アダマンタイト入手計画
裕樹とは一時間程話が弾んだが、忙しいという理由から近いうちにまた会おうという約束をして別れた。
今は商業ギルドを全世界に広める活動をしているそうだ。
「もっと長距離転移ができれば少しは楽になるんだがな」
「使えないんですか?」
「そうだな、トルンバからこの王都に転移したら魔力切れを起こす心配があるな。MP回復ポーションでもできてくれればいいんだが、錬金術師の奴らは何考えてるんだか話にならん」
裕樹が長距離の転移をできないのは魔力量の違だろうと納得するが、MP回復ポーションが無いというのに疑問を抱く。
錬金術師が秘匿しているとしても存在自体知られていないとはどういう事だろうか?
「あれっ、MP回復ポーションなら確か瑠紺さんから貰いましたよ。だからこの世界にもある筈です」
「そうなのか? 商業ギルドが掴んでいない情報があるという事か……」
何だか難しい顔で考え始めた裕樹に徇はアイテムボックスからMP回復ポーションを取り出して渡した。
「良かったら使ってください」
「良いのか?」
「はい、それより錬金釜が手に入ったら私も急いで作れるように頑張ります」
この国にMP回復ポーションが出回ってないのなら、徇は他の錬金術師に遠慮する事無く堂々と作れる。
そしてそれが裕樹の役にも立つのだと思えばやりがいもある。
「期待してるぞ。それじゃ悪いけど本当に急いでるんだまたな」
裕樹はそう言うと慌てて退出して行った。
本当に忙しい中時間を調整して会ってくれたのだと思うと申し訳なさも湧いたがちょっとだけ気分が良かった。
そして入れ替わるようにして入って来た職員に対応され徇は1億リット下ろせたが、錬金釜の進捗状況を知る事はできなかった。
「申し訳ありません、すぐには連絡が取れないので何日かお時間をいただきたいのです」
「じゃぁ、本人に聞きに行くからいいわ」
徇はそう結論付け、商業ギルドを後にすると魔法院へと戻り下ろした1億リットを早速寄付して錬金部屋をゲットする。
そしてその部屋に転移紋を設置してからラジャンバへと転移し商業ギルドを目指した。
商業ギルドの受付でレグリスに面会したいと言うと受付職員は徇の顔を覚えていたのかすぐに個室へと通された。
王都の個室程豪華ではなかったがやはり前回通された個室より良い部屋だったのには笑えた。
徇は何一つ変わっていないのに周りの対応が変わるって何か勘違いしてしまいそうでもあるが、正直そういう人達を愚かだと冷めた気持ちも持ってしまう。
「お待たせしました」
たいして待つことなくやって来たレグリスにそういえばこの人もその一人かと思う。
「急いで錬金釜が必要になったんですが、あれからどうなりましたか?」
「ただいま材料を揃えているところです。何分貴重な素材の上その素材を扱える職人も探さねばなりませんのでもう少しお時間をいただけませんでしょうか」
連絡を取るのにも時間のかかるこの世界で、そう簡単には物事は運ばないのだろうと徇は納得する。
それでも結果はすぐに見たい徇には悠長に待つという選択肢を持ち合わせてはいなかった。
「どこで手に入るか教えていただければ私が直に行って購入して来ます。それにどこか工房を貸していただければ自分で作りますよ」
「鍛冶もできるのですか!?」
「初めに言ってませんでしたっけ」
徇は言ったような記憶があったがまあ良いかとスルーしてレグリスの説明を待つ。
「ミスリルなら今採掘が盛んなグロスター領で比較的簡単に手に入りますが、プラチナは白金貨に使われているので少々難しいですね。そしてアダマンタイトとなりますと採掘されている場所も少なく少々難航しております」
徇は一瞬ミスリルでも良いかと妥協しそうな気持を抑え、トルンバに近いあの山脈で採掘できた事を思い出す。
「それじゃあ材料の方はどうにかしますから工房だけでも紹介してください」
「それでしたら私共と取引のある工房をいくつか当たらせていただきます。本当にそれで宜しいのですか?」
「ええ」
徇は念を押して来るレグリスに自信を持って答える。
ジェードには申し訳ないけどあの山脈に鉱山が作られ採掘が始まる前に採り尽くす勢いで探してみようと決めた。
徇を軽く見たあの爺さん(領主マサユキ)や領民に美味しい思いは簡単にはさせないという気持ちが強く湧いた。
(しばらくはアダマンタイトの練成と結界の確認しかできないな)
前回調子こいて初めて魔力切れを体験したので、今回はきちんと気をつけながら計画的に行こうと心に決める。
(そうだ。後瑠紺さんにMP回復ポーションをどこで手に入れたのかも聞かなくちゃ)
徇は帰ったら瑠紺に報告したい事や聞きたい事が山ほどあると考えながらレグリスと別れた。