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第71話 攻めて来たのは誰?

「矢だ。」

「矢ですわ。」

「矢だね。」

うちの3人娘は、それぞれ3方を向いて手を眉に翳している。

まぁ、普通の矢くらいでたじろぐ我が家ではないので。 

「言わせねぇよ!」

ジェニーさん、その我が家違う。


ほっといても、なんとかしちまうんだろうけど、久しぶりにスキルを発動させてみよう。

ベクトル反射って奴ね。どこかのラノベで、どこかの一方通行さんが使ってるのを思い出して、設定自体を無かった事にしてたんだよね。

「それをご本人が言いますかねぇ。」

まぁ、ずっとそんな作品だし。


て、あれれ。矢がそのまま降って来た。

反射が効かない?


「慎吾様?」

なんだかわからないけど、取り敢えず全員自分の身は自分で護れ。

ジェニーは俺んとこに来い。俺もないけど心配すんな。

「あいあい。」

ついでにピヨちゃんと八咫烏を懐に入れたジェニーを左腕に抱くと、草薙の剣を懐から抜いた。サユリは既に竜骨刀を抜刀し、ユカリは深呼吸を始めている。

 

おし、いくぜ。

迎撃開始!


弓矢による飽和攻撃と言っても、面積的には俺達の頭上、せいぜい半径5メートル程度。

刀による自傷を防ぐ為に間隔を取って居るとはいえ、サユリの剣技に不安は無く、実際の所、ユカリの咆哮だけで防御には充分。


龍の咆哮が響き、まさに音の波が矢を粉々にして行く。斜め方向、水平方向から流れる矢は俺とサユリの剣捌きで落として行く。


落として、落として、落として、落として、落として、

………。

あークソッタレ!量が多い!

何本飛んでくんだ。

射手は何人いんだ。

息吹を吐いてるユカリの息が続かなくなってるじゃねぇか。

「慎吾様、密度が…。」

サユリの顔に焦りは見られない。冷静に状況処理と予測を俺に伝えてきている。

そう、矢の密度が上がってきて居る。もう夏場の夕立みたいになってる。

不味いな。このままだと、サユリ・ユカリの体力が尽きる可能性がある。


仕方ないな。


サユリ、ユカリ。身を低くしろ。

ピヨちゃんは、防御壁を張ってくれ。あ、あと人間以外の生物もな。

「分かりました。」

「うん。」

「ピヨ(面倒くさい事をやらすな)」


さて、派手にいくぜ。

反射で矢を返せないならば、矢じゃない方法で射出を殺し尽くせばよい。

反射が効かねえ理由はわからんが、俺らに対する敵意・殺意はビンビンに感じっから。

小細工無しの、物理攻撃をすりゃ済む事だ。


よっこらせ。


草薙の剣を頭上に掲げる。

やがてその剣先から、少しずつ少しずつ光が溢れ出す。光は放射状に半径30キロに拡大して行った。


はい。終わり終わり。  


「……矢が止まりました。」

「お姉ちゃんもユカリさんも、割とキツそうでしたね。」

「幾ら落としても、次から次へと降って来るんだもん。」

「慎吾様。あれ、何したんですか?」

ん?俺達に敵意殺意を持つ人間を殺し尽くしてみた。殺してみた。歌ってみた。踊ってみた。

「一昔前のSNSですか?」

まぁまぁ。いきなり俺達を殺そうとした連中の顔を見に行こうぜ。




畦道をきちんと切っていない、不定形な田が果てなく続く農村地帯。

それが、森を抜けた先に広がる風景だった。

稲穂が地を黄金に染めるその地に、モザイクがところどころに掛かっている。

俺達が先に進めば進む程その面積は広がり、やがて田全体にモザイクが掛かる始末になった。


言うまでもなく、人の死骸だ。

死体では無い。死骸だ。

何故なら俺は、俺に歯向かう愚か者に尊厳を抱かないから。


「むう。おかしいのぅ。」

さっきまでジェニーの頭に留まっていたピヨちゃんが多岐都姫に戻って、俺に話しかけた。

ラストと言う事もあって、本人が喋りたくなったら気軽に人化する事も許してある。今までは各地の魔王に見つからない様にと言う事もあって、また彼女の母親・天照皇大神の願いもあって、多岐都姫の存在を隠していたのだけど、今更どうでもいいだろう。


で、おかしいってのはなんだ。

此奴らの、どう見ても農民にしか見えない服装の事か?


「なんじゃ、わかってたんか。」

そりゃあ、な。鎧なんか誰も着てねぇし。死骸のそばには弓が転がっているし、中には帯刀している奴もいる。


俺は、目と口を大きく開いたまま絶命してる其奴が握りしめる刀を奪い取ってみた。

鞘から抜くと、サユリに見せてみる。


「野伏が持っている様な安物ですね。無駄に厚いし、刃紋も入っていない。普段は鍬とか鎌とか打っている村の鍛冶屋が鉄屑を鋳直して形だけ整えただけみたいな。刀と言うよりも、長い鉈と言った方がいいかもしれません。つまり、全く洗練されていません。」


農民出身でサムライに憧れ修行をする剣術娘は、出が出なだけに、“底辺の道具“の見立は確かだ。


「ただ、私や慎吾様の刀と違って、普通の刀は実戦では耐久性に欠けるんです。曲がったり、脂が纏わりついて切れ味が鈍ったり。でも、この刀だと、刀の重みと力任せだけで斬れますから、より実戦向きとも言えますねぇ。」

「でも、この方の服装って…。」


この男は頭の旋毛に穴が開き、周りは焦げている。いわゆる丁髷ではなく、かといって総髪でもなく。頭を剃り込んでいる。

坊主だ。

何故、坊主が刀を持つ?

 

「百姓一揆、かの?」

ならば普通は、庄屋だの村の顔役だのが、訴状や幟を持って先頭に立つ筈だ。

だけど此奴が指揮者だとしたら、先鋒でも後方でも無い、相当半端な位置にいる。 

言うならば、小隊を率いる下士官だ。

それに。

俺は周りを見渡す。


百姓一揆にしては人数が多すぎる。

ここに転がっている死骸だけで、見える範囲でも、万は普通に越えるぞ。

これはもう、叛乱戦レベルだ。


「武家でも無いのに叛乱かえ?」


ここは日本だろ?

だとしたら、大規模な叛乱の原動力となったものが一つある。


それは、宗教だ。


「ああ、確かにそれは厄介ですねぇ。」

 

助命の条件として改宗を迫られた、敬虔なるプロテスタント、ジェーングレイが顔を歪めた。あぁこら。可愛らしい顔が台無しだぞ。

まぁ本人は、すっかり異教の神(多岐都姫・八咫烏)やキリスト教主義的には邪神(龍神2柱・竜人1柱)と、毎日ニコニコ笑って接しているんだけど。


「宗教絡みと言うなら、真宗か耶蘇かじゃな。」

「この方たち、クロスを持っていないから、クリスチャンでは無いと思います。」

何気にやたらと宗教に詳しいパーティーだった。  


「ならば真宗か?」

そうとも限らんぞぅ。

「あ、慎吾様、それ山さんですね。」

「それだけのキーワードでネタが分かる人って、今お幾つなんでしょうかね?」

中の人、引退しちゃってるしね。


「パパ、お話戻そう。ここはもしかして、ラストに繋がるポイントじゃないの?」

うん、そうなんだけどね。展開は考えてあるけど、その先の事は全く考えて無いんだ。

途中から完全に成り行き任せで話を進めて来たからさぁ、さっき俺の反射スキルが使えなかったって出来事のオチをどう付けようか、考えてるとこ。だから、今はいつもの無駄話してていいよ。


「前回と言い、今回と言い、イマイチノリませんわね。」

「慎吾様が真面目だから、私達も悪ふざけし切れ無いのよね。」

「いつもなら1話5,000文字費やして、話が全く進まないのにね。」

「今まだ3,000文字に行かないのに、それなりに話が進んでいるし。」


前言撤回。いてもならダラダラ無駄話してる嫁ーズだけど、無駄話にも程がある。


話を戻そう(何回目だ?)


「つまり、お主の見解では耶蘇でなければ真宗でも無いと。」

「さすが神様。無理矢理戻したねー。」

「ユカリ殿よ、お主も神の端くれじゃぞ。」

「そうだった。」

「それで、何処じゃ?」

わからん。とりあえず敵は恐らく、俺のワタリの力を無効化出来る様だ。

「そりゃ拙くないかぇ。神をも倒すのがワタリじゃろ。」

けど、その後の大量殺人光線(仮)は発動した。俺達に敵意・殺意を持つ人間だけを殺し尽くせと設定した結果がこれだ。


この長閑な里を埋め尽くす死骸だ。


「クワァ!」

しばらくして、偵察に出していた烏が帰ってきた。脚が3本でお馴染みの八咫烏だ。

「ほいっと。」

空中でニャンパラリンと一回りして、中学生くらいの少年になる。

「見事に死体の海ですな。この辺を中心に半径30キロ圏に生きている人は居ません。」

つまり、俺達の後方も、か?

「ですな。我々、何かそこまで恨まれる事、しましたっけ?」

記憶にございません。


「で、どうするよ。」

そうだな。此奴らの指揮系統を探そう。

寺なり城なり、本拠地なりあるはずだ。

とりあえず、そこを潰す。

片っ端から潰す。

敵対する奴は殺す。

潰す殺す潰す殺す潰す殺す潰す殺す潰す殺す。

それだけだ。


「あーあ。パパが本気になっちゃった。」

「悪い顔してるわあ。」

「誰だか知らないけど、逃げて〜ですわ。」


「とりあえず、西に50キロの地点に寺がありました。」

八咫烏の案内で、大体の位置を確認する。

ふむ。あれか。西方48.45キロ先、標高27.88メートルの小山か。城だか寺だかわからない建物がある。空堀を回らし、山の斜面は削って登れなく崖状にしてある。室町時代によくある砦の様だ。

猛烈な敵意を感じる。ので迷うことなく撃滅対象だ。

「どうするんで?」

一発撃って見よう。俺達に敵意が無ければなんの問題もない筈だ。


あと試しに。


俺は先程撃った光線を撃ってみた。

はい、出ません。

なるほどねぇ。と言う事は、だ。


俺はもう一度草薙の剣を抜いた。

よっと。

剣を宙空で素振ると、そのまま鞘に収める。


しばらくして。


大音量と共に、遥か山向こう、天空まで伸びる巨大過ぎる剣が地面に突き刺さっているのが見えた。


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