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ゆっくり処刑

『俺たちは異端者だ。ダマリ派にとっては厄介者でしかない』

ブルオクスさんが嫌そうに話し始めた。


『奴らは”命大事に”みたいな教えをかかげる以上、異端者を殺すことは難しい。そこで奴らは異端者を移住させることにしたんだ。こんなような島にな。食料も燃料もない。脱出もほぼ不可能。そんな島に閉じ込めて結果的に死なせるのが奴らのやり方だ。希望者が移住したが失敗したというのが奴らの言い分なんだろう。たまたまそれが異端者だったというわけだ』


なるほど。それなら命を尊重する教義でも、異端者を効率的に殺せるか。


『ただひとつ言っておくが、ララナはウソをついているわけじゃない。彼女にとって、ここは本当に楽園だ。ここには派閥の対立もないし、反ダマリ派の彼女にすれば、異端者の俺たちは逆に敬虔な信徒だ。それにララナの神官としての実力は本物。ここに来る前に首都の宗教討論会でララナを見たが、内容がよくわからない俺が見ていても、他の神官を圧倒していたよ。それに当然、光魔法もすごい。実力だけなら帝国一かもしれない』


やばそうな人かと思ったけど、すごい人ではあるんだな。


『光魔法の実力がなければ、とても異世界人は召喚できない。ただ、神学と魔法以外は…まったくの世間知らずだ』


まあ、そんな感じはしてました。


この状況で、ここが楽園だと本気で思ってるなら、世間知らずも極まってるな。だってここには食べ物も燃料もないんだよ。


「じゃあ食べ物ってどうしてるんですか?」


『奴らも、移住を手助けしたっていう建前は欲しいからな。一年分くらいの食料は移住の時に持たされた。農具は取り上げられたがな。作物の種も取り上げられそうになったが、それはラビモレ教の御神体に隠して持ち込んだ。俺たちは身体がでかいからな。特大の御神体を作って”これが俺たちの信仰だ”って言ったら奴らも認めざるをえなかったのさ。コボルト族は、同じ方法で干し肉を持ち込んだみたいだし、これは定番の方法だな』


ラビモレ教の御神体というのは、前の世界で言う十字架とか仏像みたいなもので、それに向かって祈るのが作法だそうだ。形は鳥かごの中に球が入ったようなオブジェらしい。


『ま、多少のごまかしはダマリ派のやつらもだんまりさ。どうせ死ぬと思ってるんだから。

でも俺たちは死なない。そうだろ救世主様?種はあるし、土地もある。何とかなるさ』


思った以上に状況が悪い。ブルオクスさんの心が折れていないところが救いだな。


とりあえずどうしようか。


・・・。


何も思いつかない。

今は考えてもしかたないので、村に戻ることにした。

村に戻るころにはもう陽が傾きかけていた。


そういえば今日一日何も食べたり飲んだりしてないけど、極端に空腹になったりはしていない。つねにうっすらと空腹なだけだ。意外になんとかなるもんだな。喉は全く乾いてないし。


それに夕方になるにつれて、じょじょに空腹感がなくなってきた。


これも何かのスキルなんだろうか?


食料のことでここの暮らしに迷惑をかけないのならいいことだ。こんな食糧事情だととくにね。


それに不思議と尿意や便意もない。

飲み食いしてないからそれが普通と言われたらそうなんだけど、ちょっと違う気がする。


そんなことを考えていると、ララナさんが見えてきた。

ブルオクスさんもいるし、あのことも聞いてみよう。


「戻りましたララナさん。今日は一日この世界のことをいろいろと知れてよかったです。ところで質問なんですが、この世界の季節って何個あるんですか?僕の世界では春夏秋冬の四つだったんですが」


笑顔でララナさんが答える。

『素晴らしいご質問ですわ救世主様。それはもちろん三つです。まずは寒い白の季節、次に、心地よい赤の季節、そのあと暑い黒の季節が訪れます。そしてまた赤の季節となり、そのあと新しい白の季節となります。つまり白赤黒赤白と3種類の季節がめぐります。この三種類の季節というのは、実は全命三元論と密接にかかわっておりまして、ダマリ派の全命一元論はそもそもこの部分から間違って…』


教義が絡むと話が長いな。


でも分かった。ララナさんは季節を三つと数えるんだ。

ようは春と秋を同じ季節と考えてる。


似たような気候だからか、教義的にそっちのほうが都合いいのかもしれないけど、とにかく春と秋を区別してない。


これは明らかに農業向きの考え方じゃないな。


たとえば“赤の季節”に春まき小麦と秋まき小麦を植えたら、どちらかは全滅間違いなしだ。


僕も農業統計で春まき小麦と秋まき小麦を知ってるだけだから大きなことは言えないけど、秋まき小麦をまいたあとには寒い季節が来ないといけないことくらいはわかる。


ブルオクスさんが”ほらな”っていう顔をしている。


本当にララナさんは農業とか興味ないんだろうな。


でも同じような感じで、なにも農業を知らないダマリ派が帝国を操っているんだとしたらそれこそまずいんじゃないだろうか?


作物全滅しない?


まあ、知ったことじゃないけど。


そのあとも、しばらくララナさんの教義説明を聞いたけどよくわからなかった。


そもそもララナさんの言っている神様は、僕の会ったアストリア様と一緒なんだろうか?


あのアストリア様なら、ララナさんが言っているようなこと何にも考えてないと思うよ。


『…といったわけで、この世界には三つの季節がめぐるのです』


説明を終えたララナさんは満足そうだった。


もしかしてこういう話を聞いてくれる人が村人にいない感じなのかな?


ちょっとかわいそうな気もしてきたな。


僕ももう少し真剣に聞くか。


気が付くとあたりは徐々に暗くなってきた。


でも、どこにも明かりはつかない。


この島には、本当に燃料がないんだろう。ここぞというときにしか明かりをともせないんじゃないだろうか。夜になったら寝るしかない。


あれ、でもおかしいな。こんなに暗いなら、なんで昨日僕は寝る前に、部屋の中が見えたんだろう?


うっすらと明るかったような。


「あ~、ララナさん?説明ありがとうございました。ところで話は変わるんですけど、僕の部屋に明かりってありますか?昨日の夜は部屋の中が明るかった気がするんですけど」


『わたくしとしたことがうっかりしておりました。御神体の場所をお教えしておりませんでしたね。ブルオクス族長、ついてきていただけますか?』


そういうとララナさんは、僕が召喚された建物のほうに歩いて行った。


ブルオクスさんと一緒についていくと、建物の中でララナさんが待っていた。


『ブルオクス族長。あの梁の上にある御神体をとっていただけますか?』


そう言われたブルオクスさんが、いったん外に出て、どこかから台をもってきた。そして、その台の上に立って、梁の上に手をやると、ペンダントくらいの大きさで、強烈に光る物体をつまんできた。


『少しお待ちください』


ララナさんが何かを唱えると、光は弱くなり、直視できるようになった。


『これが御神体ですわ。加護が降り注ぐように、中心に据えさせていただきました』


直視できるようになったそれを見ると、鳥かごの中に球が入ったようなオブジェだった。

あ、これブルオクスさんが言ってたやつだ。十字架というか、仏像というかとにかくこれに向かって祈るやつ。これが梁の上で強烈に光ってたから、間接照明になって部屋が明るかったのね。

でもどうやって光ってるんだ?


『出過ぎた真似かと思いましたがわたくしが光魔法をかけておきました。といいましても、ミスリルと光魔石の魔道具ですので、わたくしの魔力を消費することはありません。明るすぎたのであれば申し訳ありませんでした。神の加護を願ってのことですので、お許しください』


「明るいほうが神の加護を得られそうなので、そのままにしておいてください」


部屋が多少明るいほうが便利だ。そのままにしておいてもらおう。

なんとなく教義上の意味がありそうで、断るとララナさんが悲しみそうっていうのもある。


『そうですか。では族長、元に戻していただけますか?』


ブルオクスさんがまた台に乗って御神体を梁の上に戻した。

ララナさんがまた何か唱えると、間接照明のように部屋が明るくなった。


『それでは本日はこちらで失礼します』


そう言うと、ララナさんとブルオクスさんが出て行った。


なるほどね。間接照明があったんだ…ってこれめちゃくちゃ便利!

燃料ないなら明かりはこれでいいじゃない。

というかさらっとミスリルとか光魔石とか言ってたから流しちゃったけど、なにそれ?


ミスリルってあれだよね。ファンタジーでよく聞く伝説の金属的なやつだよね。


あれがそうなの?すごい光っててよくは見えなかったけど。


これは明日誰かに確認しないと。


って…あれ…また急に眠気が…。

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