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変化 2

 ここは、とあるオフィスビルが立ち並ぶ、一見都会感あふれる空間の一部にこぢんまりとたたずむお洒落なアイスクリーム屋さん。

 黒とウォールナット風の木材でコーディネートされたインテリアが今流行(はやり)りのカフェっぽい。

 ここは、私と来夢の放課後天国の聖地と言っても過言ではなく、最近私たちが頻繁に通う大好きないこいの場となっている。

 私はこの場所に、ミコトと来たいと常々思っていたのだが、こんなにも落ち着かない感じで実現した。

「あ、ライームと依さま。今日も御来店ありがとう。そちらのイケメン2人も連れなの?」

「まあね。いつものあれ4つでよろしくね〜!」

 碧は断固としてここに来ることを拒否したのだが、ミコトの言葉で降参した。

『この状況だし、僕の方がよっぽど行きづらいんだからさ、碧が付き合ってくれると助かるんだけどな〜』

 しぶしぶついて来たからか、碧の顔がいつもより引きつって見えるのは気のせいなのかな…。あれ?なぜか目を丸くしているミコトも反応が変じゃない?

 二人の視線の先にはイケメン店員くん。

 さては、自分たちと同等のイケメンを発見したからびっくりしてるのかな。

「ていうかさ、私と依に対する呼び方格差、なにげに傷つくんだが?」

「悪気はないんだ。《《ライーム》》は親近感の表れで、《《依さま》》はほら、どこか神々《こうごう》しい存在の子だからついね。じゃあ、いつものミントチョコのチョコ2倍を4つね。好きなとこ座って待っててね」

 ”いつものあれ”で通じる常連感から、いかに来夢と私がこのアイスクリーム屋さんへと頻繁に通っているかがわかるはず。

 4人席に座る。連れのイケメン2人はここに到着した時から、何やら様子がおかしく、店員の緒実つぐみくん(以後、ツグミくん)を凝視ぎょうししている。

 口火を切ったのはミコトだった。

「あの店員、いつもあんな感じなの?」

 警戒心をき出しにしているのは、私を”依さま”って呼んでいたから?

「いつも?あ〜、うん。優しくて親しみやすい人だよ」

 来夢が答えると。

「依もそういう印象?絶対に間違いない?危害を加えるような男じゃないって言える?」

 私に執拗しつように問いただす。

 彼女に忍び寄る優しい顔をした悪魔かもしれないと、心配しているのだろうか。

 だとしても、私はもうミコトのことを彼氏としては見れそうもない。

 そして、ここに誘ったのは、こじれた恋人関係を修復させようと企んだからではない。

「どうしたの?ミコト…。優しさのかたまりのツグミくんが豹変して危害を加えるなんて、断じてないって言えるよ」

 優しい内面と優しい声はミコトも同じで、ツグミくんもその点が同じ印象だった。

 だけど、ほぼ毎日この場所に来てツグミくんと接していると、優しい雰囲気にも種類があるってことに気付いた。

 これは感覚的な観念だからうまく説明できないが、ミコトよりもツグミくんの方がなんとなく、お兄さんの印象とマッチしている。

 ”依さま呼び”をされるようになったのはここ最近からで、お兄さんと同じ呼び方に、正直ときめいてしまった。

 雰囲気がなんとなく似ているという曖昧あいまいな感覚だけで、お兄さんに近いと感じてしまっても、私にはなんの意味もない。

 ただ少し話してアイスクリームを食べて帰る。そこに+α(プラスアルファ)でツグミくんにお兄さんの面影を探してみても、やはりなんの意味もないのだ。


 だって実際に好きなのは、夢の中のお兄さんなのだからーー。


 ミコトは恋人である私に一切触れない。だからと言って、私が愛想を尽かして他の人を好きになるのは、道理に反していてあり得ない。

 だけど、さっきのミコトと女の子を見て率直に傷ついたと同時に、悪者はミコトだけにしちゃいけないと思った。

 結局のところ、私に最大限のときめきをくれるのは、優しい雰囲気や声がお兄さんに似ている恋人のミコトでも、ツグミくんでもない。

 目で見てわかる浮気ではないにしろ、夢の中のお兄さんに執着している私に罪がないはずがない。

 私は帰り際、ミコトと二人で話したいと言い、恋人として最後の時を過ごした。

 そして、以前ミコトにも話したことがあるお兄さんへの執着心と、その執着からくるツグミくんへのちょっとしたときめきを包み隠さず話した。

 すると、ミコトは血相を変えて私の肩を掴んだ。

「次はツグミくんを好きになるの?絶対にそれはダメだよ。だってあいつは…あいつには依を守れない」

 これほどにまで焦燥感に駆られているミコトを見るのは初めてだった。

 ツグミくんに会ったのは今日の一回だけなのに、ミコトは何を悟ってそんなことを言うのだろう。

 私の肩を力強く掴んでいた手を退しりぞけたミコトは、苦笑いをした。

「僕と依は違うか。無実の依を悪者にするところだった」

「ごめんなさい、ミコト。私はやっぱり、夢の中でだけ会える得体の知れないお兄さんのことが…」

「うん。僕もそうでいてほしい」

「え?」

 思いもよらない言葉に驚いていると、念を押された。

「そうでいなきゃダメだよ、依。現実世界で君を守れるのは僕だと思ってたけど、やっぱり愛を守り抜くのは無理だった。僕もツグミくんも、ずっと依の心を守ってるお兄さんには勝てないんだよ」

 少し前に見せた焦燥感からくる引きつった形相ぎょうそうとは違い、安らいだ顔をしている。

「まあツグミくんはさ、私たちの色恋沙汰いろこいざたにまだ参戦すらしてないけどね…」

「そっか。お兄さんに優しい雰囲気と声が似てる人扱いってだけだよね。その点僕は恋人として依のそばにいれたけどね」

 そう思ってくれていたのなら、なぜ他の女の子と…?

 一瞬そんなふうに思ったけれど、もはや恋人関係を解消した今、真相などどうでもよくなっていた。

「ねえミコト、別れても推し友でいてくれる?」

「もちろん!でも、僕はツグミくんのことを信用してないからね。男で信用してるのは碧だけだから」

「はいはい。嫌なヤツなのに?」

「まあそこは…」

「《《私にだけ》》だもんね〜、どうせ」

「依って、すごくたくましいよね」

「それ褒めてる?」

「うん、すごく!」

 ミコトと私の交際は、思えば二人の気持ちが噛み合わないまま終わってしまった。

 未だに不可解だと思うようなこともあるけれど、私たちはきっと、相手選びを誤っただけ。


『君の隣にいるのが、僕じゃない他のヤツじゃダメなんだ』ーー


 覚悟を持ってあの言葉を発したあの日のミコトと、あの言葉に感動したあの日の私には、確実にケミストリーが生まれ、二人の時を共有したいと願ったことは間違いのない事実だった。

 見当違いで終わらせるのは、ドラマティックで美しい思い出が汚されるようで、嫌だと思った。


 ”あれはあれで良かったーー”


 これで終わった恋は報われる。

 パズルのピースがピタリとはまるように、お互い適切な相手に出会う日が必ず来ると願ってやまない。

「未成年じゃなかったらお別れ記念にお酒でも飲みたい気分だよね」

「だね。…ところで依」

「ん…?何?」

 呼ばれて背の高いミコトを見上げた。すると、彼の背後でキラキラと存在を主張している無数の星たちに視線が向く。

 でも今は、星に魅了されていてはならない雰囲気で…。

 突然なる真剣顔のミコトに、私はどんな顔で向き合えばいいのだろうか。

 そんな私の危惧きぐなど眼中になさそうなミコトだったが、突如魅力的な言霊ことだまつむいだ。


「お互いの門出、いや、依の祝いの門出は確実だから、僕のこの言葉を信じて突き進むといいよ!」


 占い師のごとく確信を得ているようなその言葉を信じて、私は迷わず突き進もうと心に決める。


「僕たちの推し活、これから力入れていくからついて来てね!」


 その言葉の真意を、この時の私は想像すらできていなかったーー。


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