神和師の見聞録1
神和師、それは超自然の存在をなだめ、鎮める者たちのことである。
※銃剣と番傘を携え、番傘の番号で仲間を見分けている。
神通力「超自然的な存在を観る力と、その存在から力を借りる能力」を持ち、※祈祷水玉を使うことでその存在を鎮める。
大陸各地に散らばり、人知を超えた出来事を解決している。
※銃剣→小さい銃と、小さい剣。剣は銃に繋げることもできる。銃から祈祷水玉を撃ち出す。弾が超自然の存在に当たると鎮める事ができる。銃では人を殺せない。
※祈祷水玉→満月の夜に、茶碗に入れた水の前で、神和師が祈祷して作り出す聖水が、1週間かかって宝玉になったもの。
1銭→200円くらい
この説明は本文での意味です。
この作品は創作です。実在の人物や、団体、言葉の意味などとは関係ありません。
山々が連なる深い山奥に、小さな村がある。
その村では、30年に一度とある儀式が行われている。その儀式の年が今年らしい。
「その儀式っつーのはなんだ?」
散切り頭のその男は、峠の茶屋で煙管を吸いながら、店主の方をみる。
「へぇ、それが、若い娘を川に捧げるっていう話で」
眉をよせ、険しい顔になって男はつぶやく。
「生贄か」
「そういう噂があるってぇだけでさぁ、お客さん、言いふらさんでくだせぇ」
煙管を吸い終わる。書生のような服装のその男は、黒い羽織りを纏って立ち上がった。
「ああ、情報ありがとな。茶美味かった、釣りは要らねぇ」
銭を5枚、店主に渡すと、男は茶屋を後にした。
「全身黒づくめとは、誰かの喪にでも服してんのかねぇ」
……目の色だけ目立ってたなぁ。なんだったか、金青色っていうんだろうかねぇ。
ちょっとした儲けに顔を緩めながら、店主は仕事に戻った。
人が通らなそうな獣道を歩いていく。
「生贄っつーと、なんだ、山の神か、川の神か、はたまたべつの存在への捧げ物か」
腰に下げた銃剣をいじる。銃剣の剣には聖水を塗布してきた。
里で用意した、祈祷水玉。
「半分は残っているな」
瓶を振って確認しながら呟いた。
超常のものに遭遇してもある程度は闘えるだろう。
「今日はここらで休むか」
番傘を広げ雨避けにして、木に寄りかかる。
小さな焚き火を見つめた。暗い森の中でそこだけが明るいかと思えば、目を凝らして「観る」と、至る所に小さな青い光の粒が漂っている。
「水香蛍か。樹香蛍じゃないんだな」
水香蛍は、水の力に引き寄せられる存在だ。
「こりゃ、居るのは川の神だな」
それから何日か歩き続ける。
すると、盆地に茶屋の店主が言っていた、村が見えた。
「あそこの村か」
家はまばらで、田畑の方が大部分を占めている。
山の方から川が流れ、水車小屋などもあり、和やかな雰囲気だ。
これから、生贄の儀式をするとは思えないほどだな。
「仕事中すまない!この村に宿はあるか?」
ちょうど近くを通った娘に声をかける。
年の頃は、15、6歳ほどだろう。
大きな籠を背負っていることから、山菜でも取りに行くところだろうか。
「この村に宿はありませんよー!」
「そりゃ、困ったな」
「珍しいですね。旅のお方ですか?」
「そうだ。いろんな国を渡り歩いてる」
「わぁ!それはすごいですね!」
娘は目を輝かせた。興味津々なのだろう。
「お困りなら、私の家にお泊まりになられますか?」
見知らぬ者を突然泊めるなど、不用心だと、心配になった。
「嬢ちゃん、そりゃー少し。危ねーぞ。襲われたらどうする」
すると娘は苦笑い。
「こんな、泥だらけの娘を襲う人なんて居ませんよぉ」
何か事情があるのだろう。
「まあ、嬢ちゃんがいいなら、俺としては助かるけどよ」
ひとまず、滞在場所を確保でき、気が抜ける。
娘は森で、山菜を取り始める。それを眺めながら話しかけた。
「なあ嬢ちゃん、名前くらいは知っときてぇ。ちなみに俺の名は、勇水だ」
「私はこはるっていいます。よろしくお願いします!」
こはるはピョンッと立ち上がりそう言う。
煙管を袖から出し、吸い始めようとした時。
気配を感じた。
いつの間にか近くに着物姿の青年が立っている。
「こはる。その人は誰?」
「あ、煌河さん。この方は、旅のお方の勇水さんよ」
「ふぅーん」
煌河と呼ばれた青年は、警戒するように俺をみた。
「きみは村の人かい?」
彼の周りに水香蛍が集まっている。
「そうですけど、なんですか」
彼はますます警戒したように、彼女を庇うように立つ。
彼女は状況が分からないのか、困惑している。
「本当に村の人なのかな?」
「ちょっと、何なんですか?いきなり。村に居るんだから、村の人間に決まってるでしょう」
水香蛍が集まるくらい、水の力が強いのだろう。ということは
「きみ、こはるさん以外には見えない存在だろ?」
指摘する。
彼は呆然として、彼女は驚きの声を発した。
「……はっ?」
「えぇ!?」
「こはる、行こう。変な人には関わっちゃいけない」
「まてまて!分かった。人だということにしておく」
泊まる場所が無くなったら、また野宿する事になる。それは勘弁。
「人だということにしておく?」
「ああ、俺の勘違いだ。きみは村の人なんだな。すまない」
「まあ、分かって貰えたならいいですけど……」
「あの。話が見えないのは私だけ?」
こはるは困惑しているようだ。
「こはる。驚かせてごめんね。さっきの話は忘れていいよ、彼の勘違いだから」
「そう……。煌河がいうなら、忘れることにするわ」
「2人の世界に入ってるとこすまないが、良かったら、きみの家の方に泊まらせて貰えるとありがたい」
娘1人の家に泊まるより、彼の家に泊まらせて貰った方がいい。
彼もやきもきせずに済むだろうしな。
「……煌河でいいですよ。こはるの家に泊まるつもりだったんですか?」
「私が良いっていったのよ」
「こはる、無闇に人を家にあげたらダメだよ」
「はぁーい」
「勇水さん。泊まらせるくらいならできますよ」
「そりゃ、ありがたい。よろしく頼む」
こうして俺は、煌河の家に泊まることになった。