未知の無知
未知の地を訪れるのが好きだ。趣味であり仕事でもある。現地の生物の調査を兼ねている。
さて今日はここらで休むとするか。大きな川の土手を下りて、橋の下で野宿の準備をしていると、ギャハハハという大きな笑い声が聞こえてきた。
そちらを見上げると、ティーンエイジャーと思わしき子供が四人いた。一人がこちらを指さした。
「うわっ、変なやつ。ホームレス!?」
「ガイジンぽくね?」
「不法滞在者だろ」
「きったねえもんな」
「逃げ出してきた奴隷だろ」
「ボコしてやろーぜ」
ニヤニヤ笑いながら土手を下りてくる。
ギョッとした。
ワタシが薄汚くてボロボロのオッサンの姿をしているのは、子供たち避けだった。
綺麗な姿で旅をしていると、子供たちがわらわらと大勢寄ってくることが、これまで行ったところではよくあったからだ。
その子たちは、旅行者から何とかして金品をもらいたがっていた。
挨拶代わりに小銭をねだったり、お菓子や物を欲しがったり、サービスを押し売りしようとしたり。
一人ひとりは痩せた小さな子供でも、十人二十人と集まると、数の力で強気だ。
愛想笑いを浮かべていても、瞳は必死で、切羽詰まるものがあった。そういう子供たちがワタシは苦手だった。
それに比べて、この子たちは何だ?
ニヤニヤ笑いながら、あえて薄汚いボロボロのオッサンに近づいてくるとは。
「ハローハロー」
「アイムパイン」
「ギャハハハ」
「ゴーホーム!」
「I want to be alone」
一瞬シンと静まったあとに爆笑された。
「やべぇ英語!」
「わろた!」
「ギャハハハ」
「ボコろ」
振りかぶった拳がガンッと肩に当てられた。
続けて、別の子供が足蹴をしてくる。
腹部にまともに食らい、うずくまった。
「イタイデス」
「は? 日本語話せるんかよ、うざ」
今度は腹部をかばっている腕を蹴られた。
「イタイデス、ヤメテクダサイ」
「それってあなたの感想ですよね?」
しゃがみこんだ子供がワタシと視線を合わせて言った。
その瞳に切羽詰まったものはない。あるのは愉悦だ。
「ギャハハハ」
「ゴミクズ!」
「キモッ」
ゴンッと顔面に拳が入った。
「モウ ヤメタホウガ イイデスヨ」
「それってあなたの感想ですよね?」
「ギャハハハ!」
続けて殴ろうとしたので顔面を硬化した。
ゴンッと音を立てた拳が、グキッと手首から折れ曲がった。
「痛ッテエエエェェエエェェ!」
「なっおい、どした!?」
すくっと立ち上がったワタシを見て、子供たちは顔色を変えた。
「なっ、おおおっさん、でか!?」
「ちょちょちょっ、待っ……」
「えっウソ、なになになに」
「ソレッテ アナタノ カンソウ デスヨネ」
体を大きく変容させて、ワタシは言った。
この子供たちから学んだ現地文化だ。
なるほど、こう言って殴ればいいのだな。
気に入らないものはボコする。ただそれだけだ。
シンプルイズベスト。