第74話 人魚大戦
さてさて。
のんびりと歩いている俺達の前には、さまざまな障害が立ち塞がらなかった。←←←
あー、一応、旅人やら通り縋った集落の人やらからは、奇異な目で見られてはいたんだ。
何しろ金髪美少女が着物を着て、しゃなりしゃなり歩いてんだから。
こう言うのがあるから、いつもの車を馬車仕様にしようか?と提案したんだけど。
どうやっても悪目立ちするじゃん。俺達。
「旦那様の国を見て歩きたいのです。」
って、真面目な顔と真面目な口調で言われちゃったら、こちらとしては引き下がるしかない。
普段、どれだけ巫山戯ていても、剣術修行には生真面目・糞真面目になるサユリと同じく、文化の吸収モードに入った時のジェニーは大真面目になる。その意思を最大限汲み上げてやる事は、夫婦の契りを結んだ男としての甲斐性だしな。
勿論、絡んでくる野郎は居たけれど、大体サユリのひと睨み(闘気込み)で失禁したり失神したりショック死したり。
それでもたまにヤケクソで切り掛かってくる奴は、俺がアッパーで成層圏まで飛ばしたり、蹴りで1里ほど先の里山に人型の面白穴の材料にしたり。その内、俺達が人外とでも思ったか、坊さんやら祈祷師やらが折伏に来るようになったので、多岐都姫の圧倒的神威で最大級土下座(うつ伏せのまま圧死)させたり。
結局、集落というか、それなりに大きな宿場町だったようだけど、知らない内に地回りの破落戸達を殺し尽くしたり、変な宗教を壊滅させたりしてたらしい。
「パパが普通に歩くだけで、結構悪が滅びるよね。」
ユカリはさ。普段歩いていて、地面を這いつくばっているアリンコや毛虫を気にするか?
「パパ、あれアリンコじゃなく人間。」
人間の世界にはな、不快生物ってカテゴリーがあってな。そう言った不快生物を防除するビジネスがあるんだ。カマドウマとか、害は無くても気持ち悪いだろ。
「パパ。よりによってお姉さんに絡んでくる男も男だけど、便所コオロギにする程かなぁ。」
ユカリに付く悪い蟲は、パパが全部防除するから安心しろ。
「その蟲の字は使うとこじゃないよ。虫とかムシとかの字を使おうよ。って言うか、パパは娘の結婚を許さない頑固派親父なの?」
そりゃお前、ユカリの婿だぞ。余程の大物か変人か、そのどちらかだろう。
「ユカリの旦那様は変人じゃなくちゃ駄目なの?」
逆鱗を超えて神化した龍なんか何百年ぶりって、うちのドラゴンちゃんが言ってたろ。
並みの男(龍)じゃ、ユカリの婿は務まらんだろう。
「ユカリ、迂闊に強くなりすぎちゃったなぁ。」
「何。ユカリさん結婚したいの?」
「駄目です。許しません。どうしてもというならば、わたくしたちの屍を乗り越えて行きなさい。」
「パパ、もっと厄介なおかーさんが2人も現れた。」
「面白そうじゃな。神たる儂の屍も超えていけ!」
「厄介さんが3人に増えたよ。」
…そんなゲームがPSにあったなぁ。
「パパ、遠くを見てしみじみしないで。ユカリの、娘の婚期が遅くなっていくよう。」
基本的に寿命が無い龍の婚期っていつだ?
あと、卵生なのか胎生なのか。ふむ、うちのドラゴンちゃんで試してみるか。
「パパとお姉様の子供とか、この世が終わりそうだから、あと数万年経ってからにして下さい。」
いや、そんなに真面目に頭を下げられても。
あと、残りの4人は何故土下座してる?
「「「「ドラゴンさんとの子作りは、私(儂)(オイラ)が死んだ後にして下さい。」」」」
……そもそも多岐都姫と八咫烏はいつ死ねるんだ?
しばらく街道を歩くと川に出た。
大河だ。
向こう岸まで川幅だけで100メートルは優にある。
土手はかなり低めであるが、河川敷をたっぷりと取ってあり、その面積で洪水を防ぐタイプなんだろう。
…何川だろ?数話前は出雲に居たっぽいけど、今俺達は何処を歩いているのやら。
まぁ、雪を被った山を背景は、結構雄大な眺めなので、一休みしようかね。
飯にでも、すんべや。
「陽はまだ中空にまで登って無いけどね。お昼にはちょっと早めかなぁ。」
「でも姉さん。いつもと違ってずっと徒歩ですから、わたくしはちょっと疲れ気味です。」
「ジェニーお姉ちゃんは、皆んなと比べると普通の人だから、体力も普通だと思うよ。鍛えているおかーさんと一緒にしちゃ可哀想だよ。」
「大丈夫ユカリさん!私は体力こそ有り余っているけど、お腹はもうぺこぺこに空いているから。」
うちのお嫁さんは燃費悪いなぁ。
つうわけで、昼だ昼。
足元の石を拾って、空高く放り投げる。
しばらくして、投げた石の数だけ山鳥が降ってくるので、首をキュッと絞めて羽を毟りながら血抜きをする。
最初の頃は、空に飛んでる低級な野良ドラゴンを狩ってだなぁ。
あの頃の異世界ファンタジー設定は何処行った?
俺が狩って来る動物は旨い!っと、その舌で味合わされた嫁ーズは、俺の狩りや下拵えに顔色一つ変えない。
「薪はこれくらい有ればいいかな。芒と猫じゃらしが沢山生えてるから、これを着火剤にしましょう。ユカリさん。火宜しく。」
「わかったー。吹くねー。ふぅうう。」
「野蒜がたくさん生えてますね。これを汁の実にしましょう。」
イギリス女王が堤防で野草を摘んでる気もするが、うちのジェニーさんはいつでもどこでも美味しいご飯を作る事に手を抜かない人なので、食材が有れば何処へでも過ぎてたまに俺が制止する必要があったりする。
日本に来て早々、竹林を見つけたので筍を掘って来て、皮ごと焚き火に放り込んだ直火蒸しに醤油をぐるぐる掛け回しただけのものを食わしたら、以降竹林を見つけるたびに突進するようになっちった。
一応分別を弁えた、ついでに俺達の中で唯一高等教育を受けた人なんだけど(俺は大卒だけど、高等教育には縁がない庶民の生まれ育ち)、そこら辺はまだお子様。自分の欲には敵わない。
てなわけで、今日の昼は。
・山鳥の香草焼き
・焼きおにぎり(醤油と味噌)
・野蒜の味噌汁
まぁまぁだな。
川で釣りしても良かったんだけど、陽当たりの良い堤防で飯を食いたかったから、釣りはいいやって事で。
「「「「「いただきまーす」」」」
うい。
「ジェニーお姉ちゃんのお汁って美味しいね。」
「ありがとうございます。旦那様に習ったお味噌汁ですよ。」
「山鳥の塩焼きも旨いのう。」
「烏のあっしが食べるのもどうかと思いやすが、旦那の料理はサイコーでさぁ。」
「結婚早々いきなり野原でコレをお見舞いされたんだよ。私の全てを捧げても、この人に付いて行こうって思うでしょ。」
お世話様。
ぽつぽつ。
外はこれだけ天気が良いのに。
降って来たよ。
ぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつ。
ほいっと。
一同が溢れないように、かなり大きな傘を広げる。
家族達は俺に構う事なく、野趣溢れる昼飯に夢中になってる。
ワイワイガヤガヤ。
「七味を取ってくれんか七味。」
「ひちみ。」
「違う!七味!」
「ひちみ。」
「おかーさん達、GAごっこはマイナー過ぎます。アニメになってない原作部分、それも美術部パートを。」
「どうでもいいんじゃが、早よひちみくれんか?」
「あー、ピヨちゃんにひちみが移った。」
いつもながらの馬鹿話。
神様ーズは真っ昼間から酒を煽ってるし。
ざーざー。
あれまぁ、本降りになって来たなあ。
ざーざーざーざー。
「「「「「ご馳走様でしたー」」」」」
はい、お粗末さま。
「まったく。折角の昼餉なのに。興を削がれるのう。」
「もう、向こうが見えませんわね。」
「それにしても、藝がありませんな。」
「コレばっかりだとねー。」
ざーざーざーざーざーざーざーざーざーざーざーざーざーざーざーざーざーざーざーざー。
という事で、降っていたのは矢。
また矢が大量に飽和攻撃して来た訳。
矢自体の殺傷能力は、普通の矢と変わらない(みたいな)ので、傘をちょっと強化しただけで対応でした。ヤバそうだったらピヨちゃんがなんか言うだろうし。
「それにしても、なんでしょこの量。外が見えませんわね。」
ジェニーが呆れた様に、もはや壁になっている矢の一本を突いてる。
「どうします?私が薙ぎ払いますか?」
ジェニーの側で全力で刀を振り回す気かよ。
あと、この矢が何処から撃たれたか、突き止め無いと。
「しかしこれじゃ話にならんのう。外はまだざーざー言っとるぞ。」
とんちを使おう。インチキで出鱈目も良いとこだけど。
「お主はどうせ、いつもそれじゃ。」
「それで、如何なさるおつもりですか?」
反射を使う。
「それはもう通用しないのではありませんか?」
だから、トンチだよ。
「トンチ番長!」
「あっしにそっくりなキャラ出てましたな。」
いやお前は、ど根性ガエルのゴローだってば。
何、大した事じゃない。
スキルの性格をズラすだけだ。
反射は敵の攻撃のベクトルをそのまま正反対に帰すスキルだが、(まぁ矢が逆転しても矢尻じゃなく羽根が当たるだけだから、殺傷能力なんか無かろうけど)、今回は力ではなく矢が持つ時間を反射する。
「慎吾様、意味がわかりませーん。」
ドラえもんにこんな道具無かったかなぁ?
つまりだ。矢ぁ一本一本が辿って来た時間を反転させる。
そうすると。
映像が逆回転していく様に、全ての矢は射出の元に帰っていく。
ま、あくまでもトンチだから。
次は使えない手だろうな。
そして大量の矢は。
全部川の中に戻って行った。
つまり、次の敵は川の中にいる!
ババーン!
「ねぇパパ。わかっててやったでしょ。」
そりゃそうだ。デカい川に来たら矢を射掛けられたって、そりゃ川からしか無かろうもん。俺は矢が降って来る中で、呑気に家族団欒したかっただけ。その画が面白そうじゃん。
「団欒の欒って難しい字ですわね。」
モニターに虫眼鏡を当てているのはジェニーさん。
「あれ、でも糸言糸木の組み合わせですのね。」
まぁ大体の漢字は旁の組み合わせだから。
たまに訳の分からない字もあるけど。
などとジェニーと漢字談義をしていると(残念なサユリさんはかな文字しかわからない)、川の水面に誰かが現れた。
女。
髪の長い、なかなかお綺麗さんな女がこちらを睨んでいる。その手には弓。
弓矢では俺達を傷付ける事が出来ないとわかったのだろう。
その弓を構える事はなかった。
ぽん。
その隣に女。そしてまた女。
女女女女女女。
女がいっぱいだあ。
ついでに何故か全員上半身裸。
おっぱいもいっぱいだあ。
ぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽんぽん。
女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女。更に女。
(これは楽でいい)
要は、水面を女が埋め尽くしている。
みんな美人さんだ。
これは嬉しい。
ただし、水面から僅かに覗く下半身には鱗が見える。
これは嬉しく無い。要はみんな人魚じゃん。
「成る程。今回の敵は人魚かの。」
人魚はいいけど、戦闘力無さそうだけど。
「無視しても良さそうだけど、ずっと矢が降って来るのも鬱陶しいね。」
そうだな。ユカリ、一丁火炎放射してみるか?お前なら川を沸騰させられるだろう。」
「わかった〜!」
「待て待てそこなる馬鹿親娘。龍の息吹を吹き掛けたら、人魚どころか生態系が壊滅するわ!」
別に構わんだろ。川のひと区画くらい。
「よかないわ!ここにも土地神がおるわい。Gが来るんじゃGが!」
んー?何か問題でも?
「人魚共は、基本的に大人しい怪異じゃ。それがあれだけ敵意を見せておる。おそらく、儂が神である事も知っての上じゃ。」
つまり、人魚はおかしくなっていると。
「人魚共がああじゃ。G共もまともとは思えんがな。」
んじゃどうする?俺とサユリで突っ込むか?
「承知。いつでも私は師匠と共に!」
キンとサユリは鯉口をわざと鳴らした。
ふむ。さて、考えてみようか。何故連中は攻めてこない?
「そりゃ人魚だから。」
「待て待て。陸上じゃ足に変わるのはお約束じゃぞ。」
「ねぇ旦那様。わたくしがさっき迄野蒜を採取していた河川敷って、もしかして…。」
試してみようか。
懐から取り出したのはタツノコプロ的小型メカ。
「あら、それって、ブロッケン山で敵対してたメカですね。」
ああ、使い道ないかなって、いくつかパクっといた。これを一つね。
ポイっと堤防から投げ捨ててみた。
葦原と野蒜、セイタカアワダチソウばかりが茂っていた地面が歪み、メカはそのまま地中に飲み込まれていく。
「うわぁ。」
カウントダウン始めっぞー。多岐都姫は結界張っとけー。
「まさかお主?」
さんにぃいち。
「早い、早いわあああ!」
という訳で。河川敷が丸々池になり、爆風で結構な人魚が流れて行きました。まる。
「いきなりすぎるわ!神にあんぐりと口を開けっぱなしにさせるなや。」
うん、ここ迄情け無い神の言葉もあるまい。
「ちょっと慎吾様?もう5,000字超えてますよ。」
「副題の人魚大戦って何ですか?」
ああ、下書きで一応その入り口迄行ったんだよ。構成をやり直したら、無駄話が増えてそこまでいかなかった。敵の増援にお馴染みな水棲妖怪を用意してたし、こちらの迎撃部隊がアイツらだから、あの副題つけたのにね。
「まぁ、それが儂らの日常じゃて。」
そう言う事。次回、承前。
「お主、承前言いたいだけじゃな。」




