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とある異世界ゲッサープレイヤーの配信にて


イージーでは、母国語で遊べます。常識の範囲内です。

ノーマルでは、外国語で遊べます。外国のマナーも学べます。

ハードでは、第二外国語で遊べます。マナーに気を付けましょう。NPCの好感度にマイナス補正がかかります。

エクストラでは、ランダムに生成された自然言語で遊べます。未知なるマナーを守れないと捕まる可能性があります。


「さて、それでは始めて行きましょう異世界ゲッサー」


 今回は制限なしのエクストラモードではじめていきます。


 知らない土地に放り出されて、地名を当てるVRゲーム地球ゲッサーの派生として生まれた異世界ゲッサー。生成されるワールドの奥深さが人気の理由ですよね。


 言語も文明の縛りもないリアル異世界転生してみましょう。使用言語を英語や学習したい言語にすることで、語学も上達するゲームなんですが、自動生成される自然言語にした途端に難易度が爆上がりして正気の沙汰ではなくなります。


「せーのっ、スタート。どんっ。わあ、石の文明だ。これは運がいいかもしれないですね」


 石造りの町ともいえる場所に降り立った。人の喧騒が聞こえてきて、往来もはげしい。


「まずは初期装備の腕時計を見ます。時計についているコンパスを見ます。そして空を見ます。北半球に位置する場所……ちがう、太陽がふたつある? やはり異世界は理が違う」


 空が割れていたり地面が不安定だったりする現象はなく、足元はしっかりしている。


「安全を確かめた後には、耳を澄ませます。街ゆく人々の声は、土地を当てる大きな情報です。もちろん言語は違います。AIで生成された自然言語が採用されているためです。あ、まずいですね。ぜんっぜん聞き取れない。言葉は理解できないものの、これは屈折語か? SOV構文に近い? 冠詞があって……なるほど。わかりました。なに言ってるかわかんないよ……わからないことがわかりました。こういうときは、トライして言葉を集めましょう。現在地を割り出すためには、どこ?という言葉が欲しいです。そういうシチュエーションを作り出すパワープレイもあるんですけど、急いでないので今回は順当にやっていきましょう」


 広場のような場所で、歩いている人ではなく手持ちぶさたに立っているひとに対して声をかける。絹でできた洋服を着ている男のひとだった。赤茶けた髪をだらしなく伸ばして、人相は悪い。ズボンが黒く汚れている労働者階級の人間に見えた。


「こんにちは」


 さわやかな挨拶の返事としてかけられるのはツバだった。


「あるあるですね。言語が通じないときは、頑張ってコミュニケーションを続ける。別のひとに話しかける。殴るの三択ですね。第一村人は大事にしたいので粘り強く、こんにちは!」


 返ってきた言葉に注意を向ける。


 男は怒ったように、なにかを言った。


 言葉の最後に、ぼくを見ながらデーと言ったのを聞き逃さなかった。


 怒った男を指さして「デー」と言うと、さらに怒った。


 テーア……デー……デーとぼくを指さして未知の言葉を繰り返す。


「この感じ、言葉をふたつ手に入れましたね。たぶん、テーアは自分でデーは相手ですね? クア、クアーデ? クアーデ、デー? ちがうちがう、わたしはテーア? クアーテーア? おっとその顔、いま通じたね」


 オウム返しにあきれた男は、そこで立ち去ってしまった。


「おいしいな。よっしゃ。えー、たぶんテーアは自分で、デーは相手なのでクアーは、なに?ですかね。これで最強の呪文が唱えられるか? 人間は怒ると言葉がシンプルになる傾向があるので便利ですね。なんか言ってる? あ、最後去り際にFワード言った!! 悪口は言葉を知らなくてもわかるんですよ!?」


 まわりの人間はもちろんNPCだがAIを搭載していて、ぼくがおかしいやつとみなされてしまっていた。白い目で見つめられる空気を変えるために、そそくさと立ち去った。


「つぎに、町の端っこにいきましょう。あ、川ですね。文明は川のちかくに栄えるだけあって水源がちかくにあるとうれしいですよね。ここだけ見ると、どこかヨーロッパの雰囲気があります。さすが異世界だ」


 地球と異世界の歩き方には違いがあるんですよ。


「道端にうんこが落ちていませんね。これは地球ゲッサーで中世のヨーロッパに飛ぶと、道に散らばっているウンコモザイクでヨーロッパ推測が可能です。窓の下を通るなとは格言でして、上からウンコが降ってくるんですよね。12世紀から発明された靴の上から履くゲタみたいなものにパッテンというのがあって、有志はその形状を見ただけで地名を当てたことがありましたね。実際ぼくもレンガの積み方とかで国名や年代を見極める指標にはしていますが、残念ながらここは異世界ゲッサーなんですよね。常識は何の役にも立ちません」


 買い物終わりの女性たちが集まって話している。聞き耳を立てながら横切った。


「ああ、たぶんこの感覚は……言葉が違いますね。ちなみに言語を知るために話しかけるなら男性なら男性に声をかけたほうがいいです。女性と男性で言語が変わるところでは、女性言葉で話しかけるとその後の反応が変わってしまいますからね」


 町の端にはなにがあるか、お分かりですね。関所を兼ねる門です。門があれば、門番がいる。シンボルエンカウントできる人のなかで、彼らは確実に知っている言葉があります。そう、町の名前ですね。高い確率で国と町の名前を彼らから引き出すことができれば、無事にゲームクリアとなります。ほかにも文明が進んでいて図書館があれば、NPCと会話せずにクリアすることも可能です。二週間はかかるそうですので、コミュニケーションって大事ですよね。


「整理すると、この異世界の言語は屈折語で冠詞もあって文法がSOVで男性と女性で言葉が変化します。それを踏まえたうえで話しかけましょう。えー、ポイントがひとつ。門番は自治をつかさどる権力があるため、憲兵や兵士の役割をもつことがあります。つまり、ここで下手なことをすると捕まります。牢屋にぶちこまれると大幅な時間ロスになるため、うかつな行動には気を付けていきたいですね」


 門番は武装が許されている。死はゲームオーバーなので、せっかく積み上げたものがムダになってしまう。


「ちなみに、ぼくは異世界ゲッサーで話しかけるとき、すみませんと手を出したことがあります。不敬罪でわけもわからないまま捕まり、牢屋に入れられました。愚かにも両手を胸の前につけて謝ったところ、槍で突かれてゲームオーバーになったことがあります。意味がわからない。現実でも一部の地域では、店員さんを呼ぶときに手をあげて呼ぶのは失礼とされるところがあります。異世界の歩き方では、より注意していきたいですね。ちなみに高確率で中指を立てても大丈夫です。ほら、セーフ。異世界ゲッサーでは、こうして文明を反映させない努力のために現実の文化がおざなりになっているので非行が非行として足りえないところがあるんですよね」


 ようやく門番の役割を持つNPCのもとを訪れた。


「ええと、なにがクアーだから。クアー、デー?」


 テーアからはじまる言葉を、ぶつぶつと繰り返しながら聞いたあとに、もう一度シャドーイングした。

 長い言葉を聞いたところで、閃きがあった。


「門番さん大好き。わかっちゃったかも。たぶんいま地名を言ったんですが、すごい正しい発音をしてくれた気がします。土地の名前だけじゃなくて、領地か国の名前を言ったうえで、町の名前を言いましたよね。門番さん最高ー! えっと、クアー、ブルーディオラ?」


 門番の言葉をもとに発音を修正する。


「ブルグデオーラ? ここ? ここがブルグデオーラ? おっけい。ええと、もうひとつはたしか、クアー、リシュドール? リングシュドール?」


 リングシュドールは、と続き、門番はナチュラルに会話してくれる。一通り聞き終わった時点で、頭をさげてから離れた。


「異世界ジオゲッサーは誰に聞くかって点が非常に大事で、大きな館で一番偉いひとに、正しい挨拶をすると地名と名前を教えてくれたり、お城があれば謁見の間にいる一番偉い人の苗字にあたる部分が国の名前だったりと、メタなところがあります。今回は門番の人が鍵を握っていましたね。はじまりの村のNPCが村の名前を固定で言うように、門番が国と地名を言ってくれました。といっても、地名がわかれば、地名って何?って聞いた言葉を繰り返していくと答えにたどりつけるんですけどね。と、いうことで」


 答えがあってればいいけれど、と願いながら拾い集めた未知の言葉を唱える。


「ここは、リングシュドールのブルーディオラです!」


 少しの沈黙の後に、軽快な音が鳴った。


 空を見上げると虹がかかり、円を描く。それなりに良いスコアをとったときに現れるエフェクトだ。さらに、真っ赤な大きな鳥が虹を渡るように飛び去って行った。大きな虹色の羽が舞い落ちるエフェクトで、世界が祝福をしてくれる。


「正解だったー! よっしゃあ、幸先がいいですね。異世界ゲッサー、クリアです。今回は言語がたぶんゲルマン語派よりはラテン語派に近かったのかな。活用まではわからなかったんですけど、たぶん頑張れば習得したうえでグリムの法則とかで英語の対応を見つけられたぐらい完成度の高い限度でしたね」


 空から落ちる羽を一枚掴んで、振ってみる。ライトエフェクトが散る。


「もう、お分かりでしょう。異世界ゲッサーは、文化の壁と言語の壁に阻まれます。降り立った場所の人口が多ければ多いほど選択肢はありますが、少ないと村になじむために言語よりも文化の取得が必要になることがありますよね。お手軽に、これってもしかして異世界転生? そして、言語も文化もわからない。どうするんだ!? って現象を通じて、実際に言語も文化もわからないところに飛ぶことで異世界転生の準備ができる神ゲーです。地球のゲッサーに飽きたひとや、外国語モードで外国語を学びたいひと、制限なしモードで本当の異世界転生ロールプレイを楽しみたいひと、ぜひ異世界ゲッサーをやってみませんか、ということで次の異世界にいきましょうか」


 レッツゲッサー!



 




稚拙な部分も目に付いたと思います。読んでくださった読者さんへ、ありがとうございました。

語学について体系的な理解ができていないため、適切でない箇所があれば申し訳ございません。

今回は、AIと英会話をしていて思いついたネタを形にしてみました。


余談。

異世界ゲッサーのプロは10分以下でクリアします。

トップランカーは未知なる自然言語を聞いただけで単語を推測でき、5分でクリアします。

とあるプレイヤーは自分でつくった人工言語の町をつくり住み着きました。

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