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クレールラビリンス  作者: 橘可憐
王都を目指す
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魔法研究所


いつもより早くスッキリと目覚められた徇は身支度を整えるとそのまま王都のジェードの屋敷へと向かった。

朝食は部屋に運ばれて来ると言う話だったので、それまでに戻れるか心配だったが何の問題も無かった。


(朝食はいらないって言えばもう少しゆっくりできるのか?)


徇は運ばれて来た朝食を食べながら良い事を思い付いたと王都滞在中の専属侍女になったグリージョにその旨を伝え、これで明日からはもう少し朝はゆっくりできるようになったと胸を撫でおろす。


だってジェードが迎えに来るまで本当に暇だったんだよ。

まさか他人の屋敷内を用もなくウロウロする訳にもいかないし、部屋は広すぎて落ち着かないので本を読む気にもなれないし、本当に退屈で勿体ない時間を過ごすしかなかった。


「魔法院ってどんなとこか知ってる?」


あまりに退屈で部屋の隅に控えたグリージョに尋ねた。


「魔法の研究をしていると言う話ですが私も良くは知りません」


「魔法の研究かぁ…」


あまりに大雑把な説明に徇は余計に頭を捻る。

研究と一括りに言われても何をどう研究してるのか分からないので対策も取れない。

それにグリージョの余計な事は話せませんみたいな固い反応も気になる。


もっとも徇は信用されていないのだろうし、それが仕事なのだから仕方ない。

徇は予備知識を仕入れる事を諦めジェードが迎えに来るまでただただ退屈な時間を過ごした。


「お姉様~、私もご一緒しても構いませんわよねぇ」


ノックも無く扉が開かれ、ジェードより先に姿を現した妹のビアンコが徇に擦り寄る。


「だから遊びではないと言っているだろう」


「分かってますわ。でも女だから大人しく家に居ろと言う理由では納得できません。お姉様が行って良い場所なら私がご一緒しても宜しいのじゃありませんか」


「だからアマネは特別なんだよ」


「ですからどう特別なのか私は自分の目で確かめたいと言っているんです」


徇の目の前で繰り広げられる兄弟喧嘩の内容から自体は察する事はできた。

が、徇が口出しできる問題ではないように思えどちらの肩を持つ事もできなかった。


「いい加減にしないか。約束の時間に遅れてしまうだろう」


「私も一緒で良いと言ってくだされば済む問題ですわ」


「はぁーーー」


ジェードはなんだかんだ言ってビアンコに弱いのだろう。

大袈裟な溜息を吐いてみせ、返事に困っているような態度で徇に助けを求め視線をよこすが徇は敢えて知らん振りをする。


何にしても自己責任だ。決めるのならばちゃんと自分で決めるがいい。

第一この部屋にまでビアンコを連れてきた時点でジェードの返事は決まっているだろうに…。


上目遣いで目を潤ませ祈るようなポーズのビアンコにジェードは結局「大人しくするんだぞ」と同行を許した。

いったい何のパフォーマンスだったんだと徇は内心で少し呆れたが、兄弟仲が良いのは羨ましい限りだった。


そうして迫る約束の時間を気にしながら馬車に揺られ魔法院へと向かった。

魔法院は貴族街の石壁の外に有ったが、外側の石壁の中なので周りは結構閑散とした住宅街だ。

ジェードのお屋敷のように広くは無いが、ラジャンバのお屋敷程度には広い建物で、魔法研究所と言われなければ普通のお屋敷にしか思えなかった。


(こんな所でいったいどんな魔法の研究をしてるんだ?)


徇は本気で意味が分からなかった。

魔法の威力を上げる研究なら熟練度を上げる為にも魔法を使いまくるしかないというのに、屋敷の中で使える魔法など限られるだろう。

何にしても魔法を使わずに魔法の研究とは?……。


警備居ない門の前で馬車を止めて待つと中から出て来た人が門を開けどうぞと手で示す。

その後玄関前に横付けされた馬車から降りると玄関は大きく開かれ出迎えの人達が並んでいた。

貴族でもなく偉くもない徇はその応対に慣れずに思わず腰が引けてしまう。


「ようこそお出で頂きました」


「今日はよろしく頼む」


いつものジェードとは思えない貴族然とした態度に徇は少し驚いた。


「それで本日は魔力量測定と賢者判定と伺っておりますがどなたの判定をするのでしょう」


「このアマネを頼む」


いきなりの話に徇は訳も分からずただ茫然としていた。

魔力量の測定ができるの?

しかしそれにしても賢者判定って何だよ!?

徇の知らない所で知らない話が進んでいたとは知らず、認めさせるにはどうすれば良いのかと悩んでいた自分がまるで馬鹿みたいだ。


それにこの研究所で賢者だと判定されたら認められるというより面倒くさい事になるんじゃないのか?

徇は今さらながら詳しく話してくれなかったジェードに腹が立った。


「私はそんな話聞いていないし望んでもいないけど!」


思いっきりジェードを睨みつける。


「お爺様に了承した時点で分かっているものだと…」


「私、魔法院がどんな所かも知らなかったのに意味分かんない!!」


「魔力量を測り魔法使い判定を受けるだけだ。結果はどうあれ他者に漏れる事は無い。頼む徇」


さっきまでの貴族然とした態度を一変させ徇に頭を下げるので周りの人も驚いている。


「はい、私共から他者へ結果を漏らす事はありませんのでご安心を」


コンプライアンスの無いこの世界で安心できる訳がないじゃん……。

徇はいまだに納得できない思いを抱えていたが、拒み続けるのも大人気ないかと諦める。

要するにここで魔法使いではなく賢者と判定されればあの爺さんに認められるのだろう。

それに第一職業は確かに賢者をセットしているので多分問題ない。


(フン、見てなさいよ!)


徇は見事に賢者と認定して貰い、こんな騒ぎに巻き込まれる元凶となったあの爺さんの鼻を絶対に明かしてみせると意気込んだのだった。



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