも無い選手を、まるで自分の身内のように応援していた。しかし、テレビのチャンネルを変え地元の大学野球を見ていると、そこには七三分けの長髪に野球帽を被り試合をしている大学生が映っていた。それを見るとなぜか高校野球に比べ応援する気にはならなかった。こんな叔父さんが、野球をしている。まるでシニアの人が近所の公園で遊んでいる草野球のように見えた。それほど当時、自分と少しでも年齢が違うと、高校生以上はすべて私の目には大人に見えていた。
学校内に入ると、沢山の業者が学校用品や制服などを販売している。周りを見渡すと、顔見知りの児童もいれば、ほんど顔も話もしたことも無いような児童の顔もいる。ここに居るみんなも、僕と一緒に入学するんだなと心の中で思いながら周りにいる生徒を見回す。馴染みの顔が少ないのは、この学校が近隣の小学校の卒業生三校が通う校区から持ち上がりで進学して来るからである。
「おーい坂田おまえも来てたのか」そう言いながら近寄って来る男子生徒がいる。
「何だよ、とおる、本当にとおるか、その髪はいったいどうしたの?」
僕はその時彼の余りの変わりように驚きそう言った。同じ小学校の同級生で、一週間前の卒業式では長髪で少しカール掛かった髪型をしていた山岡とおる、通称山ちゃんが、何処かのお寺のお坊さんのように坊主頭の髪型になっている、まるで別人のように変わっていた。
「びっくりしただろう、あと十日ほどでこの学校の入学式だけど、あまり近くなって髪
切りたくなくってさ、もう切っちゃったのさ、お前はまだ切らないのか?」
「切るって髪を切るかって、まだこの前、床屋に行ったばかりだから、俺は入学してから切るよ」今更中学校に入学するくらいでオシャレすることもないと僕はその時は思っていた。
「何のんびりしてんだよ、入学式までは校則で男子は丸刈りにするようにて書いてあるらしいよ」
僕はその時彼の言葉に耳を疑いこう言った。
「なんだって、校則で丸刈りにするってのか?それまじかよ、そんなの聞いてないよ」
「聞いてないもなにも、みんな知ってるよ」とおるは、今更そんなことも知らないのかという驚いた表情でそう言った。
「それなら、おれこんな学校行かねぇよ」僕はその時、丸刈りにするのがいやでいやでたまらなくそう言った。しかしそんな生徒にとって重要な事は、小学校の先生も早く僕達に伝えるべきであるとも思うが、しかし今考えると小学校ではそもそも先生が、生徒一人ひとりが各自違う中学校に通うのに、わざわざ卒業して進学する中学校に関する服装や頭髪のスタイルなどを伝える義務などはないのである。しかし一般の児童は早くから次進学する中学校への憧れや不安から早めに自ら調べ、自分に適した中学校を受験したりしていた。その時この学校が入学すると丸刈りにすると言うことは、良く考えて見ると前からどうも同級生男子の会話で不思議に思う点が見受けられたことを思い出す。それは、小学校六年生の二学期にある生徒が私立中学に進学するとの事で、その生徒に対しとおるがこう言っていた。
「おまえ、私立の中学進学だって、いいな金持ちは、俺なんて貧乏寺の息子だから、
このまま進学して坊主になるしかないんだよ」
僕はその時、山ちゃんは、てっきり将来お坊さんを継ぐ為、仏教系の学校に行くものと勘違いしていた。
やはり中学校は坊主にするのか・・・僕はそれを山ちゃんから聞いて愕然とした。しかしもう入学式まで時間が無い。てっきり早く丸狩りをする為散髪へ行かないと・・・