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第64話 本題

白鯨の外に爆発音が響き、巨体が揺らぐ。

モアイの発するミニラ砲(命名ユカリさん)の集中攻撃が始まったらしい。

白鯨は身体をくねらせて苦痛を訴え、急速浮上を試みている様だ。

鼓膜に感じる空気圧の変化でわかる。


「パパ、鯨が苦しんでるよ。私が出て行って一掃してこようか?」

「旦那様、わたくしもセイレーンさん達を呼び出しましょうか?太平洋にもいるかどうか、わかりませんけれども。」

いや、多分無駄だろうね。

「無駄?パパそれはユカリじゃ敵わないって事なの?」


『違います』

俺に代わって白鯨が返事をする。

『あのモアイ像には自動修復装置が備わっている様です。かつて分子レベルまで破壊したものの、最大24時間で元通りになったと、私が保管する記録にあります。以降、私がとるべき行動は逃避しかないと。』

「逃げるしか無いと?」

剣士モードに切り替わったお嫁さんが、竜骨刀を両手でかき抱いて不服の声を上げる。


『それどころか、今世紀に入ってから増殖が確認されています。』

ふむ。その増殖速度は如何程?

『この辺は数年前までは一台もいなかった海域でした。それがご覧の通り、海底が見えなくなっている程です。計算によれば、あと62年と226日で地球が覆われます。』

「えぇと。ふにゃ?」

あ、お嫁さんの剣士モードが破れて、ベッドの上でよく見かける甘えん坊モードになった。


「だったら尚更、少しでも処分しないと。なんなら全世界の海から…。」

いや、無駄だろうね。

俺はジェニーの言葉を遮る。

おい、白鯨?あのモアイを一台と数えたな。

『はい』

つまり、奴らは“機械“か。

『はい』

ふむふむ。


「旦那様?機械だと何か問題でもございますか?」

ああ、簡単に言えば、あのモアイには生物は勝てない。あの連中が何をエネルギーにして活動してんだか知らんが。現に長期間に渡って活動出来ている、つまり無限に供給出来ていると仮定出来る。有限なエネルギーを消費してる生物には限界がある。それは人間であろうと、龍であろうと、妖怪であろうとも。


おい、ピヨちゃん。

呑気に羽繕いをして居た白い小鳥に声をかける。

俺の呼び掛けに反応した白い小鳥は、光と共に1人の女性の姿になった。

日本神話における最高神・天照皇大神が娘、多岐都姫が白い小鳥の正体だ。

母神の願いを受けて、彼女は俺たちの旅に同行している。


「なんじゃ。鳥に於ける毛繕いは、女が髪を梳かす行為と同じじゃぞ。女の大切な時間を邪魔する覚悟はあるのじゃろうの?」

後で、多岐都姫の髪でもピヨちゃんの羽根でも、いくらでも撫でてやるよ。

「む!本当じゃろうな?」

俺は女との約束は破った事ねぇし、破られた事もねぇよ。

「おっほっほっほ。言いよるわな。それ程お主は女に愛されたか。」

それに値する幸せはあげてきたつもりだぜ。

横目で妻達の顔を見ると、満面の笑みを返してくれる。


「確かにの。儂もお主との旅路ほど楽しい経験も無いからの。うちの宿六にも見せつけてやりたいものじゃ。」

神様が大抵碌でも無い私生活を送っている事は、あちこちで見たから知ってる。

俺が多岐都姫を呼んだ(召喚した)のは一つ確認したい事があるからだ。


お前ならば、お前らならば、モアイ像の対処は可能か?

「神をお前ら呼ばわりするお主もアレじゃが、まぁお主はワタリだからの。何も言えんか。」

ああ、俺ん中じゃお前は多岐都姫じゃなくて、ピヨちゃんだからな。

首筋を撫でると気持ち良さそうに目を閉じる可愛い小鳥だ。

「可愛いとか、この歳になっても照れるの。無論、儂もお主の撫でられるのは大好きじゃ。コホン、結論から言おう。連中を殲滅させる事は可能じゃ。」

『え?本当でございますか?』

白鯨が食いつく。まぁそれはそうだろう。

「じゃが、やらん。」

まぁ、それはそうだろう。あ、白鯨が凍り付いた。


「慎吾様、ご説明を。」

ん?ああ。大体の想像はついたから多岐都姫を呼んで確認したんだ。

敵が宇宙人だから、だろ?

「その通りじゃ。」

前回、いきなり飛び出したパワーワード「宇宙人」。あまりの間抜けさに流してしまったが、つまりは対地球外戦争なので、「人間が処理する」しかないという事だ。

何故なら、「宇宙人側にも神様がいる可能性」があるから。


今までいくつかの世界を救ってはきたが、大雑把に行って神の世界はどこも一つだった。

勿論、国や民族で宗教は違う。当たり前だ。

宗教論を語るには危険な場(或いは世界で一番無責任な場)かも知れないが、各宗教の国産み神話に、ある程度の共通点がある事は有名だ。

それは原初の種が一つだけあって、その種が芽吹いた記憶が人種・国・土地に別れて、それぞれ独自の宗教として成立していったからだ。

だから、ラグナロクとか最終戦争とか言っても基本的には一つの神様んちで神様が喧嘩するって事に過ぎない。

宇宙人の神様とやらがいるのなら、その神様との争いが真の最終戦争になりかねない。

そんな危険な遊びに、例えサタンであっても首を突っ込もうとは思わないだろう。


『そんなぁ。私を見ても想像は付くと思いますが、ムーは現代文明とはベクトルこそ違いますが、高度な文明を築いていました。それでも争いに破れ滅びました。現代文明で対抗し得るとは思えません。』

白鯨が悲鳴を上げる。

「核でも使うかの?海の中なら、放射能汚染も拡散出来るし、なんなら儂が回収しても良い。大気圏外に飛ばせば良かろう。」

無駄だろうね。 

「何故じゃ?」

さっき白鯨が言ってたろ。分子レベルまで解体しても再生したって。

単純な質量兵器は無意味だ。


『ならば、ならばどうしろと。ムーは滅びました。次に滅びるのは現生生物です。神に見放された我らに救いは無いと仰るのですか?』

白鯨が取り乱して身体をくねらせる。

乗り心地が悪いから、勘弁してくれ。 

「その為にお主がいるんじゃろ。なぁ、秋津慎吾様よ。」

まぁな。その為のワタリだ。


「どうなさいますか?」

鼻息荒くして鯉口を切るなお嫁さん。物騒だから。

俺が乗り出すと聞いたら、忽ち剣士モードに戻って取り繕いやがって。可愛い奴め。


おい白鯨ちゃんよ。

『は、白鯨ちゃん?』

「気にするな白鯨。我が主はその気になればなるほど口が乱暴になる。そうなったら全面的に任せて良い。」

『ですか』

モアイ像が出現した時期はいつだ。

『12,000年前の事ですが。』

チャーチワードがでっち上げたお話と同じだな。というのなら“失われたムー大陸“が元本になるのか。

『どういう事ですか?』

「この地球は時と場所が狂っとる。滅茶苦茶じゃ。誰か、人が作った物語にこの世界は引き摺られているのじゃよ。だから、時間も空間も場所場所で、折々で滅茶苦茶だった。その原因を我らは一つ一つ潰してきたのよ。」


そういう事だ。

俺がワタリとして、この世界に召喚された理由がさっぱりわからなかった。

明らかに中世ファンタジー世界から、竜人の世界、嫁は千葉県人の日本人だし、ジェニーは幻の初代英国女王だ。 

一貫性が全く無い事に俺は戸惑うしかなかったが、どうやら一つの結論に収束し始める様だ。


「世界の危機で無ければ、俺達ワタリは召喚されない」


それがワタリというモノが存在する逆説的な真理であり、条件だ。

そしてもう一つ。

俺達は、確かにその世界の神々に請われて召喚される。しかし、それ以上の条件として。


「世界の、空間の根源が崩壊されようとしている」


という事がある。

神ですら調整不可能な摂理と節理を、俺達は正す事が出来る。


つまり、この世界の崩壊を導いているのは

チャーチワードの著作、なのだろう。

原因がわかれば修正する。

それが俺の仕事であり、俺の家族の仕事である。


とりあえずモアイ共を潰しておこうかね。

おい、重力魔神!

ついで白鯨。モアイ像の分布図をくれ。


何かと便利な重力魔神に、白鯨から引き出したモアイ像の情報をインプットさせる。

少なくとも太平洋に存在するモアイ像の全所在地に多少の余力を持ってGをかけさせた。あまり全力をかけると、太平洋の海底がブラックホールだらけになるからな。


水晶製のメダルを一枚。これに重力魔神を分祀させて海底に放り投げた。

モアイ像の修復能力や、或いは進化能力が隠されているかも知れないけど、少なくともしばらくは潰されたままだろう。

それまでに、その原因を取り除けばいいだけの話だ。


『やりたい放題ですね。』

「何を今更。」

今喋れる家族(八咫烏以外)全員に突っ込まれた。

けど、今は無視。これからが本当の、俺のやりたい放題だからだ。


全員、シートベルト付けとけ。多岐都姫は八咫烏を抱えとけ。何が起こるか分からん。

「慎吾様?」

「旦那様?」

俺が滅多に見せないマジトーンに2人が驚きの声を上げる。

しかし、その声には不安げな響きはない。

それだけ、俺を信じてくれている。


白鯨。一時的でいい。俺の配下になれ。

『配下と言いますと?』

言うなれば俺の式神として契約しろ。

そうすれば、滅びたムー文明ごと救ってやる。

『…分かりました。あなた様に忠誠を誓いましょう。』

うむ。

では行くぞ。

「なんとなく嫌な予感はしてるんだけど、パパ?どこ行くの?」

12,000年前に。

「やっぱりいいいいいいいいいいいい。」 

大丈夫。別にタイムトンネル的はものは潜らないし、ぺちゃんこになるエフェクトはかからないから。


そうして、俺達は全ての元凶が待つ12,000年前に旅立った。












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あら、今回もう終わりですか?」

「いつもより1,000文字くらい少ないですね。」

お前たちが無駄話しなければ、このくらいコンパクトでも話は進むの!

「でも、わたくし達の無駄話こそ、このお話の核ではありませんか?」

ありません。いよいよラストスパートに入ったから、ストーリー優先で進めるぞ。

それでも八咫烏以外には見せ場があった筈だぞ。

「儂、急にキャラが立ったんじゃが。」

余計な文字数使ったうちの嫁達にバチでも当てろ。今後はギャグ少なめで行くぞ。

「こんな後書きの欄作っている段階で、言い訳がましくないかなぁ。」

だからユカリさん。こう言うコーナーも今後無くす。

「?」「!」

「何わたくしで事は今日も…」

「活字で2人が入り乱れて喋る描写って誰かしてるのかなぁ。」

こんな意味ない事する職業作家いないだろ。

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