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まずは現状把握することが遭難しないコツだよ

「え、待ってください。ここがどこか分からないってどういうことですか?」


この場所で僕を呼び出しているのにわからないのはおかしいでしょ。

みんなは目を伏せている。

ララナさんだけが笑顔なのが不気味だけど、答えてくれそうなのがこの人しかいない。


『実はわたくし達は異端者なのです。ことのはじまりは全命一元論のダマリ派がレメニア帝国の実権を握ったことですわ。そもそもわたくしは…』


え、なんて?なんて?専門用語多すぎじゃない?


かいつまんで話すと、みんなはもともと大陸にあるレメニア帝国というところの内陸部に住んでいたらしい。

最近になって帝国を継いだ皇帝は、それまで地方の一宗教であったラビモレ教の熱心な信者で、その中でもダマリ派の教えを正当と認め、国内の改革にいそしんだ。

それはいいんだけど、そのダマリ派の教えというのが、極端な動物愛護で肉食を全面的に禁止したらしい。その結果、肉食をやめない部族は異端者扱い。それに『土も命』という考え方らしく、土を傷つける農耕も禁止。だから農耕をするものも異端者。あとはダマリ派の考えに沿わないものも当然異端者。帝国内は異端者だらけになって、ゴタゴタしてたらしい。



「とりあえず、みなさんが異端者なのはわかりましたけど、それとこの場所がわからないことと何が関係するんですか?」


『それは移住の結果ですわ。異端者はこの楽園、“ウィリデ島”に移住できるんですの。ダマリ派も少しは見どころがありますわ』


なんだろう。ララナさん以外は目が泳いでる気がするけど、とりあえずそういうことにしましょう。


『そうですわ。いい機会ですから、早速この楽園を見ていただきましょう。ついてきていただけますか?』


そういうと、ララナさんは壁のほうに向かっていった。あ、そっちに扉があったんだ。


『じゃ、じゃあぼくはコボルトのみんなに救世主様がいらしたって伝えてきますね』

『お、俺もミノタウルスの皆に伝えねばな』

『私も!じゃ、ララナさんあとはお願いしますね』


なぜかドージさんやブルオクスさん、ラヴィータさんはそそくさと先に外へ出ていった。


なんか、ララナさん以外が気まずそうなんだよな。


『さ、わたくし達も行きましょう。きっと気に入ってくださいますわ』


ララナさんはずっと笑顔だ。


ララナさんについて扉をくぐると、そこには山が見えた。


一瞬、本当に一瞬なんだけど、富士山かと思った。


もちろんそれはもう一度登りたいっていう僕の願望が見せた幻で、実際は形が少し似てるっていうだけだ。


富士山に比べると高さも大したことないように見えるし。


それに山頂から煙が出てるし…。

って、活火山なのこれ?


ま、まあ、桜島もよく噴火してるし、火山が身近にあってもそこまで関係ないのかもしれない。

あんまり楽園のイメージにはないけど。


一瞬山に見とれたあと、視線を戻すとララナさんが先に歩いていた。


慌ててついていく。


しばらく歩いたところで急にララナさんが振り返った。


『まずはこちらですわ。どうですかこの海の眺め。ウィリデ島が、世俗とは離れた楽園であることがお分かりいただけますね。あ、崖になってますので、危険ですからあまりふちまで近づかないようにしてください』


たしかにララナさんのドヤ顔が気にならないほど綺麗な海が広がっていた。本当に水平線までまったく島が見えない。少し白波を立てる水面がどこまでも広がっている。


崖になってるのが怖いけど、ギリギリまで近づいて下を見ると、高さ30mくらいの切り立った崖になっていた。東尋坊のポスターで見た感じだな。


崖沿いにしばらく歩いてみたけど、同じような景色がずっと続いていたので、この島自体がホールケーキみたいな形なのかもしれない。山から煙も出てるし、海に浮かんだ誕生日ケーキみたいな?



『ふふ。もちろんこのような景色だけでは海を楽しめません。ちゃんとビーチもあります。どうぞこちらへ』


またしばらく歩くと、海に向かって不自然に傾斜した坂が見えてきた。道がまっすぐかつ、両側が切り立っているので、自然にできたとは思えない。


その坂を下っていくと、砂浜が現れた。


白くて、細かい砂が太陽の光を反射している。リゾートのプライベートビーチって言われたら信じるかも。うち上げられた海草が見えるから、掃除をしたらもっとキレイかもしれない。ざっと見た感じかなり広い。島の形のせいもあるけど、見回しても広さがつかめないくらいだ。


『ここがこの島で唯一海に降りられる砂浜ですわ。きれいでしょう?この場所で、島に上陸したときには心が躍りました。長いこと目隠しをされて船に乗っていたので、地面を久しぶりに踏める喜びもありましたしね。この美しさを見ればダマリ派がこの島を世俗から隠しておきたくなる気持ちもわかります。この島の場所は重大な秘密なんですのよ。おかげでわたくしたちも場所は存じません。それが先ほど、ここがどこか分からないと申した理由です』


ララナさんがうっとり説明している

たしかにいい砂浜だ。

ただこう、なんか違和感があるな。


なんでだろう。港みたいな設備が一切ないからかな。


「ララナさん。船で来たみたいですけど、その船ってないんですか?」


『もちろんありませんわ。世俗とのつながりなど、楽園には必要ありませんから。それにわたくしたちはもともと陸の民。海の民が使う船を渡されても使えませんわ』


あ、そうなんだ。こんな島で外とつながりがないって不安だけど、この世界では交流がないほうが普通なのかな?


不便なんじゃないの?


『では一度、村に戻りましょう。村の皆も救世主様のお顔を見たいはずです』


しばらく歩いて先ほどの場所に戻ると、大勢の人たちが集まっていた。


小さい子どもたちもいる。


そろそろ夕方なのか、あたりも暗くなってきている。


『村人全員が集まったみたいですわ』


『僕たちの種族を全員集めておきました』

『俺たちもだ』

『私たちもよ』


ドージさん、ブルオクスさん、ラヴィータさんがララナさんに話しかける。


ざっと見た感じ、各種族20人くらいで、総勢60人くらいいる。エルフはララナさん以外いないみたいだ。


『それでは村人全員が集まりましたわね。それでは歓迎の宴とまいりましょう』


村人が集まっていた場所をよく見ると、石の台のようなものがあり、その上にジャガイモや、ビーフジャーキーみたいなものがのっていた。


宴の料理というには質素だけど、神事みたいなもので特別な意味のある食べ物なのかもしれない。


僕もこっちに来てからやたらとおなかが減っていたからありがたい。


『では皆さん。今日の糧に感謝を。そしてこの地に舞い降りた救世主様に祝福を。それでは救世主様、お言葉を頂戴いたしたく思います』


うわ~。やっぱり来たかあいさつ。やらされると思ったけどやりたくないな~。シンプルにいこう。


「あ~異世界から参りましたダイスケです。このような楽園に招いていただき嬉しいかぎりです。救世主と呼ばれていますが、何をしていいかピンと来ていません。ただ、一生懸命頑張ろうとは思いますのでよろしくお願いします」


あれ、なんでみんな気まずそうなの?なにかまずいこと言った?


ララナさんを見ると…すごくいい笑顔だ。


ということは全く見当違いなことを言ったわけではないのか?


『うふふ。救世主様は謙虚でいらっしゃる。ついてこいの一言で十分でしたのに。それではみなさん本日の糧をいただきましょう』


ララナさんがそう言うと、村人たちから歓声が上がり、次々にジャガイモやジャーキーを食べ始めた。


僕もいただこう。


そう思って手を伸ばすと、

『ダメですわ』

ララナさんが慌てて止めに来た。

いや、おなか減ってるんですけど。


『絶対にダメですわ。“完全救世主召喚マニュアル”に“召喚した救世主には、10日間飲み食いをさせてはいけない”とあります』


いや、死ぬでしょそれ。絶対おかしいルールだってそれ。


そりゃあ、急に異世界にきて知らないもの食べたりしたら、食中毒で死ぬかもしれないけど、10日間は極端じゃない?

こっそりジャーキーのステータス見たけど【食用可】って出たよ。


『ダメです!』


「わ、わかりました。わかりました。食べません」


ララナさんの勢いに押されてついそう言ってしまった。


『分かっていただければいいのです』


なんか怖いなこのひと。


まあでも一人になったときにさっきみたいに食べ物をクリエイトして食べればいいし、ここは穏便に行こう。多分異世界のものを気やすく食べるなっていう意味だよね。


台の上の食べ物はどんどんなくなっていった。


不思議なことに、食べ物がなくなるにつれて、僕のおなかも少しずつ満たされていった。満腹とは言えないけど、まあまあ耐えられるくらいにはなった。もしかして、救世主は食べなくても大丈夫なのかな?いや、それならおなか減るのもおかしいな。


僕はやることがないので、村人と話そうとしたんだけど、みんなどことなく気まずそうで、名前を名乗るくらいで立ち去ってしまった。

見た感じ、台の上にお酒もないし、あまり話が弾む感じもない。

みんなが飲んでいるのは、水かな?

宗教的にお酒はダメなのかもしれない。


食べ物がなくなるにつれて、村人たちは徐々に帰っていった。


『それでは今夜はお休みください』


ララナさんにうながされて、召喚された時の建物に戻った。中に入ると、ベッドが一台だけおかれていた。誰かが運び込んでくれてたんだろう。

あ、トイレとかどうすれば?できれば風呂にも入りたい。


『お休みなさいませ』


そういうとララナさんは出て行ってしまった。しまった。トイレの場所を聞きそびれた。

この部屋は本当にベッド以外なにもない。壁と屋根だけだ。ベッドを中心とした直径10メートルくらいの円柱の中にいるとしか言いようがない。あ、でもよく見ると窓はあるのか。木の扉が壁にあるけど、地面についていないから窓なんだろう。とにかくトイレはなさそうだ。


でも追いかけるのはやめ。ララナさん出て行ったし、先になにか食べよう。


扉に耳をつけ、ララナさんの足音が遠くに行くのを確認する。


さて、入院中は好きなものも食べられなかったしな。

ハンバーガーなんていいね。でも平均的なハンバーガーだと何になるんだろう?ワックかな?それともモフ?パーカークイーン?


何でもいいや。どれでもおいしいからね。


ハンバーガーを想像しつつ…


クリエイト


さあ、こい、ハンバーガー!


あれ? 何も起きない?


もう一度だ。


クリエイト


やっぱり何も起きない。


ジャガイモはうまくいったのに。


なんでだ?もしかしてクリエイトのためには実物がないといけないの?


じゃあ、自由なものは作れないの?うわ、超不便じゃん。この世界にあるものしか作れないってこと?


嫌だ~。この雰囲気だと、この世界にはハンバーガーもカレーもなさそうじゃん。一から作らないといけないってこと?


面倒くさいな。平均的なものでいいからハンバーガーとかカレーが食べたかった。


このままだと、微妙な空腹のせいで寝られないかも。


でも、あれ?急にすごく眠くなってきたぞ…。


ぜんぜん尿意もないし、このまま眠ろ…う…。


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