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楽園ってなんだっけ?リゾート的なやつ?

『おはようございます。救世主様』


扉がノックされたので、開けたところ、ララナさんがいた。


『本日もこの楽園をご案内したいのですが、わたくしは“完全救世主召喚マニュアル”記された、救世主様召喚後に行うステップを10個ほど行わなくてはなりません。ですので本日はブルオクス族長がご案内いたしますわ』


朝から何も食べてなくて、やる気もないけど、他にすることもないし行きますよ。それに何か食べ物を見つければクリエイトで作れるかもしれない。


『じゃあ、今日は俺についてきな』


ララナさんの後ろからブルオクスさんが顔を出した。


相変わらずでかい人だ。


ララナさんと別れると、ブルオクスさんについて、村の建物が多いほうへ歩いて行った。


『今日は畑を案内する。といってもまだ耕しているだけなんだがな。ところでお前さんは…気が付いているのか?』


「え、何のことですか?」


『ま、まあいい。そのうち気が付くだろう。実際の生活を見てもらうのが一番だ。俺たちは口がうまくないからな』


しばらく歩くと、ブルオクスさんと負けないぐらい大きなミノタウルス族の人たちが地面を耕していた。

棒の先に、固そうな石をつけたもので地面を削るように耕している。クワとかないんだろうか?あと何かを呟いてるみたいだけど、労作歌みたいなものかな?


『見ての通り俺たちは、農耕を捨てることが出来なかった異端者だ。ダマリ派に言わせると、地面を耕すのは、大地に牙を突き立てるのと変わらないそうだ。できた作物は大地の血で、出血を続けさせると大地ごと死んじまうんだとよ』


 ダマリ派は農耕なしでどうやって生きていくつもりなんだろう?でも、あんまり作物を作り続けると、土の栄養を使いすぎて土が死ぬっていう部分は正しいのかも。


『今は耕しているだけだが、終わったらこれを植えるつもりだ』


そういうとジャガイモを見せてくれた。


『昨日、あんたが作ってくれたもんだ。これを切り分ければ、4つは芽が出るだろう。ところで肝心な質問だ。お前さんはどれくらいジャガイモを作れる?』


「昨日作ったのがはじめてだったので、よくわかりませんね。そうだ。実験してみましょう」


『おお、頼むよ』


おなかも空いてたしちょうどいい。ジャガイモで実験だ。ブルオクスさんが持っているジャガイモを見ればスキルが使えるはずだ。


クリエイト


ジャガイモが瞬時に目の前に現れた。前と同じだ。


『おお、すごい』

ブルオクスさんが感心している。


少し疲れを感じるけど続けよう。


クリエイト


もう一つジャガイモが現れた。


めちゃくちゃ疲れてきた。


でももうひと頑張り。


クリエイト


さらに一つジャガイモが現れた。


「もう限界です」

この場に倒れこみそうなほどの疲労感だ。しばらく休ませてもらおう。


『そうか…。やはりな』

ブルオクスさんがやや落胆した様子でつぶやいた。


『お前さんの能力を話したときに、俺たちが十分食べていけるほどの食料を出せるはずだって言う連中もいたんだ。ただ俺は違うと思ってた。やはり、そんなに世界は甘くない。お前さんに食料のすべてをお願いするのは、まいた種がすべて実ると期待するくらい間違ってることだ。気にしないでくれ。俺たちは海についてはさっぱりわからないが、農業には自信がある』


あ、なんかごめんね。僕も昨日使い始めたスキルだからよく知らなかったんだけど、ジャガイモ三個が限界だなんてね。これじゃあ自分一人の食料もおぼつかないな…。


『しかし、ジャガイモ三個とはいえ奇跡には違いない。見てみろ、元あったジャガイモも入れて四個のジャガイモは全く一緒だ』


そういわれてジャガイモを見ると、大きさも形も色も、ついでに芽の位置も全く一緒だった。

え、僕のスキルって平均じゃないの?

てっきりこの世界の平均的なジャガイモが出来るのかと思ってた。

それともこのジャガイモが平均的なジャガイモなのか?

それにしたって芽の位置まで同じなのは納得できないけど。


まあいいや。気にしたところで今日はこれ以上クリエイトを使えそうにないし、実験できない。


『お前さんのクリエイトってやつは全く同じものを作り出せるスキルなんだろうな。俺たちにとったら喉から手が出るくらいほしいスキルだぜ。これからもよろしく頼むな』


ブルオクスさんが喜んでるなら、まあいいか。


『じゃあ次は小麦の畑だな。ついてきな』


耕していた場所のすぐ横に、緑色の芽がでた畑があった。


『これを見てくれ。俺たちの勘が当たってた証拠だ。ちゃんと秋まき小麦が生きてるだろう?この場所はやっぱり小麦畑で間違いなかったんだ』


あれ、変なこと言ってない?ここはブルオクスさんが耕している畑じゃないの?


先祖代々受け継いできた自慢の畑みたいな。


『あれ。やっぱりララナのやつ何も言ってないんだな。俺たちがここに来たのは去年の秋だぞ』


え、すごく最近。ララナさんの感じだとここに長年住んでる感じだったけど違うんだ。


「ということは、ここでの農業は初めてなんですか?」


『ああ、そういうことだ。これからの実りに期待だな。そんなに心配そうな顔をするな。俺たちだって勘だけで種を植えたわけじゃない。去年の秋に来た時に、方々歩き回ったんだ。そんでもって、小麦っぽいものが生えている場所を徹底的に調べた。とはいえこの島全体に比べれば狭いもんだがな。それでこの場所がいいと判断したわけだ。歩き回ったおかげで小麦っぽいものの種もいろいろ手に入ったし悪いことばかりじゃない。手持ちの種をまいたらこの通り見事に芽吹いて冬も越せたしな』


ええ、まあそうなのかもしれないけど不安だな。ブルオクスさんたちを見ると農業自体には詳しそうだからそこは問題なさそうだけど。


でもそうすると待てよ。


「じゃあブルオクスさん。この畑の周りの石垣は半年で造ったものなんですか?」


小麦畑の周りには低いながらも石垣が積んである。かなりしっかりしていて、石垣の規模からいって造るのにそうとう時間がかかったはずだ。


『いやそれは俺たちが造ったわけじゃない。たぶん先住民たちのものだ』


「先住民?」


『ララナのやつそれも話してないのか。去年の秋に俺たちが来た時、一人だけ住民がいたんだ。元は神官だったらしいが、気のいいエルフのじいさんだったよ。残念ながら、もともと弱ってたし、毒のある魚を食べたせいで死んじまったけどな。そのエルフのじいさんによると、じいさん達も移住してきたらしい。俺たちより大規模でいろいろな種族を合わせて100人程度が移住してきたようだ。それが今から3,4年前のことだが、去年の秋に俺たちがこの島に着いた時にはじいさん一人きりだった』


え、おじいさん以外の人はどうしたの?


『じいさんが言うには、船、といってもイカダと区別がつかない粗末なものらしいが、それに乗ってみんな海に漕ぎ出したらしい。じいさんは弱ってたから、航海にはとても耐えられないってことで島に残ったんだ。ただ、元神官だから光魔法ができた。定期的に空に光弾を撃って、万が一住人たちが戻りたくなった時のために灯台の真似事もしてたらしい。とはいえ誰も戻っては来なかった。じいさんも死んじまった今、この島にいるのは俺たちだけってわけだ』


「ん?ここは楽園じゃないんですか?なんで脱出しようとするんです?」


『ま、まあそれはさておきだ。じいさんが来た時にもこの石垣はあったらしい。つまりじいさんたちが造ったものではない。だから俺が思うにこの石垣はずっとずっと前の住民が造ったものだと思う。そもそもおかしくないか?この石垣は何のためにあるんだ?この島には畑の作物を食べるような獣や魔獣は一切いないんだぞ』


そうなんだ。

あと、さらっと言ってるけど、やっぱりこの世界には魔獣とかいるんだ。

この島にいないなら一安心だけど、ビーチで泳ぐとやばいかも。


『まあ農業やってる俺からすると、強い風を避けるための石垣と考えられなくもない。現に秋まき小麦がこうして無事なわけだしな』


そういうものなんだろうか?

先住民がいたなら、その人たちに聞いたほうが手っ取り早い気がするけど。


「エルフのおじいさんが生き残ってたなら、その人に農業について聞けばよかったのでは?」


『あのな、お前。まあ異世界から来たんなら仕方ねえか…。エルフの神官ってのは、農業なんか知ってるわけないんだ。そもそもダマリ派が農業を禁止できたのも、農業を全く知らないからだ。やつらは何もしなくても食べ物が生えてくると思ってやがる。エルフのじいさんだってそうだ。ダマリ派ではなかったが、農業については何も知らなかった。小麦と雑草の区別もできなかった。そもそも毒魚を食べて死ぬくらいだぞ。そうだ。ためしにララナに季節がいくつあるか聞いてみろ。面白いことがわかるぞ』


「季節は、春夏秋冬の四つじゃないんですか?」

季節は異世界で違うかもしれないけど、日本ではそうだったよ。


『お前さんがその考えでうれしいよ。俺の考えでも、季節はその四つだ。でもララナはなんて言うかな?』


そのあとも周りをいろいろと見て回った。


言われてから見ると、石垣の様子から、区画分けされた畑が昔はあったようにも見える。


石垣というか、土地の境に置いた石の列っていう感じのところも多いけど。


でも石垣の石は場所ごとに違う。詳しくはわからないけど、石の色が違うし、全体的にごつごつしているような。


もしかして、石垣自体も一つの先住民グループが全部造ったわけじゃなくて、何グループもが、それ以前にあった石垣に付け足して造ったものなのかもしれない。


だとすると、先住民グループは定期的に消えてることになるぞ。


『お、これも見せておくか』


そういうと、ブルオクスさんは石が積まれたオブジェのようなもののほうに歩いて行った。


『これはもともと家だったんが、去年の秋に、梁と屋根を燃料にするために壊したんだ。気が付いているかもしれないがこの島には大きな木がない。エルフのじいさんによると、イカダを作る時にはまだ少しだけ木が生えてたらしいんだが、木を切りつくしても足りなくて、俺たちみたいに建物の屋根を引っぺがして足しにしたらしい』


言われてみると、周りに大きな木は一本もない。生け垣に使うような、細い木がまばらに生えているだけだ。

薪にする木がなくて、ここに来た早々に家が使えなくなるのがわかっていても切ったんだろう。


『この家に屋根があれば、作物の倉庫としても使えたんだがな。まあ、貯めこめるくらい作れるかはわからないが』


ん~。だんだんわかってきたぞ。


この島に来た時からの違和感が。


「ブルオクスさん。ここは楽園じゃないですね」


『気が付いたか。ああ、そうだ。ここは楽園じゃない。処刑場だ』


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