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真実とリンク 1

 ”命懸いのちがけで守ります宣言”の夢ーー。

 ミコトと碧がいなくなった3日前にあの夢を見てからというもの、私は毎日お兄さんの夢を見れるようになっていた。

 私はある人のことが脳裏から離れないでいた。


 ーーあの時のお兄さんの瞳は、きっと彼だ。


 そう感じた次の日の夢では、もう答え合わせができていた。

 初めて鮮明にお兄さんの顔を確認できたのだ。

 お兄さんがこの現実の世界にいる人だったことに、複雑な気持ちを抱いた。

 夢の世界でのらしの刑が解禁され、顔をおがめてしまった日を境に、それ以降の夢でも顔をあらわにしてくれた。

 現実に存在する人がなぜ夢の世界で私との密な時間を繰り広げているのか、まったくわけがわからない。

 私は不消化な気持ちを整理できないまま、毎日夢の中でお兄さんとの時を過ごす。


 ーー3日間で見た夢のあらすじはこうだった。

 私は、夢の中では財閥令嬢の女子高生。

 私専属のボディーガードとしてお兄さんを雇った。

 私は慣れない護衛システムに最初こそ嫌悪感を抱き、お兄さんに対し表情がとぼしく、あまり感情を表さなかった。

 なのにいつの日か、職務に実直なお兄さんの存在が気になり始めてからというもの、私は急にお兄さんへの態度を意図的に変えた。

 お兄さんに彼女がいないと知った私は、是非ともその状態を保ってほしいがために、思わずある言葉を口走った。

 その言葉は、この現実世界で聞き覚えのある、あの言葉だった。


『まあ、焦らない方がいいですよ。あなたは交際には向いてなさそうだから』


 夢の中では、私が発した言葉。

 この言葉は、私が以前碧から言われた言葉だったのに、現実世界とリンクしているところが摩訶不思議であり、怖くもあった。

 その後は私が押してもお兄さんはなびかないという攻防戦が繰り広げられた。


『守る対象に心を開かない気?それって失礼すぎない?』


 夢の中の私は、とにかくお兄さんを惑わせたい気持ちが先走っているように思えた。魔性というか、私じゃないみたいで戸惑うばかり…。

 女子大生で今の私とあまり年齢が変わらないのに、すごく大人っぽい印象だった。

 学校でできた親友・恵衣美と喧嘩をし、仲直りの機会を逃したまま、彼女は事故でこの世を去ってしまったり…。

 そんなお酒の力を借りなければならないほど耐えがたい悲しいことがあっても、お兄さんの存在がいかに私を救ってくれたかを十分思い知った。

 お兄さんには恋愛経験がないことに歓喜したり、年上なのに度々の無垢で可愛い反応に母性本能をくすぐられたり。

 他にも、お兄さんとのいろんな物語を夢の中で体験できた。

 この3日間でさまざまな短編や長編の物語を見れているのだが、どうして急に毎日お兄さんの夢を見れるようになったのだろう。しかも続編的に。

 今まではまったく関係のない夢と混ざって定期的に見れていたのに。

 夢の内容によっては泣いて目覚める日と泣かずに目覚める日があり、感情を振り回されてしまっていると感じてはいた。

 だけどまったく疲労感なく、むしろ私の感受性がきたえられていて得しかしていない。

 お兄さんの夢を見て目覚めた朝は断片的ではあったが、なんとなく既視感デジャビュのような不思議な感覚におちいり、思考をフル回転させた。


 ーーもしかしてこの不思議な夢は、何かのメッセージ?


『僕を思い出して』ーー


 そうお兄さんからメッセージを送られているとしたら、思い出した末に何かが起こるのだろうか。

 私を見つめたお兄さんの目が彼の目に似ていたからといって、私はどうすることもできない。

 それに、何かのメッセージではないかというひらめきは、決定打に欠けていた。よって、それ以上の考察は難しいと感じ、早々行き詰まってしまった。

 4日間お兄さんの夢を見続けれるのか…。そんな挑戦者のような感覚でいたのだが、そうは問屋がおろさなかった。

 4日目の夢はいつもとまったく雰囲気が違った。

 突然同世代の男が私の背中に刃物を突き立てた瞬間、夢の中の出来事だから痛い感覚はないものの、痛い表情が寝ている私の胸を苦しめた。

 衝撃的な夢の展開に、私ははっと目を覚ます。


 あのあときっと、命を落としたに違いないーー。


 そして、私を刺殺したであろうあの男は…。

 私は夢から覚めても、犯人である男の顔を記憶していた。

 お兄さんに引き続き、夢の中の登場人物が現実世界の人だと判明した。


「現実世界の彼はあんなにも夢の中のお兄さんっぽくて純粋そうなのに…まさかの悪役なの!?」


 お兄さんのことはミコトには話していたが、親友の来夢にはまだ話せていなかった。私はそのことをずっと気にしていた。

 今日は幸いにも休日だから、衝撃的な夢を見た勢いで夢の世界の話を来夢に話そうと心に決め、正午過ぎに来夢宅へと直行した。

 話を切り出した瞬間、来夢は大きなため息をついて。


「あーあ、とうとうヨリリンが私に話す時が来ちゃったかあ〜。ってことは、衝撃的な最期さいごに直面したってことよね?」

 あっけらかんと察したように言葉をつむぐ来夢。私は猛烈に驚いた。

「え!?なんで?来夢は何もかもお見通しってわけ!?」

「うん。多分…?まあこの際詳しいことは追々《おいおい》話すよ」

 信じられない。ここはどんな世界?私の夢の中のストーリーを、なぜ知り得ない来夢が知っているのだろう…。

「じゃあさ、彼の顔も見ちゃった?ヨリリンのイケメンボディーガードさんの顔」

「うん。見た。はっきりと」

「じゃあ、ヨリリンを痛い目にあわせたあいつの顔も見たってことよね?」

「うん…」

 なぜ私は今、来夢と夢の中での話を共有できているのかと不思議な気分になり、これも夢の中じゃないかとおかしな思考になっていた。

「じゃあ、手始めに大切な人から会いに行こう」

 手始めとはどういう意味?今から何が始まるっていうの!?

「誰に会いに行くっていうの?あっ、ちょっと来夢、そんなに引っ張んないで!来夢ってば〜っ!!」

 来夢に強引に腕を引かれ、連れて行かれた場所。そこはーー。


「ママ?」

 なぜか来夢に連れてこられた場所は、我が家だった。

「ママさんも何もかもお見通しよ」

「え!?なんでママが?」

「ヨリリンの原点である母体から話を聞くことが重要かな〜って思ったんだ」

 だから”手始め”がママなわけね。理にかなってる。

「ていうか、なんで来夢が私のママのことまで知ってるの?」

「知ってるわけじゃなくて、決めつけかな。前世ではほとんどの人が亡くなった時、神様に来世での希望を懇願することが主流だとされているから、当然ママさんは我が子とまた次でも親子関係でありたいと願うものなんだって」

 前世…!?そんな次元の違う世界の話に、私は抵抗すら感じてしまった。

「依。とうとうこの時が来てしまったかぁ〜」

 ママの表情が一変し、成長した我が子をいつくしんでいる様子。私は訳がわからなさすぎて、口が開いたままだった。

「来夢ちゃんの言う通りよ。ママは前世でも、依のママだったの」

 頭が混乱して思考回路がバグり中…。

「前世ではあなたを20歳という若さで早死にさせてしまった。そんな不甲斐ない親なんて、親でいる資格なんてない」

「え…何言ってんの?ちょっと待ってよ、ママ…」

 この人が世間知らずで楽観的なあの私のママ!?らしくなく思い悩んでるじゃない。

「なーんて思ったんだけどね、やっぱり私は依のママでいたいって思ったの」

「ママさーんっ!!」

 いや待て…。なぜ来夢がママに泣きつく!?

「だからママは前世での死に際、リベンジで神様にお願いして今現在、また依の親としてここにいさせてもらえてる。特別罪を犯していない人が死に際に接した時、神様に懇願して来世に期待を抱くものなのよ」

「安心した。じゃあ、これからもず〜っと一緒にいなきゃね、ママ!」

 決してママを泣かせたいわけじゃない。だけど、想いをさらけ出さないと、ママの深い愛情からくる私への絶大な想いには勝てないと思った。

 私も十分ママが大切で、きっといてくれないと狂ってしまうほどかけがえのない人だと伝えたかったから、泣きじゃくるママにこの言葉を捧げたい。

「前世から私のママでいてくれてありがとね。誰よりも愛情深いママが大好きだってこと、一生忘れないでよね」

 これでママが犯した”推し活初日お泊まり会加担事件”を、穏便に済ませてあげるとして…。

 何より、ママの”表向きあっけらかん顔”ではなく、”メソメソあらわ心情”を知れたことが何よりの収穫だった。

 ここでふとママの言葉を思い出す。


『特別罪を《《犯していない人》》が死に際に接した時、神様に懇願して来世に期待を抱くものなのよ』


 じゃあその逆で、『罪を《《犯した人》》が死に際に接した時、神様に懇願して来世に期待を抱くことができない』ってことになるのだろうか。

 前世という世界が本当にあるとして、来世への期待を胸に突き進んでいきたい人が人知れず犯罪者ならば、神様は見放すのだろうか。この答えは来夢が教えてくれた。

「今ママさんが言ってたことに付け加えるとね、犯罪者でも神様に懇願して《《特別枠》》として望みを叶えてあげた人がいるんだよ。でね、その人は今世間に貢献して生きてる」

「え、誰?その人って私が知ってる人?」

「うん。知ってる人。じゃあママさん、もう少し大切な娘さんをお借りしますね!」

「はいは〜い。いってらっしゃ〜い!」


 私はいつもの楽観的なママに見送られ、再び来夢によって強引に連れ去られたのだったーー。


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