第82話 みずち
「蛇やー。」
久しぶりに思い出した蛇嫌いの設定を叫んで、ユカリが逃げ出した。
「あ、ユカリさん!」
慌てて心配したサユリが追いかけようとしたけど、ユカリが一同の荷物から、黒烏龍茶2リットルのペットボトルと五家宝を一袋持って行ったのを認めて、ついでにお煎餅の袋(お得用5種類パック)を取り出して、自分は追いかけるのをやめた。
「お茶入れますね。慎吾様。サラダ煎餅と抹茶煎餅と、ザラメ煎餅。どれが良いですか?」
毛氈に座布団を敷いて、お煎餅と一緒にお漬物を並べ出した。
サユリが唯一美味しく作れる料理がお漬物。
どこで誰にどう習ったのか知らないけど、道端で売ってる野菜を一夜漬けにする腕は見事だ。
おかずにも、お酒のアテにも、お茶受けにもちょうどいい。
ユカリもあの様子なら、楽屋に戻って一休みするんだろう。
実際、ユカリが蛇嫌いなのは事実なので。
今回、自分の出番が無さそうなのを、さっさと見抜いたのだろうし。
さて、昨日は胡瓜を漬けていたな。
芥子を添えて、渋いお茶を一杯淹れてくれ。
醤油は要らないや。
「畏まりました。お任せください。」
「あ、儂も。」
烏龍茶好きの変な日本神・多岐都姫がユカリのあとを追おうとして、ジェニーに止められた。
人差し指を立てて、首と一緒にふるふる震わせている。
そりゃそうだろう。
前回、多岐都姫が予定も無いのに突然泣き出したせいで、話が伸びたんだから。
あと、お前さんは今回、割と重要な出番があるから残ってなさい。
「そうは言っても、前回からまた更新の間隔が空いたから、なんで泣いてたかなんか覚えてないぞ。」
お前なあ。
お前のキャラ付けとして、それなりに印象的なシーンだっただろ。
全ての超越者である神が肉肉しい感情を露わにする、読者がグッと惹きつけられるシーンだ。
「だったら、もっとこまめに更新せんか。予定では、あと4~5回くらいで完結予定じゃろ。本来なら去年の年内に完結予定だったと聞いているぞ。」
いや、前回だって本来なら1回分のネタだったんだよ。
なのに、お前は泣き出すし、ドラゴンちゃんはダラダラ喋り続けるし、ドラゴンちゃんが行ったら行ったで、嫁ーズが喋り出すし。
何もしないうちに予定の半分で5,000文字超えちゃった。
「さすがに呆れられたかおかげで、読者からの再生数が減ってるのう。」
うむ。
これがゼロになれば、もう書く必要がなくなるとか、考えてねぇぞ。
「あと、何回かで終わるなら、さっさと書いて終わらせんかい!」
善処しまーす。
「おのれは…」
「それで、私はいつまでここにいりゃあいんですかね。物理的に10日くらい待機しとるんですが。」
ああ、元蛇神の竜神か。
すまんな、作者が風邪ひいてな。
上の戯言書いてた記憶が無いらしい。
読み返してみたら、まぁまぁ読めるから、そのまま残す事に決めたんだと。
「あらまあ。大丈夫だったんですかね。」
アマプラで、ヒロシのぼっちキャンプをseason4まで全部見たそうだぞ。
「余裕ありそうですな。」
あぁでも、映画ゆるキャン△はお気に入りに突っ込んであるけど、映画を見る元気は無いそうだぞ。
ついでに、天井裏でネズミか何かが走ってうるさいとかで、熱あんのにホームセンターまで車出してネズミ駆除剤を買い占めて来たらしい。
年度末だってのに、有給の残りも減ってくるし、人が寝込んでいるのに、ベッドの下でポメラニアンとフェレットが遊べと待機してるし。ちょっと物音がしたら、ベッドに飛び乗って顔をべろべろ舐めるんだと。
フェレットが家の中走り回っているのに、ネズミか全く気にしてないのはどう言う事だ。
ぶつぶつ。
ハイハイ。わかったわかった。
いくらメタ視点だらけのラノベとはいえ、作者まで出てきて不平不満言い始めたら、いつまで経っても終わらん。
って言うか、最近小説なんだかエッセイなんだか、区別がつかなくなってるしさ。
途中からまともな描写を辞めて会話劇に切り替えた(開き直った)らしいけど。
異世界無双ラノベでスタートして、エッセイで終わったら、いくら「なろう」でも、それはもうネットサーバーの無駄遣いだ。
なんとかしろよ。なんとか。
早よ終わらして、別章もしくは続編に切り替えるんだろ。
一応、設定とプロットがガッチリ固まっているから、こっち終わらせないと全部忘れるぞ。
せっかく書き始めた数話をどうすんだよ。
さて。
閑話休題。
閑話休題。
みずち。
蛟。
螭。
南方熊楠曰く、水辺に棲む蛇の主。
本居宣長曰く、水の主。
和妙抄に曰く、咬竜。
統一したイメージは、水蛇であり、水神であり、竜である。
いずれにしても、水の神。
蛇に羽根が生えた姿で表されると言う。
つまり、人魚や河童といった妖怪怪異ではなく、立派は神様だと言う事だ、
つまりつまり、並の人間には強敵になる。
それは神殺し。
ヒトがカミを殺す。
ヒトとして、最低最悪の、底辺の悪行であり悪業である。
…今まで、うちのお嫁さんたちは殺してなかったかなぁ?
あと、一番の問題は、だな。
『うちの戦闘要員の中で最弱の元蛇神は、みずちの最高位の神であり、竜神と化した現在では、みずちを率いる存在である』
って事だ。
困ったなぁ。
どんなに文献を調べて、こいつは使えるかと思っても、大体うちのパーティメンバーでかたがつく。
主人公の俺なんか、しばらく何もしてないぞ。
と言うわけで。
敵さんが満を辞して投入したみずち軍団は、うちのミソッカスの竜神の命令で、回れ右して帰って行きました。
おいおい、みずちの描写すら無しかい。
盛り上げてみたけど、無駄でした。
「ですよう。無駄な抵抗はもう止めて、みんなでお茶にしましょう。お茶に。」
「緑茶じゃなくて紅茶はありませんか?」
「出先だし、アールグレイくらいしか無いわよ。」
「わたくしはそっちで。あ、あとクッキーを焼いてみましたよ。クッキー。女子力を高めるにはスイーツ作りは欠かせません。旦那様をスイーツ男子に仕立て上げるのが、ここ最近のわたくしの野望です。」
「私もお煎餅かおかきでも焼いてみようかしら。」
「おい主様よ。アンチクライマックスは良いが今回酷過ぎんか?儂、前回何で泣いたんじゃ?」
知らんよ。作者のプロットを無視してお前が勝手に泣き始めたんじゃねぇか。
泣いた多岐都姫。
「人を赤鬼みたいに言うな。」
泣いたしか合ってねぇのに、何故わかったし?
「お主にも作者にも、いい加減付き合いが長いからの。勢いだけで思い付いた事、何も考えんと入力しとるだけじゃろ。」
自動書記みたいなもんだな。
一度始まっちゃうと、2~3,000文字くらいスラスラ書けるぞ。凄えな。脳みそが駄々滑りしている妄想をキーボードに叩きつけてたら、小説っぽいものが出来上がるんだ。
「竹取物語の不詳作者以降、1,200年に及ぶ我が国の創作者全員に土下座せえ。」
そこでお茶会始めたうちの女房達も、元はちょっとエッチな見習い剣士と、かなりエッチな英国女王だった筈だ。
今やなんだ。
緋毛氈に朱傘を立てて、矢絣羽織袴のサユリに、赤を基調とした振袖姿の金髪娘ジェニーが、とうとうお弁当を広げ始めた。
風邪からの熱意が下がったので、少し書いてみたらこのざまだよ。どうしよう。
あー。ゴホン。
さてさてさてさて。
閑話休題。
閑話休題。
閑話休題。
閑話休題。
別に俺もこんな事、いつまでもしたくないし、作者だってただの自由投稿小説に変な義務感を持ちたかねぇんだ。
作者がいつまで経ってもストーリーを再開させないなら、俺が勝手に再開させる。
「おお!そう言うのもキャラクターの暴走と言うんでしょうか?」
いや、キャラクターによる軌道修正だ。
物語が暴走して、作者がやさぐれている以上、こっちでなんとかするしかあるまい。
「滅茶苦茶な主人公が、実は一番真面目でまともだったパターンですな。」
俺のワタリの力は、本来ならこんな事で消費するものじゃなかった筈だけどな。
「まぁそこら辺は、隠されていた主人公補正と言う事で。では、私の役目も終わりなのでこれで。」
楽屋には行くなよ。
今頃、蛇嫌いのユカリが八咫烏と寛いでいる筈だから。
「だから、なんで貴方が直ぐ物語を壊すんですか?」
そう言葉を残すと、苦笑いを浮かべて竜神はサユリの中に戻って行った。
…なんだかなぁ。
この程度の描写も久しぶりの様な気がする。
さてさてさてさて。
さてさてさてさて。
敵キャラを無双する前に制圧してしまった為に、本来なら前回のクライマックス場面を今回派手に消費する事に失敗した訳だ。
それでも俺は、ちゃんと次の手立て(プロット)を考えていた。
前回、ドラゴンちゃんが途中でどっか行った事を覚えている読者貴兄はいるだろうか。
俺は忘れていた。
当たり前だ。
何日更新してないんだよ。
ドラゴンちゃんが出て行った理由。それは。
「呼んだか?我が主。」
あぁ今鉤括弧使って、今回2度目の強調をかまそうと思ったのに。
「空から見とったが、さてさてと、閑話休題のどんぶりがそろそろウザくなってたからな。」
うちの小説の、地の文て、空から見えるをやだ。
「看取ったという変換をしても良い。」
お、地口遊びだな。昔は2人でよくやったものだ。
けど、ま。今は真面目ターンなので。
例のものは手に入れたかな?
「おう。バッチリよ!」
「例のもの?」
すっかりお花見モードに入った嫁ーズに混じるわけにもいかず、手持ち無沙汰だった多岐都姫が俺達に近づいてきた。
例のもの。それは。
龍の珠に護られた「八尾比丘尼」の純粋な魂だった。
自らも人化して、掌サイズになった龍の珠をドラゴンちゃんは多岐都姫に捧げる。
傍若無人なドラゴンちゃんではあるが、超越者には超越者として権威を尊重する。
異世界・多次元の、異教の神であり、単純な戦闘力なら余裕で上回るドラゴンちゃんであるが、多岐都姫の意思を尊重していた。
珠の中では、十二単を来た少女が静かに首を垂れている。
「お前さん。これは一体、どう言う事か…。」
珠を覗き込む多岐都姫の口からは、既に神の威厳など消え、愛おしい肉親に対する想いだけが溢れ出る。
泥水の中にワインが一滴落ちても泥水だか、ワインの中に泥水が一滴でも落ちれば、それはワインじゃない。
「うむ。」
或いは、オレンジジュースの中に酒を混ぜて、そこから酒だけを取り出すのは不可能だ。
「それはスレイヤーズのにゼルガディスで読んだ様な気がするな。」
多岐都姫が富士見ファンタジア文庫を読んでたのかよ。
けど、俺たち。
俺とドラゴンちゃんには出来る。
俺たちは、エントロピーの法則なんか簡単に無視できる。
「滅茶苦茶じゃ。」
滅茶苦茶も何も、このパーティは物理法則を無視する事でお馴染みだろ。
それがワタリの力であり、ワタリと縁を結びワタリに使役される神の力だ。
あとは。
幸い、八尾比丘尼の身体は不死身だ。
何をやっても死ぬ事はない。
何をやってもの元に戻る。
だが、中に入っている魂はどうか。
数十回、数百回、数千回、数万回、数無量大数回、身体を叩き潰されて、擦り減らない魂はあるか?
それを俺たちは試しに行く。
文字数的にも、そろそろいいだろう。
最初から最後までふざけっぱなしの小説だが、次回から真のクライマックスだ。
ワタリの俺。
秋津流剣士・秋津サユリ。
秋津流魔導士・ジェーン・アキツ・グレイ
秋津流成龍・秋津ユカリ
俺の使役するカンスト龍神・ドラゴンちゃん
秋津サユリが使役神・竜神
日本神天照皇大神が三女・多岐都姫
同じく天照皇大神が遣い・八咫烏
以上を以て、敵本陣に殴り込む!
刮目相待!
「そんな事言って、更新が一月先とか、面倒くさくなって戦闘シーン丸々カットとか無いよね。」
それを言いたいが為に楽屋から出てくるかユカリさん。
だったら、時々現実世界まで行って、作者の耳の裏でも掻いてやれ。