みんなで潮干狩り
翌朝、広場に行ってみると、村人みんながカゴをもって海に行こうとしているところだった。
いや、人数多すぎでしょ。ブルオクスさんが先頭に立ってるな。
『お、救世主様。あの後みんなで話し合ったんだが、今日はみっちり貝をとろうと思う。貝ってやつがあんなにうまいとは知らなかった。ミノタウロス族はみんなやる気だぜ』
『貝をとるのは簡単だって聞いたから、獣人族もみんなやりたいって。掘るだけなんでしょ?』
『やはりコボルト族で狩りと聞いて黙ってられるものはいませんでしたよ』
ラヴィータさんもドージさんも一族を引き連れてる。
『皆、やる気ですので今日は潮干狩りをされてはどうでしょう?』
ララナさんに言われなくても、ここまで集まっちゃうとやらないとは言えないね。それに貝なら何でも食べられるわけじゃないだろうから、この近くでとれる貝を色々集めて知っておきたいな。
よし、じゃあ今日は、本格的な潮干狩りと行こう。
でも、今回は子どもも参加するから注意しておかないと。
「では今日は、村を挙げて潮干狩りをしたいと思います。時間によって海の深さは変わるので、遠くまで行かないようにしてください。あと、触っただけで刺してくる貝がいるかもしれないので、昨日食べた貝以外は、甕に入れて僕のところに持ってきてください」
『『『はーい』』』
それじゃあ僕も行きますか。スコップ的なモノはこの人数分はないから、どうしようかな?あ、ミノタウルス族は農作業用のそれっぽいのを持ってるのね。で、子どもたちは昨日食べたホンビノスガイの貝殻で掘ると。なるほど。じゃあ、このままいけばいいか。
海岸に着くと潮が完全に引いた感じではないけど、そこそこ貝を掘る場所はありそうだった。さっそくみんな掘り出している。まずはミノタウルス族が砂を掘り返して、そこから他の種族が拾い集める。完全にイモ掘りの感じだけど効率はいいのかも。
さてと、僕は新しい貝を探しますか。
周りを見渡すと、岩場が見えた。いいね。
近づいていくとそれっぽいのがいる。
ステータスを見ると、マガキだ。大きすぎて一瞬違う種類かと思ったけど、いわゆる岩牡蠣。これは食べ応えがありそうだ。
これなら溶岩キューブの上に直接置いて、焼き牡蠣でいけるね。
さすがに生でそのまま食べるのは怖いけど…。
ん、待てよ。もしかしてララナさんの協力があれば生で食べる方法があるかも。
あとで相談してみよう。
それよりこれをどうやって岩からはがすかが問題だ。
牡蠣だからかなり強く岩にくっついてるんだよね。
近くに人はっと…あ、ドージさんがいた。
「ドージさんすみません。なにかナイフみたいなものを持ってませんか?」
『もってますよ。これです』
ドージさんが取り出したのは、刃渡り15センチくらいの諸刃で、寸詰まりな古代ローマの剣みたいなナイフだ。
刃厚があるので頑丈そうだ。
でもこれって鉄じゃないよな。色が違うし。
「この素材は何ですか?」
『なにって当然、青銅ですよ。当たり前じゃないですか。これでも隠して持ってくるのに苦労したんですから』
こんな島に移住させるのに、ナイフまで取り上げようとするのはひどいな。
『あ、ぼくが前に帝国軍にいたっていったから鉄のナイフだと思ったんですか?そりゃあ常備軍、それも皇帝直属のグラディウス隊なら鉄のナイフもあるでしょうけど、ぼくではとても手に入りません。仮に投石部隊で親衛隊になってたとしても、すごい戦功でも立てない限り鉄のナイフはもらえないでしょう』
そんなもんなのか。鉄が貴重なのか、それとも宗教的な意味で独占されてるのか?
どっちでもいいけど、青銅って確か柔らかいんだよな。
これで牡蠣を岩からはがしたら、曲がっちゃうかも。
それじゃあドージさんに申し訳ないから…。
クリエイトっと。
青銅のナイフをクリエイトした。
オリジナルのナイフはドージさんに返す。
これで心置きなく試せるぞ。
『はあ、何度見ても救世主様のスキルはすごいですね』
「ありがとうございます。じゃあ早速試してみます」
『試すって何をですか?』
ナイフを牡蠣と岩の継ぎ目と思われる場所に突き立てる。
沢山連なってくっついているから、いまいち正確な場所はわからない。
それらしい場所をがんがん突く。
『救世主様? こう言っては何ですが、さすがに岩は切れないかと…』
僕は無心で岩を突く。
何回か突くと、ようやく牡蠣がはがれた。わかってたけどめちゃくちゃ大きい牡蠣だ。
それがこの岩だけで何個くっついてるんだろう。
『え、救世主様、もしかしてそれも貝なんですか?』
「そうです。牡蠣っていって昨日の貝とはまた違った味ですよ」
刃こぼれはないようなので、そのまま10個ほど牡蠣を岩から剥がす。
ドージさんのもってきたカゴに牡蠣を入れさせてもらって、少し離れた次の岩に行くと
こっちにはムール貝がいた。これも大きい。
こちらも試しに10個ほど岩からはがす。
意外に剝がすのは大変だ。
ムール貝と格闘していると、ラヴィータさんが来た。
小さい甕をもっている。
「救世主様、これを獣人族の子どもが海の中で見つけたんだけど食べられるかな?こんなに硬いのに泳いでたんだって」
お、新種を発見したんですね。どれどれ。念のためステータス確認っと。
【ホタテガイ:不可食(毒)】
見たまんまホタテ貝だ。でも不可食ってなぜ?おいしいやつじゃないの?
あ、あれか北海道出身の友達が言ってた“黒いところは食べちゃダメ”ってやつか。たしかウロとかなんとか言ってたな。
切り取れば問題なかったはず。
ラヴィータさんからホタテを受け取り、ナイフでこじ開ける。
あった、あった黒いところ。これを切り取ってもう一度ステータスっと。
【ホタテガイ:可食】
やっぱりそうだ。ここに毒が貯まってたんだ。うーんステータスって便利。
「この黒いところを切り取れば食べられますよ。とってもおいしい貝です」
『そうなんだ。ありがとう救世主様。もっとたくさんいるみたいだから採ってくるね』
そう言うとラヴィータさんは獣人族の子どものほうへ駆けていった。
そのあとも、次々にいろいろな人が貝を見せてくれた。知らない貝もあったけど大半は食べられる貝だ。
みんな初心者なのにどんどん採ってるな。
これだけ貝がいっぱいいれば、だれでも採れるか。種類もたくさんあって、食べ飽きなさそうだし、最高だね。
でもなんでこんなにいっぱい貝がいるんだろう?
普通に考えたら、この島は食料が乏しいから、先住民が食べつくしててもおかしくないんじゃないか?
…いや、違うか。逆だ。
島の石積みを見ると、数年でできるとは思えないくらいしっかりした石積みがある。
大昔の先住民はきっと何十年もここで住んでいたんだろう。
でもララナさんの前にいた移住者は3、4年しか生き残れなかったらしい。
ということはこの島で生き残れる年数はどんどん減っているんだろう。
それはつまり、ダマリ派がこの島で生き残れない異端者を優先的に“移住”させているからだ。
貝を食べようと思わない人たち、海を見たこともない人たち、雪を知らない人たちがこの島に移住させられてるんだ。
気候も環境も知らなければ、手持ちの食料が尽きた後に生き残るのは難しいだろう。
気候を知らずに農業を始めようとしてるブルオクスさん達を何とかしないといけない。
そういえば、例外的にララナさんは海とか雪を知ってたな。
あの人は生活力皆無だから見逃されたのか?まあ、ありそうな話かな。
待てよ。ということは、また3年くらいたったら、新しい異端者が移住させられてくるのかな?
その時に僕たちが生き残ってたらどうなる?
帝国の出方がわからないな。
…。
ま、今は考えてもしょうがないや。
目の前の問題を片付けよう。
潮もかなり引いてきたし、いい頃合いでしょう。
僕とドージさんは、かなり遠くなった波打ち際まで歩いて行った。
そしてできるだけ遠くの水中を見た。
クリエイト
目の前に、海水のキューブが現れた。
水のキューブと見た目はほぼ一緒だけど、こちらは当然なめると塩からい。
「ドージさん、塩が欲しいって言ってましたよね。これで作れるようになりますので安心してください」
『はあ、これで塩ができるんですか?信じられませんが救世主様がいうのであればそうなんでしょう。期待しております』
ドージさんのカゴがいっぱいになったので、村に戻ることにした。
ついでだから、塩を作れるようにしよう。
便利さだけを考えると村の広場で作りたいけど、万が一海水があふれ出したら、土が塩で汚染されて何も育たなくなっちゃう。
なので、砂浜で作ります。
まずブルオクスさんに頼んで、大きな甕を持ってきてもらう。水汲みがなくなったおかげで、大きな甕が余り気味なのは嬉しい。
ここに、新しくクリエイトした熱黒曜石を入れる。
そして甕に板を渡して、海水のキューブを置き、竹の筒みたいなもの挿して海水がでてくるようにした。筒はあえて細いものを選んで、ちょっとずつ海水がでるようにっと。
これで甕の中で、延々と海水が煮詰め続けられる状態になった。多分、明日には塩が出来てるだろう。
…できてたらいいな。
そうこうしているうちに、みんなが海から戻ってきた。みんな見るからに大量だ。
今日は蒸し貝だけじゃなくて、焼きでもいってみよう。なんたって牡蠣もホタテも信じられないくらい大きいから、焼き網いらずで、溶岩キューブに乗せるだけ。
簡単、簡単。って思ったけど、溶岩キューブは僕がクリエイトしなくちゃいけないのか。
まあ、今日は余力もあるしなんとかなるでしょう。
いつかは大量に溶岩キューブがいるんだし、今日クリエイトしても、明日クリエイトしても同じ同じ。
さ、みんなの一日一回の食事に間に合うように頑張りますか。あーあ、せめて一日二回みんなが食事できるようになれば、僕もこんなに空腹に悩まされなくていいのにな。
おなかいっぱいって贅沢なことだったんだね。




