第63話 白鯨
カシャンカシャン。
ガシャーン。ガンガラガッシャーン!
「待ちなさい慎吾様。ラノベで安易に擬音を使い出したら、それはもう終わりですよ。」
どかーん。やれやれ、僕は射精した。
「それは5ちゃんねるが2ちゃんねる時代からある、ラノベと村上春樹をディスる文章です。」
そうは言うけどさ、滅茶苦茶が行き過ぎて、この作者、もう何この話を投げたくてしょうがないらしいぞ。
見ろよ、最近全然更新しやしない。
他サイトで書いてる元気いっぱいな食いしん坊巫女さんの話は1日おきに更新してんのにさ。
こっちはレギュラーの登場人物ばかり増えて、どいつもこいつも好き放題しやがるから、当初のプロットなんか崩壊しっぱなしだし。
こんなんでも、ラストシーンは割と感動的に締める構想は出来ているから、どうやってそこまで持って行くか、ほとほと困り果ててるそうだ。
「主人公モテモテハーレムで無双無敵、奥さんはリボン袴姿の剣術娘、わたくしこと恋人は金髪グラマラスな小柄お姫様、元気で健気な娘に、よく懐いた可愛い小鳥が2羽ペット。なんとまぁ受けそうな要素しかありませんが?」
その要素を全てとっ散らかしたまんま、誰も彼も、作者ですら整理整頓を放棄してんだよ。誰がどんな格好してどんな動作をして喋ってるとか、もう随分描写してないだろう。俺たち作者に見捨てられつつあるぞ。マジでやばいぞ。どうしよう。
「作者が健康状態やら、アイデアの行き詰まりで週刊連載漫画を放置するトガシ・エグチ現象はよく聞くけど、それを主人公が嘆き続ける様を描写するってお話も前代未聞かもね。」
あぁ、こんなのは赤塚御大や江口御大が既にやってるから。というか、トガシ・エグチ現象って言うんだ。
「わたくしが今作りました。」
誰も読んでない素人のネットラノベだからって、好き放題していいわけじゃ無いよ。
それに、プロの江口寿史は山上たつひこに書いて貰った原作を落として、山上さんに絶縁されるまでを漫画にしてる。
「山上さんて、がきデカの山上さん?」
「それはもう、死刑!ね。」
死刑ポーズを決める金髪12歳もどうなんだと思いつつ、ガシャーンを再開する。
ガシャーンガシャーン。
「パパはさっきから何してるの?」
ん?大西洋はただ車のまんま潜ったから、太平洋ではきちんと潜水艦で行こうかなっと。
セクさんに設計図を渡して、変形指導をしてるとこだ。
セクさんというのは、どこぞの世界で手に入れたセクサロイド。そのAIをコピーして車に積んでいる。一応、(あっち方でも)経験を積んでいるので、それなりに思考能力が高い。
まぁ俺は力尽くで考え無しになんでも通るし、お嫁さんは基本的にお馬鹿。ジェニーは根本的にはまだお子様。龍のユカリや神様コンビに人間の機微を求めるわけにもいかず。実は相談相手には一番役に立つ存在だったりする。…出が出なので、セクハラがキツイけど。
「潜水艦って、空母にしか見えないんだけど?甲板があるし。」
ん?この甲板なら畳めるよ。ほらほら、船首にミニ潜水艦が付いてる。船尾には戦闘ヘリコプター、というのも今時アレなのでドローンを搭載だ。
「これってもう、例の宇宙空母では…?」
「あぁ、あのいつまで経っても宇宙に行かなかった宇宙空母。」
いや、あれは宇宙戦艦ヤマトでお馴染みのあの人が、純粋に海洋冒険物を作りたかっただけらしくぞ。
ブルーノアを無理矢理宇宙に飛ばしたのは局に阿ったスタッフだ。オフィス・アカデミーが製作するんだから、船が空飛んで宇宙行かないとダメだろって。
「あの人を説得したスタッフって、ひょっとして最強じゃないの。」
まぁ、海のトリトンから一緒に仕事してた友人だったからね。
「あの歌大好き!讃美歌より盛り上がりもん。BG7の歌と一緒にカラオケで歌いますのよ。」
そのカラオケは、うちの車を変形させて作ったカラオケボックスだけどね。
ていうか、ジェニーの特技は讃美歌によるステータスアップだった筈ではなかったかなぁ。
「奥様やユカリちゃんに聞いたら、水木一郎やささきいさおの方が力が増すそうです。」
…まぁ、わからなくもない。
「あと、伊藤さやか!」
それは好きときめきとキスって繰り返す歌ですか?
という事で、全員搭乗!
「えぇと、慎吾様?これっていつも乗ってる車よね。全長57メートルって諸元に書いてあるんだけど。」
「排水量550トンとも書いてますねー。」
うむ。巨体が唸るし気が向いたら空飛ぶぞ。
「それはもう、轟天号だね。」
マンダが出てきたら、それはユカリの仲間だからよろしく。
「怪獣総進撃で高速道路に絡まってた怪獣ですね。」
あ、そっちは無かった事にして下さい。
「というかですね。わたくし達の車ってこんなに大きかったでしょうか?」
あーほら、ビスマルクを積んだ時に2列が3列シートになったろ。あれの応用だ。
国際映画社時空を使えばいくらでもデカくなれる。
「あぁ、アクロバンチとかバクシンガーとかのアレですね。」
「でも、セクさん随分と静かですね。あの喧しい人がここまで何も話さないし。」
人じゃないけど。
あとまぁ、色々強度計算をしてるから、俺たちの相手してる暇ないんだと。
さっき算盤をじゃらってリセットしてた。
願いましては〜。巴の算盤パチパチ。
ところがですね。
太平洋に乗り出して僅か30分。出てきたのは長い龍ではなく、白い鯨でした。
「ヘミングウェイと間違えるのよねぇ。」
ほう、さすがはジェニーだな、老人と海はもう既読ですか。
「20世紀の小説を16世紀生まれのわたくしがどう読めるんですか?」
そう言うメタを登場人物が言い出すと、全てが終わりますよ。
ただでさえ終わりかけている物語が。
「あ、でも白鯨は19世紀です。ジェニーの故郷のイギリス文学ですよ。」
「奥様、どっちにしても、わたくしには読めませんよ。」
老人と海と白鯨って、デカい魚相手の海洋小説ってだけで、中身はむしろまるっきり正反対な設定だけどね。
ところで、俺たちの目前に現れた白鯨は、メルヴィルさんとこの鯨じゃなくて、ラ・ムーさんとこの鯨らしい。
あっちはマッコウクジラだったけど、ラ・ムーさんとこの鯨はシロナガスクジラだ。
それからオデコに3て書いてある。
あれは改造に改造を重ねたマークⅢの印だろう。
「慎吾様?ラ・ムーさんとこって、どこですか?」
3万14歳で、サイボーグで、最終回にチンコ丸出しで走って行った男と並んで、お尻(だけでなく全裸)丸出しで走って行ったお嬢さんがいるとこ。
愛は心の仕事ですとか歌ってた、ロックバンドのふりしたコミックバンドとは関係ないから。関係ないから。(方正ってこのギャグ使い捨てたなぁ)
「…何それ?誰それ?」
「悪魔的なお嬢さんですか?」
あっちは3万じゃなくて10万だね。
恐ろしい事に、この滅茶苦茶な紹介に嘘は一切ないんだな。
当の下半身丸出しお嬢さんは、下半身丸出し男と静岡県に嫁に行ってしまったらしく(随分な行き遅れですな、あと確かミューミュー鳴く謎生物もいたはずだけど)、とりあえず俺たちは、鯨ちゃんの指示通り、白鯨に飲み込まれる事にした。
まぁ、ブルーノアもムーの白鯨も、製作会社とテレビ局とプロデューサーが一緒だからいいか。
「いくないです!」
「あーれー、金髪のお姫様が言う台詞として王道ですね。あーれー。」
「相変わらずだよね、うちって。」
まぁ、いざとなったら白鯨を飲み込む返せるから、うちのドラゴンちゃんの最大変化ならね。
「うちのお姉様は、どこまでドラゴンとして進化しているんだろう。」
まぁドラゴンって基本、完全生物だしな。
負けるなユカリさん。
「そんな小学生向けの少女漫画みたいな事言われてもなぁ。」
3万14歳になる前に嫁に行けば、ユカリの勝ちだ。お姉様にも勝てるぞ。
「…誰がユカリをお嫁さんに貰ってくれるんだろう。」
さぁ?雄のドラゴンに知り合いは居ないしなぁ。読者に募集をかける?
数千歳生きて、最近バージョンアップした見た目は幼女、頭脳はそれなりな私のお婿さん募集って。
「本当に来たら嫌です。」
『賑やかですね。』
白鯨に話しかけられた。鯨は歌を歌うとは聞いていたけど、あれはザトウクジラだったと思うけどなぁ。
『私は鯨神ですから、鯨の種類は関係ありませんよ。』
俺が知ってる鯨神は、宇能鴻一郎原作の大映映画だなぁ。
「まぁ宇能鴻一郎?」
早速ジェニーが反応しちゃったんです。
じゅん。
んでだ。俺らを飲み込んだ訳を聞かせてもらおうか。
なんかこう、劇的な展開がないとさっさと出てくぞ。もう魅力的な事件が起きないと、うちの作者が続きを書いてくれそうもないんだ。
『普通は作者が頭から捻り出すものですが、なんですか?この物語の作者は展開をキャラクター、それも登場して数行しか経っていないゲストに求めるんですか?』
うちの作者はそういう奴なんだ。著述に飽きて脳味噌が斜めに流れていくままに文章を綴っているんだ。
『とんでもない物語に来ちゃったな。』
作者作者ってさを抜いたらクシャクシャやないかい(藤山寛美)。
俺もこの物語の立ち上げの時は、こんなんなるとは思ってなかった。
普通に無双系ラノベに出演した筈だった。
なのに最近は、うちの嫁ーズが荒らした場を均す事が俺の主要な仕事だぞ。俺の無敵設定どこ行った?
「それでわたくし達の台詞が減ってるのね。」
「お嫁さんと旦那さんの仲良しトークなんか、妄想全開のチャンスではなく無いですか!」
俺だってさ、可愛いお嫁さんや金髪のお姫様や愛娘と家族団欒したいさ。
なのにちょっと目を離すと、嫁ーズは少年探偵団のエンディングを合唱し始めるしよ。
見ろよ。今回、ピヨちゃんも八咫烏も一言も喋って無い。
前回のギャグを使うなら、楽屋でお煎餅食べてるだけだ。八咫烏なんか折角人間化したのに。
八咫烏を人間にするフィクションなんて、下手すると本邦初かもしれんのに。
『あなた様の興味を惹かれるかどうかはわかりませんが』
ぶつくさぶつくさ言っていたら、鯨神が話しかけてきた。
『アレを退治て欲しいんです桃太郎。』
鯨神に高橋英樹を教えたの誰だ?鼻が小堺一機な娘さんかな?
白鯨がヒレで示したもの。それは。
海底に生えた沢山の巨体な顔だった。
あーアレだ。イースター島のモアイ。
確かイースター島の石切場から切り出した岩を掘って作った巨大上半身。
赤い帽子と目玉がついているものが完成品だった筈だけど。
あのモアイは口からミニラの様な丸い光線をみんなして次々に吐いている。
「アレかな。」
「アレね。」
「権利的にはかなりうるさいとこかと。」
絵とかに起こさなきゃいいんじゃ無い?
どこをどうやってもお金が発生するコンテンツじゃないし。まさかこんなタワゴトを書籍化する頭のに悪い出版社もないでしょ。
太平洋、白鯨、イースター島ときたら、キーワードは一つしか無いんだけどな。
『ご想像のに通り、私はムーの残党です。』
では、そのムーの残党を攻撃してくるアレはアトランティスとか?大西洋を通ってきたけど、痕跡もなかったよ。なんもなかったから原潜を無理矢理出して戦ったんだから。
『大西洋のに海底を見れはわかる通り、隆起している地形なので、アトランティス大陸なんかなかったんですなぁ。地中海のミノス島とも言われているし。』
「あ、地中海ならミノタウロスがいましたね。伝説伝承係のわたくしもすっかり忘れてました。」
引きこもりの牛人間が、我が家の相手になるとも思えないから良いよ。
ムーの白鯨ならば敵はアトランティスだったけど違うと言うのなら、んじゃ、アレはどちら様ですかね?
『我々は宇宙人って言ってましたよ。』
また、最高に頭の悪い単語が出て来たよ。
って、ここで次回に引くの?
『そろそろ5,000文字なので』
なんていうか、作者がサーバーの無駄遣いな小説はさっさと完結させたいので、そろそろ伏線回収に移行します。だそうです。