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星と推し活とそれから… 5

 推しメンーー。

 それを愛する者は必ずしも、【同性】ではないのだ。

 私は今日、勝手な固定概念に打ちのめされてしまった。


「推し友くんたち、イケてたでしょ?」

 その推し友くんたちとお別れしたあとのこと。

 来夢のとんちんかんな言葉に、私はサイボーグの如く感情のない、眉一つ動かさない表情で来夢をロックオンする。

「…来夢は私とあの二人の邪魔をしちゃいけないって思ってた?」

「ん?」

「随分久しぶりに来夢の声聞いたけど、完全なる傍観者だったよね?」

「実はさ、私、碧くんとは初対面なんだ」

「はぁ?じゃあさ、よく知らない推し友を私に会わせたってことなの?」

「YES!」

「いやテンションおかしいからさ。…朝言ってたあの発言はどう解釈すればいいわけ?」


『期待しててね、ヨリリン!素晴らしい一日が待ち受けてるんだから!今日は推し友共々こちらこそよろしくね〜!』


 よく知ってる風に言ってたくせに、どうなってるんだろう…。

「白状するとね、私ずっと前から碧くんに憧れてたの。それで、偶然碧くんがミコトの友達って知ってさ、METEORのリアルタケシくん推しのミコトにお願いして、今日この場に来てもらったんだ」

 今の言葉だけではまったくもって理解に苦しむし、不十分だと思った。

「そもそも碧くんはMETEORの推しなの?それとも、憧れの人がミコトくんの友達だったってだけでここに呼べたの?」

 来夢が何故か息を呑んでフリーズする。

 同時に私は眉をひそめ、首を傾げた。

 そんな私を見て表情を硬直させ、畏縮いしゅくしている様子の来夢に罪悪感を感じ、何か言いづらいことがあるのだと察した結果。

「…あ、ううん。何も言わなくていい!来夢が嬉しいなら私も嬉しいかも」

 その言葉にこれと言って根拠はない。

 その場を取り繕う(つくろ)べく私が笑うと、来夢は成長した我が子を愛おしむような、安堵した笑みを私に見せる。私はその表情にくすぐったさを感じた。

 これ以上碧くんのことは何も聞いちゃいけないのかもしれない。

「ありがと」

 そのたった4文字の短い感謝の言葉だけで、やはり碧くんのことは触れられたくないのだと察した。

 ただ単に来夢は、前から憧れている人を推し友とし、私とも会わせたかったのかもしれない。取り敢えずそう思うようにしよう。

 どんなに苦手な異性でも、来夢が言う”推し友”として深入りせず繋がってみようと思った瞬間だった。

 私は一般的な推しとは言えないのかもしれない。

 METEORのメンバーについてのこと、つまり、パーソナルや性格については正直なところ、あまりわかっていない。わかっているのは、それぞれの古風な名前と華やかなイケメンくんだということだけ。

 正確にはMETEORの楽曲の詩が好きなのだ。

 星にまつわる詩以外にも月・風・虹などの情緒溢れる詩も秀逸で、感極まって涙腺が崩壊することもしばしば。

 けれどこの際、総じてMETEORの推しとして過ごすのも面白いのかもしれない。そう思った。

 大胆なのに繊細でもあり、何より私に興味を持ち、好いてくれている来夢。

 そんな彼女を信じ、一緒に推し活という生き甲斐を堪能してみたいのだ。

 

 あまり話はしていないけれど、ミコトくんは優しく人を思いやれる心の持ち主だと思った。

 その逆で、碧くんは初対面であれほどにまでいけ好かない…。

 会ったことも話したこともないのに、見透かしたようにいい加減なことを言うなんて…。

 でも、一旦気持ちをリセットしよう。今後の推し活のために!来夢のために!

 私がいつも一緒にいる友達は来夢だけではなかった。だけど、ここ最近は来夢と二人きりになることが多くなっていた。

 この日の放課後も、帰宅部の私と来夢は近くのアイスクリーム屋さんで大好きなチョコミントアイスクリームを食べた。

 その帰り道。来夢がこんなことを言った。

「METEORのタロウくんってね、公開恋愛してる人でさ。彼女がいることをオープンにしてるの。それってすごく怖いことじゃない?ファンが減る要因になりかねないから。でも彼は、隠すと彼女の存在がなくなるようで嫌だからって、ファンにも公認して欲しいんだって。結果公認するファンもいればプロ意識が欠けてるって批判するファンもいるんだよね」

「来夢はどっちなの?」

「私は…」

 来夢の顔は若干ではあったが、引きっていた。わかりやすい。

「葛藤中なんでしょ?好きな推しに彼女がいるって知った瞬間、一瞬でもえるに決まってるから」

 来夢の大きなため息とともに、薄目でにらまれる私。

「見透かされちゃったかぁ〜。そうなんだよねぇ。芸能人のプロならファンをだまし切ってよって思う反面、いさぎよくてかっこいいじゃんって思ってる自分もいるから厄介…」

 私は心の底から思ったことを吐露する。

「恋してるって可愛いね。私には縁がないや」

 口を尖らせ、怪しげな瞳で私を見る可愛い友達。

「まったく…。他人のことはよくわかるくせに、自分のことになれば無知なんだからぁ!その気になれば縁があるのに本当可哀想な子だよねぇ。ヨリリンって!」

 この来夢の言葉を受け、来夢の胸中を誤ることなく理解しているつもりでいた。

 しかし、実際は見誤っていることに、この時気付くことができなかった。


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