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1章

 友達からその動画が送られてきたのはそろそろお布団が必要ないかもしれないと思えるような春の日だった。

「うー…まだねむいけど起きないと…朝ごはんなくなるぅ…」

 小学生が走っても小学校に遅刻しそうな時間帯に僕はつぶやいた。普段からこんな時間に起きているわけじゃない。たまたま今日の深夜、昨日の深夜にはまったアニメの一気見をしていただけなのだ。そしてアラームをつけ忘れていたのだ。それでも起きたのは癖がついているからだろう。うんそうだ。きっとそうだ。

「んあ?今から朝ごはん食べようとしてたんだけど…」

 机の上に置いてあるスマホがLONE!と叫んだ。そのLONEの通知音に反応する僕。ちなみに僕はご飯を食べているときはスマホを見ない。そういうところは…いや、そういうところも行儀正しい。

 まぁ多分公式アカウントからの通知だろう。唯一の友達は今頃大学に行っているはずだ。え?僕?ぼくはもう自宅警備というとても大事な仕事に就職している。

 公式アカウントからなら未読スルーしてもなんも言われない。というか公式アカウントからおいさっさと見ろよとかこちとら広告もただじゃねえんだぞおいとか言ってきたらビビる。てかクレーム入れる。

 僕はそう思ってドアを開けようとする。しかしその時、再びスマホが自分の仕事はこれだといわんばかりの音量で叫んだ。

 いや、再びではない。三回目、四回目、五回目、六――

「ちょっとさすがにうるさいな!」

 苛立ちを込めつつ静かにキレながらスマホをつかむ。―――あれ?

 そこには大学に行ってるはずの友達からのLONE通知があった。いや、まぁ、半分くらいは、おーいとか、ねてんのかー?という内容だろうが。

 内容を確認してみる。もし彼も自宅警備に従ずるというのなら、先輩としてアドバイスしないとだし。どうやら彼が送ってきたのはようつべのURLらしい。なんだ。大学辞めるわけじゃないのか。

 少し残念に思いながら、「どしたん?」と送ってみる。これで「ああ、すまん。Keepメモの代わりに使っただけや」とか言われたら普通に泣いてしまう。だれが高卒の自宅警備員が膝立ちで泣いている画なんて欲しがるのだろう。いや、誰も欲しくないだろ。

 そしてスマホがついにLONE!と叫んだ。その音色にはよかったじゃないかという感情も同情も含まれていたように思う。ドキドキしながら画面を見る。そこには、「なんか最近大学で話題の動画らしい。とりあえず見てみろ」と書かれていた。

 つまり、これは完全に僕に宛てられたものであるということだ。つい、目から水がこぼれるところだった。あぶないあぶない。唯一の友達からのお願い、そんなん聞くしかないだろ!そう心の中で叫びながらURLをタップした。

 その動画では最近の連続変死体に関するニュースだった。これが大学で話題に?とは思ったが、世間なんてよくわからないもの―――たとえばチピチピチャパチャパしてるのとかハッピ-ハッピ-ハッピ-とかさつまいもさつまいもとか―――が流行るもの、と思い直し、そのまま見進めた。その死体は外傷が一切ないにも関わらずなくなっているというものだった。

 しかしその死体のすべてが何かに祈っているように胸に何かを抱えるようなポーズをしながら亡くなっているところが変と呼ばれる理由らしい。人数的にはかなり少ない印象を受ける。動画の途中で何匹か動物が出てきた気がしたけど、たぶんVTRにでも映っていたのだろう。そういえば彼はオカルトチックなサークルに入っていると聞いた。死ぬときに祈りをささげるなんて話題、彼が飛びつかないわけがない。彼は定期的にこうやってよくわからないものを送ってきている。やっぱり、変人だ。

 僕は「見てみたよ」とLINEで伝える。するとすぐに「不思議だよね~。どういうことなんだろ」と返信が来た。彼のメールはこういうオチのないものが多い。それでもずっと話してしまうのはやはり腐れ縁ということなのだろうか。

 しかし僕も高校ではオカルト部に入っていたため気になるものは気になる。すまん友よ、さっきよくわからないものとか言って、変人とか言って。それに暇つぶしにはなるだろう。暇がこの世で一番怖い。

 どうやら、この変死体の話は結構有名らしい。どうやらネット上ではポーズがザビエルに見えることから、ザビエル死体と呼ばれているらしい。なんかザビエルがかわいそうと思わないこともないが、それはあんなポーズをしているザビエルが悪い。ということにしておこう。

 どうやら、彼から送られてきた動画はすでに300万回を突破しているらしい。大学だけじゃなく、世間にも流行っているといえるだろうか。

 世間はこの事件は政府の陰謀だとか宇宙人の仕業だとかそういううわさが飛び交っているらしい。彼は多分宇宙人という言葉が気になって送ってきたのだろう。

 どうやら亡くなった人に共通点はなく、性別や年齢もバラバラで死んだ時間もみんな別らしい。ある人は夜に、またある人は朝方に、夕方に亡くなっているものもあった。

 完全に八方塞がりだ。まぁ僕は探偵でも医者でもましてや警察でもないし、調べること、ひいては暇つぶしが目的だったからもういいだろう。その時僕のおなかがまだかまだかと呻いた。そういえば朝ごはんを食べようとしていたんだった。時計を見ると10時だった。もうご飯は残っていないかもしれない。でも、行ってみる価値はある。

 僕は検索用パソコンを閉じ、LONEで「おめーのせいでご飯食べれんかもだから、今度ごはん奢れよ」と送ってから、改めて扉を開けた。


 僕は苛立ちながら扉を開けて、部屋に入った。どうしてか?そんなの決まっているだろう。ご飯を逃したからだ。人はおなかがすいていると苛立ちやすいらしい。それもこれもあの友人とザビエルのせいだ。許さんぞザビエル(もはや太陽から冥王星ぐらいの距離の飛び火)。それにしても「時間すぎてっからおめーにやるエサはねえよ」とはひどくないか?母よ。エサってなんだよ。エサって。いつもおいしく頂かせていただいてるっての。

 そういえば今日はゲームのイベントが始まる日だった。自宅警備員の端くれとしてランキングTOP100には入りたい。僕はその業を背負う覚悟がある自宅警備員である。さて、走ろう‼


 気が付けばもう23時だった。ちなみに世の中にはお昼ご飯はごはんかパンかという問題があるが僕は食べない派だ。普段はアニメをみるために3時ぐらいまで起きているが、今日はソシャゲのイベントがある。朝から夕方にかけての時間だと就業時間中でガチ勢しかいないため圧倒的に効率がいいのだ。アラームを8時に設定してさっさと寝ることにしよう。


 目が覚めると、僕は草原の上で寝そべっていた。

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