第66話 トカゲ
蜥蜴と言えば江戸川乱歩。黒蜥蜴。
それはともかく。
しかしまぁ。大量の蜥蜴が正座して、頭を下げて居る姿はなんなんだ。
「キョキョキョキョキョキョキョキョキョキョ。」
わぁ、白鯨が奇声を上げ出したぁ!
「キョキョキョキョキョキョキョキョ」
「キョキョキョキョキョキョキョキョ」
「キョキョキョキョキョキョキョキョ」
「なんですか?これ、なんですか?」
あぁジェニーがパニクってる。そらまあそうか。この広大な空間にびっしり蜥蜴がたかっていて、キョキョキョキョと一斉に鳴き出したら不気味だわな。
「慎吾様。これ、聞いた事ありますね。」
農家娘なお嫁さんが気が付いた様だ。
「夜、厠に行くと、隅っこから聞こえてきました。」
正解。それは多分、ヤモリの鳴き声だ。
「へ?じゃこの鳴き声も?」
お、落ち着いたかジェニー。これは蜥蜴語だ。この声でコミュニケーションを取っているんだろう。
「でもパパ。あまり複雑な文法体系をしていない様だけど、この蜥蜴人がこの文明を作ったの?無理無い?」
別に言語が意思疎通に必須なものでもあるまい。例えば。
俺は肩の上に居る手乗りドラゴンに頭をつける。
わかりやすくユカリに頭をつけてるが、俺の言葉が聞こえるな?
「(テレパシー、だね)」
「(そうです)」
わぁ、親娘の語らいに勝手に入ってくるな、白鯨!
「面倒くさいので、ムーの民の言葉も言語化しましょう。」
おい白鯨!クライマックスだから余計なギャグを嫁ーズに禁止しているのに、お前が面倒くさいとか言うな。
「私はあなたに禁じられてないので。」
お前なぁ。物語の進行に非協力なら俺達帰るぞ。最後くらい秋津ファミリーとして、シリアスに行きたいんだが。
「別に帰っても結構ですが、ムー民を蜥蜴にする事で、後で何か思い付くだろうと放置していた伏線が回収出来るんでしょ。そろそろ話が終わろうとしているこの場面で、また考えるの面倒ですよ。別サイトで連載している巫女さん話でも、最近タヌキと遊んでばかりで、あっちも話が進まなくなってるじゃないですか?」
あっちはファンタジーでも何でもない、ライト文芸のまったり進行だから良いの。
「では、いきますよ。皆のもの。神の遣いが降臨した。彼ら、彼女らを崇めよ!」
ひゅー
ひゅー
ひゅー
歓声、なんだろうなぁ。救いと歓喜、不信、諦観と言った感情が場内を駆け巡っている。
だが。
蛇神が進化した似非竜神の説得力は強烈だった様だ。白鯨が蛇神を紹介すると、全ての感情が畏怖になった。
なるほど。同じ爬虫類で、しかも神性を帯びている存在を、本能が怖れ認めているんだろう。
ならばユカリ。逆鱗を超えた龍は、ここの連中にとっては最高神もいいとこだ。
建物、もしくはユカリの限界まで解放しろ。
「わかったー。」
手乗りエンシェントドラゴンは、俺の肩からひょいと飛び降りると、己の力を解放する。
つまり、巨大化であり、神力の発露である。
蛇神が竜神ならば、ユカリは龍神だ。
爬虫類の到達点とも言うべき存在だ。
その存在感だけで、若い蜥蜴人は失神してしまった。
「まだまだですね。」
白鯨が、若い蜥蜴人を見て溢した。
「まだまだじゃのう。」
多岐都姫がユカリを見て溢した。
無茶を言うな、生物が神になるのと、神が神として生まれた神じゃ、逆立ちしてもユカリは多岐都姫の足元にも及ばないぞ。
「そうは言うがの。お主の妾になっとるあのドラゴン。あれなら辺鄙な神界くらい滅ぼせるぞ。」
まぁだからワタリの討伐対象だったんだけどね。ミテクレが良いのと、あっちの具合が天下一品だから使役してんだよ。
あいつは強さだけに極振りした龍だ。うちのユカリだって瞬殺されるだろう。
「お主んとこの仲間はどうなっとるんじゃ?」
知らねえよ。俺、別に何かした訳じゃねぇもん。
「儂とお主がまぐわったら、儂どうなるんじゃろう。生まれた子供はどうなるんじゃろう。」
元は日本人なんで、ピヨちゃんのお母さんを怒らせるの嫌です。
「儂の母上ならば割と寛容じゃぞ。なんなら、親子丼というのも良かろう。」
あんたのお母さんにも会ったし、結構いい加減だったから、そういうのもアリかもしれんけど。俺のお嫁さん、日本人だから。
さすがに旦那の浮気相手が、普段神棚に祀っている天照大神とかじゃ、引くだろう。
「そおねえ。自分の亭主が他所の親娘に浮気して子供作るって事でしょ。まだうちに子供いないのに、養育費払ってたら大変よねえ。」
そういえばうちのお嫁さん、アホでしたね。
「むむ?」
白鯨の身体が固まった。むむって本当に言う人、ジェイ・カ◯ラ以外で初めて見たなぁ。
珍しいなぁ。じろじろ。
「女をじろじろ見るんじゃありません!」
白鯨は自分の身体を両手で抱えて捻って隠した。いや、隠されても、あんた鯨だし。
「鯨であっても、今は女です。」
雌?牝?
「雌である事は否定しませんが、出来れば後者の牝の字は使わないで下さい。」
いや、俺的にはどっちでもいいけど。今んとこ、あんたを女扱いする気はないし。
「まぁ、女性に向かって、なんて失礼な事を!ぷんぷん!」
…あんた、そんな性格だっけ?
「この物語の更新間隔が少し開いたので。」
だから、シリアスな場面をお前が壊すなや。
「ほら、巫女さんの話が進み始めちゃいました。上の方にその記述がありますけど、今回仕上げるに何日かかってるんですか?」
それは作者に言ってくれ。
まぁ、白鯨が変な声を上げた意味はわかる。
大量の気配がこの神殿に迫って来ているからだ。
つうか、スペース足りるのか?ここ。
「大丈夫でございます。彼らの本質は“蜥蜴“。行動は3次元でございますから。」
なるほど。
「旦那様?何か迫って来てます。どどどどどって音と、かさかさかさかさって音が、音がぁ。」
ああ、田舎娘のお嫁さんと違ってジェニーは都会育ちのオヒイサマだったな。そりゃ等身大(人間基準)のトが大量に迫って来たらパニくるか。
さっきからの描写で匂わせていた通り、大量の蜥蜴人が神殿に入ってきた。
わらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわらわら
キョキョキョキョキョキョキョキョキョキョキョキョキョキョキョキョキョキョキョキョキョキョキョキョキョキョキョキョキョキョ
カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ
あー楽だなぁ擬音だけ大量に並べるの。
このまま1回の更新分。全部わらわらキョキョカサカサで埋めようかしら。
なろう系でも前代未聞だろうな。読者様が、「あっ更新されてる!」って開いたら、5,000文字にわたってわらわらとしか書いてなくて、次の回ではキョキョと5,000文字。
「職業出版でも、見開きで2ページにわたって“死んじゃえ“を繰り返した前例がありますので。」
おや、ちっとも前代未聞じゃなかったか。
「大体、安易な擬音の繰り返しは、作者の語彙能力の貧困さがバレるだけですよ。」
嫁ーズに叱られる俺。いかん、またいつもと同じになってきた。
擬音で遊んでいる間に、擬音を発している主がどうなっているか、見てみよう。
下・床。左右・壁。上・天井。
うん。びっしり蜥蜴がたかってる。
「ある意味見ものですねぇ。山向こうの甚兵衛おじさんが、蜂を飼ってだけど。こんな感じだったわ。」
お嫁さんは、ここまで来て登場キャラを増やす様な言動をしないように。
「旦那様?これは一体?さすがに背筋がぞわっとする光景なのですが。」
あと、8秒後にわかる。
「はぁ。」
「いち、にー、さん。」
多分全てをわかっているんだろうユカリさんがカウントを始めちゃった。
「「「しー、ごー、ろく。」」」
すかさず乗る神様コンビ。
「「「「「「ひち、はち。」」」」」」」
ああ家族全員で合唱始めちゃった。
しかも何故に全員江戸っ子?
どかーん。どかーん。どかーん。
「だから安易な擬音はですね。」
ジェニーさん大丈夫。今のは俺の冗談。本当の描写ならもう少し頭の良い語彙を選ぶよ。ほら、来るぞ。
どかーんではなく、腹の底に落ち込む様な地響きが神殿を包んでゆく。
「地震?」
嫁ーズが俺の両手にしがみ付いてきたけど、こいつらに怯えている素振りは全くない。
良きかな良きかな。
「良きかなかなぁ。」
ユカリさんは疑問を挟まない様に。
まもなく、屋根に落下物の大音量が響き、天井に泊まっていた蜥蜴がポロポロ落ちてくる様になった。
「主様よ。」
ああ、そろそろだな。
さっきも言った通り神様ーズは待機。手を出すな。
「しかし主様よ。これはひょっとして不味くないかの。おい、白鯨とやら。」
「いわゆる空襲なのですが、確かに本日の爆撃は何か違いますね。私が海中で受けていた魚雷クラスの破壊力があります。神殿が保たないかも…いや、保ちますん!」
どっちだよ。
仕方ないな、おい蛇神!
「なんでしょう?」
お前は神様ーズの中で一番神性が低い。
「ですな。しかし私が力を使ったら、それはそれで不味くないですか。蛇神の段階で最底辺といえど私は神ですから。」
その前にお前、妖怪変化の類いだろ。
「まぁ隠す気も有りませんが、九尾の狐と同じですよ。生物が生き尽きると妖になり、妖も突き詰めると神性を帯びる。まさか私の主の方が強くて私が引きずり回されるとは思ってもみませんでしたから。」
つまり、妖力も持っている、と。
「暴走しないとも限りませんから、普段は封印していますけどね。」
許す。神殿を守護しろ。神力は一切使わず妖力のみでだ。もし暴走したら。
「俺が殺してやる」
「承知!出来れば殺されたくないですな。」
ならば気張れ。妖力で次元を数秒ずらすだけでいい。
あと、九尾の狐は幸せそうに奥様してるぞ。
「…石になったと聞きましたが?」
ああ、余計な妖力だけな。
おし。行くぞサユリ、ジェニー。
神殿はアイツらに任せる。神ので力を使わなくとも出来る事はいくらでもある。
ユカリも多岐都姫もわかっている筈だ。
俺達は迎撃に出る。
「はい!」
「わかりました!」
ああ、こんな光景古いSF映画で見たなぁ。
UFOとかが一般的になる前の、「空飛ぶ円盤」って奴。お皿を重ねただけのフェイクみたいな円盤が多数、神殿上空に浮遊して爆弾落としてる。
「慎吾様、私では空中にあるものは切れません。ユカリがいないんじゃ何も出来ません!」
焦るな焦るな。先ずはあの円盤を叩き落とす。
「旦那様。重力魔神様は神様にあたらないのかしら。」
ん?アイツも一応、神様の端くれだよ。
「慎吾様は神様を何人使役しているのかしら。」
「ねぇ。」
今回はアイツらの力は借りねえよ。サユリに昔言った事あんだろ。気の練り方を。
「蛇神が暴走して、軍隊一つ全滅しちゃいましたね。」
「まぁ。」
確かそれでジェニーの婚約者を消しちゃったんじゃなかったかな。
「まぁまぁ、さすがはお姉様。やはりわたくしのお姉様ですわね。」
「えへへ。」
はいはい。もういいや。竿姉妹の触れ合いは後にして。みてろ。究極の武闘家が気を練ったその威力を。
「かめ◯め波?」
力が抜ける事を…。まぁいい。
サユリ見ておけ。「ほんもの」を。




