新しい散歩道 【月夜譚No.225】
店先に人形が座っている。雪のように白い肌をした、ビスクドールである。
豪奢なドレスに身を包み、フリルのついた日傘の下でやってくる客を迎えている。少女の無表情は冷たさを感じるが、「Welcome」と書かれたポップな木看板を抱えているのがちぐはぐで、つい笑みが零れる。
最初に目が留まった人形から視線を上げると、シンプルな店の看板が見える。どうやら、手芸用品店らしい。
人形の後ろのウィンドウを覗いてみると、棚に手作りらしい小物が並んでいた。添えられた札によると、店主の手遊びで作ったものも販売しているようだ。利益は二の次、半分は趣味でやっているような店舗らしい。
温かな陽射しが少し眩しいような、冬の昼下がり。のんびりと散歩でもしようかと出てきたが、こうした何気ない小さな店を回ってみるのも悪くはないのかもしれない。
この辺りには、引っ越してきたばかりだ。新しい発見はあちこちに転がっているはずである。
彼は空気の匂いを嗅ぐように頭を持ち上げ、自慢の長い尻尾を翻して店を後にした。