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55 新しい生活 その一




 その後、エミーリエはユリアンから説明を受けた。


 長雨の原因になっていたことや、ブラント伯爵家が没落した理由は、なんとなく察していた事実ではあったが、それはおおかた王族のせいということで間違いないらしい。


 そしてユリアンはその事実を突き止めて、原状回復のためにはブラント伯爵家やその周りの貴族が元のいた場所に戻り祠に祈りを捧げることが最善だと示したのだ。


 そうすれば国の貴族たちも王族も納得し、正統な血筋を持つエミーリエがブラント伯爵に戻る機会が巡っていた訳なのだった。


 話を聞いて悩みはしたが、エミーリエはブラント伯爵になることを選んだ。


 それからは、長い事いろいろな手続きをしたり、引っ越しと屋敷の建て直しであっという間に月日が過ぎた。


 その間に、ベーメンブルク公爵家に勤める後任を探し、落ち着いたころにエミーリエたちは馬車に乗ってブラント伯爵邸に引っ越した。


 引っ越すまでの間に何度も通って祠に祈りを捧げていると、次第に雨も落ち着きを見せていた。


 それは周りの土地にも貴族たちが戻ってきて、王族が中途半端に開発した部分を戻すための費用や、土地を移動したことによる損害を補填してくれたからという事実も大きい。


 王族は素直に謝罪はしなかったものの、エミーリエたちには特別な支援をしてくれることになった。


 具体的には王家に対する貢納の免除であったり、ユリアンの身分についてもそうだ。


 ユリアンは公的にはベーメンブルク公爵家に養子入りしたような形となり、そこからエミーリエと婚姻関係を結んだという形式だ。


 ユリアンのカルシア王国での権限はなくなり、第二王子の存在はなかったことにされた。


 そのことについて、くどくどと回りくどい悲しみの気持ちを綴った手紙がフリッツ王太子からいくつも届いているが、ユリアンはそれを真顔で読んでいたとアウレールが教えてくれた。


 新しい屋敷では、別館でお付きとして世話をしてくれた侍女たちがついてきてくれて、それなりに安定した生活をととのえることができた。


 そして残っている問題のロッテの事についてだが、本人の意向もあってベーメンブルク公爵家に残ることになった。


 フォルスト伯爵家の二人を利用することになったので立場は安定したし、ベーメンブルク公爵の了承も得られたのでそう言う流れになったのだ。

 

 彼女はあまり距離が離れていないので、ヨルクが遊びに来るついでや、ベーメンブルク公爵のお使いでこちらに来ることが今までの間に数回あり、今回もそう言った理由でブラント伯爵家を訪れていた。


 そんなロッテに、エミーリエは丁度、話があったことを思い出して、なんだかため息が多い彼女の元に報告書を持って向かった。


 テーブルの向かいに座ると、ロッテはエミーリエの持っている物に興味を示して、クリッとした可愛らしい瞳をエミーリエに向けた。


「エミーリエ、それは?」


 首をかしげて聞いてくる彼女に向けてテーブルの上に書類を置いた。


 ロッテは、今は二人だけなのでフランクに接しているが、エミーリエは伯爵になったのでそれ以外の時には、場を選んでそれなりな態度をとれるようになってきていた。

 

 といってもまだまだ敬語は少しぎこちないのだが、それでも奮闘している方だろう。


「フォルスト伯爵家の報告書です。ユリアンの部下に当たる人が彼らの見張りについてくれているという話はしましたが、真面目に仕事に取り組む姿がやっと見られ始めたようですので、ロッテにも報告をと思いまして」

「……そうなんだ。……アンネリーゼとうまくいけば幸運だねなんて話をしてたし、本当はどうせ、私の事なんて結局どうでもいいのかと思ってたんだけど……そう言うわけじゃないのね」

「はい。あなたを人質に取って金銭を要求するようなやり方に彼らはごねていましたが、あなたからの手紙が大分利いているようですね。


 もともと雨がなければ街道の収入によってそれなりに稼いでいた領地ですから、真面目に努めて、領民たちに適当な施しを与えてさえいれば問題ないはずです」

「……うん。一応私の為に頑張ってくれてるんだもんね。ずっと分かり合えなかったとしても、そうしてくれたことはちゃんとありがとうっていつか会うときになったら言うんだ……」


 ロッテはとても複雑な思いを抱えている様子で、その報告書をゆっくりと目で追いながら言った。


 どんなにロッテが言っても、言う事を聞いてくれなかったというのに、結局こうしてロッテを助けるという名目になれば真面目に働く彼らは、エミーリエからすると一貫して自己満足に見える。


 彼らが持っているのはロッテに対する愛情ではなく、自分に対する愛情だ。大切なものを愛している自分に酔っているだけに過ぎない。


 しかしそんな彼らを利用すると決めたロッテは、誰が見てもそれは悪い事ではないという事であっても、彼女にとっては家族であり、利用するということは、心苦しい気持ちがあるのだろう。


 ……それでも取り乱さずに、きちんと見切りをつけて、やってくる面会の日までに言っておく言葉を考えておくなんて……ロッテは少しまた大人っぽくなりましたね。


 毎日顔を合わせるわけではないからこそ、ロッテが会うたびにぐんぐん大きくなっている気がする。


 ベーメンブルク公爵にはエミーリエが少し立て替えて彼女の生活費や教育費を渡しているが、この分ならば借金を返し終わってフォルスト伯爵家からの支払いでその分を賄うことができるだろう。




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― 新着の感想 ―
あー… やはりロッテ達は公爵邸に残るのか
ロッテ……立派になって……(´;ω;`)ホロリ
 長雨は王家主導の中途半端な領地開発の一環で、水魔法の在地貴族を立ち退かせたせいで魔法道具が機能しなくなって降るようになった。…これベーメンブルク公爵夫人が亡くなった水害、間接的に王家のせいでは?
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