✒ 暴力聖女、再び 3
セロフィート
「 聖女さんは≪ アップラシュナ王国 ≫の国民ではないですね。
≪ クワルチンク大陸 ≫の陸民でもない様ですし 」
マオ
「 そうなのか?
そう言えば──、勇者や聖女って異世界召喚や異世界転生の被害者なんだよな?
聖女様も被害者なのか? 」
聖女:プリティンクリス
「 流石は妖精族って事かしら?
そうね、アタシは≪ アップラシュナ王国 ≫の国民でもなければ、≪ クワルチンク大陸 ≫の陸民でもないわ。
アタシは転移召喚されて来たのよ。
貴方の言う通り、アタシ達は被害者だわね 」
マオ
「 アタシ達??
聖女様は1人じゃないのか? 」
聖女:プリティンクリス
「 違うわよ。
聖女はアタシを入れて30人居るの 」
マオ
「 は?
30人!?
どゆことだよ??
何で聖女が30人も?? 」
セロフィート
「 特定召喚ではなく、多勢召喚をされましたか 」
マオ
「 セロ──、特定召喚とか多勢召喚って何だよ? 」
セロフィート
「 特定召喚とは──異世界召喚をする際、勇者若しくは聖女の素質を持つ者を自動的に選定し、“ 1人だけ ” 召喚する傍迷惑な召喚術です。
多勢召喚とは──異世界召喚をする際、勇者若しくは聖女の素質を持つ者だけでなく、素質を持たない者──周囲に居る者も “ 巻き込んで ” 召喚する迷惑極まりない召喚術です。
聖女さんの場合は、素質を持つ者の近くに居た事で “ 巻き込まれた可能性がある ” という事です。
聖女さんに素質が有り、他の29名が巻き込まれた可能性も有ります 」
聖女:プリティンクリス
「 残念だけど、アタシに素質は無かったわ。
素質が有った子の近くに居たのは確かよ。
素質が有った子は、髪と瞳の色が変わっていたわ。
アタシは巻き込まれた29名の1人よ。
召喚されたからなのか、素質は無いけど聖力ってのは授かってたの。
だから29名も “ 聖女様 ” って訳よ。
因みに本物の聖女様になった子は、神聖力って呼ばれてる聖力より強力な能力を授かってるわ。
今は≪ 王都 ≫の王城内に在る聖女教会で何の不自由も無い悠々自適な聖女様ライフを送っている筈よ 」
マオ
「 29名の聖女様達は違うのか? 」
聖女:プリティンクリス
「 アタシ達は王城で≪ アップラシュナ王国 ≫の歴史を学ばされた後、彼此にある聖女教会へバラバラに派遣されたの。
派遣先の聖女教会で聖女兼見習いシスターとして生活していたの。
で──最近、王城に居る国王様の遣いが来て、聖女宛の書状を受け取ったの 」
マオ
「 書状? 」
聖女:プリティンクリス
「 そうよ。
≪ アップラシュナ王国 ≫に存亡の危機が迫ってる──とか何とかで、諸悪の根源の “ 妖精妃の誕生を阻止しろ ” ってね!
何でも “ 妖精妃 ” ってのが誕生したら、次代の妖精王を産むらしいのよ。
次代の妖精王が産まれてしまうと、王城で保護してる現妖精王が死んじゃうんですって。
現妖精王を死なせない為に次代の妖精王を産む “ 妖精妃 ” の誕生を阻止する必要があるらしいの 」
マオ
「 ………………じゃあ、28名の聖女様達も同じ書状を受け取って、各地区に在る聖女教会から既に旅だった──って事なのか? 」
聖女:プリティンクリス
「 そういう事ね。
フィールドには怪物が出没するから戦いに慣れた戦士妖精を《 妖精市場 》で買ってから旅をする様に──って書かれてたわ。
最低でも3体は必要って書いてあったから、強そうな戦士妖精を立ち寄った≪ 街 ≫で選んで買ってたのよ 」
マオ
「 だから3体も連れてたのか。
でもさ、基本的に1体しか使役は出来ないんだろ?
魔具を使ってるのか? 」
聖女:プリティンクリス
「 使役用の魔具なんて使ってないわよ。
聖女の能力のお蔭で5体までなら妖精族を使役する事が出来るみたいなのよね。
アタシの身の回りの世話をしてくれる妖精が1体居るから、もう定員オーバーね。
戦士妖精が4体も居るんだもの、何とかなると思ったんだけど……。
アンタに負けちゃうって事は≪ アップラシュナ王国 ≫からは未だ出ない方が良いって事かしら……。
折角≪ アスクナルガ ≫に到着する事が出来たってのに…… 」
マオ
「 ──セロ、妖精妃が何処かで生まれるんだよな?
直ぐに次代の妖精王を産むのか? 」
セロフィート
「 流石に直ぐには産みません。
妖精妃が次代の妖精王を産めば、現妖精王の人質としての価値は無くなります。
次代の妖精王が産まれれば、現妖精王の存在価値も無くなり、死に至ります。
現妖精王が亡くなれば、現妖精王に刻まれていた奴隷紋も効果が無くなります。
枷が消えた妖精族は封じられていた能力を取り戻す事になります。
人間が妖精族を使役する事は出来なくなり、使役紋から解放された妖精族は人間の前から姿を消すでしょう。
妖精の羽を広げて空を飛べる様になりますし 」
マオ
「 えっ!?
妖精族って飛べるのか? 」
セロフィート
「 勿論です。
背中の羽は飛ぶ為に生えてます。
妖精王が奴隷紋で縛られている事で、妖精族は飛ぶ能力も封じられています。
妖精族は妖精妃の誕生を心待ちにしています。
次代の妖精王の誕生は妖精族にとっての希望です。
妖精族の希望を奪う王族の味方をしている聖女さん達を戦士妖精は良く思いません。
使役紋の使役力は100%では無い事を忘れてはいけません 」
マオ
「 そっか。
だから寝首を掻かれるって事も有るわけだな? 」
聖女:プリティンクリス
「 一寸待ちなさいよ!
今の話、聞き捨てならないわ!
現妖精王は王族に保護されているのよ!
王族の奴隷って何よ!
妖精王の身体に奴隷紋が刻まれてるって本当なの!? 」
セロフィート
「 勿論、事実です。
現妖精王は産まれて直ぐに妖精王だった母親を当時の王族に殺害されています。
産まれて直ぐに身体に奴隷紋を刻まれ、王族の奴隷になりました。
然し、現妖精王は王族側から真実は告げられぬまま王城で不自由なく暮らしているのでしょう。
王族から “ 保護をされた ” という話を疑わず信じ、王族に恩義と感謝の念を抱きながら現在も生きている筈です 」
マオ
「 騙しながら大事に育てて、生かしてる──って事かよ?
人間が妖精族を使役し続けられる様に── 」
セロフィート
「 そうです。
奴隷らしく不衛生な地下牢に幽閉しても良かった筈です。
然し、当時の王族はその選択をしませんでした。
産まれたばかりの赤子から母親を奪った犯罪行為に対して、僅かな良心が痛んだのかも知れません 」
マオ
「 良心なんか既に無くしてるだろ。
魔が差しただけじゃん?
恩を着せて、感謝の念を抱かせれば、もっと上手く永く利用する事が出来る~~って、考えたんじゃないのかよ? 」
セロフィート
「 否定は出来ません。
現在の王族は、奴隷紋を刻んでいる現妖精王が死ぬ事を良しとしてません。
妖精族を使役する事、約500年──その歴史が現在の王族で途絶えてしまう可能性が高いからです。
当然、妖精妃の誕生を良しとしませんし、次代の妖精王が産まれる瞬間を阻止したいと動くのは当然の事です。
その為に召喚した聖女さん達を利用する事は王族にとっては都合の良い事なのでしょう。
事実を曲げて隠蔽した嘘の歴史を学ばせて洗脳する等、簡単な事でしょうし 」
聖女:プリティンクリス
「 ………………それが事実なら大問題だわ!
聖女のアタシ達は、王族や貴族達にまんまと騙されて転がされてた──って事になるわ!
王族と貴族達の方が悪者だった……。
こんな大スキャンダルを知った事が王族や貴族にバレたりしたら、アタシは── 」
セロフィート
「 間違いなく王族の手の者に消されます。
他の聖女さん達に教えない方が賢明です。
悪戯に死者を増やすだけですし 」
聖女:プリティンクリス
「 ……………………アタシはどうしたら良いのよ……。
王族の刺客に殺されるなんて嫌だわ!!
アタシ達は元の世界に帰りたいから、“ 与えられた役目を果たそう ” って皆で頑張ってるのにっ!! 」
マオ
「 ………………セロ、異世界召喚は一方通行なのか? 」
セロフィート
「 転生召喚は一方通行ですけど、転移召喚は一方通行とは限りません。
元の世界へ戻れる可能性は0ではないです 」
聖女:プリティンクリス
「 えっ?
じゃあ、戻れるかも知れないって事??
本当に?! 」
セロフィート
「 そうですね。
但し、同じ時代に帰れるとは限りません 」
マオ
「 どゆことだよ? 」
セロフィート
「 時間に多少のズレが生じるからです。
30名の聖女さん達が存在していた時間軸の時代より、過去若しくは未来に飛ばされる可能性が高いです。
元の世界には戻れても帰りを待つ家族が生きている時代に帰れる保証は極めて低い──という事です。
強制的に転移召喚された事による “ 副作用 ” とでも言いましょうか 」
聖女:プリティンクリス
「 そんな…………。
元の世界には帰れても時代が違うって──。
彼奴等、そんな事は一言だって………… 」
聖女様が王族と貴族達を “ 彼奴等 ” 呼ばわりし始めた。
相当ショックを受けたみたいだ。
セロフィート
「 正確な時代に帰りたいならば、人間の使う召喚術より妖精族の使う召喚術に頼る方が得策です 」
マオ
「 妖精族も召喚術を使えるのか? 」
セロフィート
「 人間の使う元素魔法の類いは全て妖精族の使う超越魔法の劣化版です。
元の世界に帰る事が聖女さん達の最終目的ならば、王族,貴族達とは手を切り、妖精族の協力する方が賢明です 」
聖女:プリティンクリス
「 ………………現妖精王や人間に使役されてる妖精族は超越魔法ってのは使えるの? 」
セロフィート
「 現妖精王は奴隷紋に縛られている為、超越魔法を使えません。
人間に育てられてますし、仮に奴隷紋が消えても超越魔法は使えないでしょう。
現妖精王が縛られている為、他の妖精族も超越魔法を使う事は出来ません。
怪物との戦闘には苦労します 」
聖女:プリティンクリス
「 そんな…………。
王族の為に頑張って役目を果たしても無駄って事なの……。
都合良く利用されて終わりって事なの……?? 」
セロフィート
「 素質を持った聖女さんが王城で暮らして居るのでしたね。
彼女は29名の聖女達が役目を放棄しない為にと人質として捕らわれている状態です。
奴隷紋で縛られていないだけで、現妖精王と同じ立場です。
彼女を王城から救出するのは至難です。
彼女の事は諦めてください 」
聖女:プリティンクリス
「 なんですってっ?!
圭里を見捨てろって言うの?! 」
セロフィート
「 彼女の洗脳を解くのは “ 容易くない ” という事です。
現段階では無理です。
次代の妖精王が産まれれば、救出するのも洗脳を解くのも容易になります。
妖精族は柵から解放されて自由となり超越魔法を使える様になりますから 」
マオ
「 鯔のつまり、聖女様達は妖精族側に付かないと願いを叶えられないし、仲間の聖女様も王城から奪還する事も出来ない──って事かよ。
王族と貴族達からしたら、とんだ裏切り行為だな 」
聖女:プリティンクリス
「 ……………………………… 」
聖女様は黙り込んでしまった。
心の中で葛藤でもしてるのかな?
う~~ん、意外と話の通じる聖女様じゃんな。
どうする気だろう……。




