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第61話 咆哮

さて、ピヨちゃんや。いや、多岐都姫。

俺はピヨちゃんの頭を指で優しく撫でる。

白い小鳥は気持ち良さそうに目を閉じ、俺の指に頭を押し付けて来る。

そして。

眩しい光が俺の掌中から上がる。

光が消えた時、俺は1人の女性の頭を撫でていた。


「なんじゃ?なんか用かの?ここ2~3回台詞も無かったから、楽屋で八咫烏とお茶してたんじゃが。お主んとこのお茶とお煎餅は旨いの。お気に入りじゃ。」

そりゃ、俺が用意しているお茶は静岡の茶農家非流通の自家消費品だし、お煎餅とかき餅は浅草寺の仲見世で職人が焼きたてたばかりの逸品だ。美味しいさ。俺が自ら業者や農家を訪ねて厳選してんだもん。

うちは出演者を大切にするの!


「ちょっと姿を見かけないと思ったら、2羽で休んでましたか。」

「あら知らなかった?旦那様と奥様はレギュラーとしてフル出演してますけど、幕間とか、ちょっと出番の無い時は、みんな楽屋で一休みしてますよ。旦那様が用意してくれるお茶とお茶菓子の美味しい事。頬っぺたが落ちそうです。」

「むむ、慎吾様は妻に内緒でそんな事してたんですか!」

そりゃ、最近ではお前ら毎晩2人して俺に襲い掛かって来るけど、お嫁さんだけ相手にしてた晩とか、ジェニーが1人で寝てた頃は何処にいたと思ってたんだ?

「隣の部屋とか?」

「奥様って結構声出しますよ。私は兎も角、ユカリさんとか始末に困るでしょ。」

テント泊の夜もあったしな。

「そんな事、今まで知らなかった。」

「今回作った後付け設定じゃがな。」

いや、バラすなよ。そうだけど。

「今作ったんかい!」

「でもお茶が美味しいのは事実ですよ。ずずう。」

「いや、ジェニー。貴女の国なら紅茶でしょ。」

「旦那様の緑茶は渋くて甘いんですよ。」


「それで、儂は何をしたら良いんじゃ。今ざっとここ2回を読み返してみたが、相手はただの人間じゃろ。おんしの女御殿なら戦車程度の飛び道具ならお茶の子さいさいじゃろ。」

「いや、ピヨちゃんさん。戦車というものは、歩兵や騎兵の突撃を潰し、塹壕を前時代にする為に発明された機械です。いくら斬鉄が出来る奥様でも難しいのでは?」

「出来ないと否定しないところが、厄介なおなごよの。」

ん〜、ただの対戦車なら、うちのお嫁さんならどうとでも出来ると思うよ。

「「「出来るの?」」」

お前まで驚いてどうするお嫁さん。

固定が不安定な拳銃が斬鉄出来るのなら、''動かない“戦車も斬れるよ。

ただ、砲弾に当たったらお嫁さんが粉々になるよってだけで。

「「「駄目じゃん」」」


お前ら前回の引きを忘れんなって。ここはユカリさんの出番なんだよ。

「それでは、儂の役割と言うのは…。」

結界を張ってくれ。

「だろうと思った。」

オフェンスに回れるのか?

「馬鹿言っちゃあいけない。瑞穂の国の女神の役目は、常に五穀豊穣よの。戦いじゃ何じゃは素戔嗚辺りに任せときゃ良いんじゃ。」

んだから、任した。

うちの嫁ーズは、とっくの昔に人間離れしてっけど、それでもその身はただの少女だ。

「ただのって辺りには、お主と話し合う余地がありそうじゃが、良かろう。任された。我が後輩の為なら一肌脱ごうぞ。」

本当に脱ぐなよな?

「……………。」

返事は?

「…………はい。」

「うわ、慎吾様、神様に説教してる。」

「というか、あの神様ってお子さん産んでるのよね。どれだけ自信あるのかしら。」

「あるじ達が忙しくしてる間にこっそり見せたげよう。」

聞こえてっぞ。脱ぎたがり女神。

「神様って大体そんなもんじゃ。お主は知っておろう。」

知ってっけど、神様とお相手した事は無いし。

お前の母ちゃんから、お前を頼まれてるし。

「うちの母ちゃん、日本の最高神の筈なんじゃがなぁ。」

北極で天岩戸の中に引きこもってんぞ、あの人。

「それじゃ、貴女達来なさい。龍の暴風に巻き込まれると簡単に死ぬるわよ。」

「はい。」

「……。」

「なんじゃ?どうした奥方?」

「ユカリ、大丈夫でしょうか?」

「なんじゃなんじゃ。あの龍は奥方の本当の娘では無かろう。」

「それでもユカリは私達の大切な娘です。」

「おんしの亭主がついとるから大丈夫じゃろ。あの龍を娘と思うのなら。母として信じてやれ。おんしらの子供はどうやったっておんしらの期待を裏切れんよ。」


では、いくぞユカリ。

「うん。あ、あの…」

なんだ?

「パパに襲いかかっちゃったらごめんね。」

なんだそんな事。俺はユカリが暴走した時、殺さないで鎮圧出来たらいいなぁとしか思って無い!

「もう少し、ユカリを想って欲しいなぁ。」

''おもう''の漢字が違うぞ。ユカリさん。

「私の本音なんだけどね。」


ユカリの愚痴ともなんともつかない呟きが流れた時、一陣の風が西部の大地に舞い降りてきた。

「ああ情けなや。情けなや。」

おや、うちのドラゴンちゃん。何しに来た?

「セイレーンが気を失って起きなくなっちゃったから、こっちに遊びに来た。」

お前、あれから大体2章くらい進んだんだぞ。

そうだな。2週間くらい経過した事にしよう。

その間ずっとセイレーンで遊んでたってか。

「我が主と比べると弱い弱い。せめて一月は同衾していたいものよのう。」

なんだその悪代官みたいな言い草。

「それになんでも我が種が逆鱗遊びをすると聞いてな。」

「お姉様。ユカリは遊びじゃありません。ユカリはお姉様みたいに強くないんです。でも、少しでも近づきたい。パパの家族として、パパの戦力になりたいの。」

その言葉を聞いたドラゴンちゃんは、ユカリの両肩をぱんぱん叩いて言った。

「うむ、良くぞ言った。それは我ら選ばれし龍の本性だ。強くなりたい。強くなりたい。それは我らの本能に染み付いた究極の欲望だぜ。そんな哀願口調じゃなく、アタシに吠えてくれりゃあ文句なしの合格だったんだけどな。」

「そんな恐ろしい真似出来ません。」

「しろよ!お前も龍ならば!」


日本の花魁みたいな格好をいつもしている金襴緞子人間体のドラゴンちゃんが久しぶりに化けた。龍化した。それも、一切の遠慮を捨てた真の龍神としての姿。

齢、数千年を生きる、神よりも偉大な龍が西部に現れた。

「良いか我が妹よ。お前は、アタシですら持っていない財産を持っている。」

ドラゴンちゃんの口からは炎と共に、ユカリを励ます言葉が紡がれる。

「財産…」

「お前はユカリという名前を持っている。我が主が付けた名前だ。それは、アタシでも持っていない、人と龍を結ぶ、大切なえにしだ。それは我が主がお前に期待する証左。お前を愛する証。なのに、お前はどうする気だ?逃げるか?立ち向かうか?お前には仲間がいる。アタシには仲間はいない。

「アタシには仲間がいないから1人で戦い続けた。我が主が我が前に現れるまでは、な。

お前はまだ若い龍だ。が、我と同じ選ばれし龍だ。ならば、ならばお前はどうする?憧れだけを口にして、我が主達のマスコットで終わりか?

「それとも、お前が望むものをお前だけ力で掴むか?お前の肩には、お前の愛おしい男が、お前を守る為、もしくはお前を殺す為立っているぞ。」


うん、その通りだ。腹を決めろ!極めろ!ユカリ!


うちのドラゴンちゃんの龍力に引き摺られる様に、ユカリも龍化する。

それも、普段はお嫁さんを背に乗せてドラゴンライダーを気取る大きさでは無く、もはや一つの山と化したうちのドラゴンちゃんに負けず劣らず、巨大な龍に。

そんな巨大な龍の肩に、小さな俺は立っている。

暴走し始めた龍力は、巨大な竜巻を産み、逃げ惑っていた牛やら馬やらを天空に巻き込み始めた。まぁ俺んじゃないからいいか。


ユカリ、行くぞ。

「うん。パパ。行くよ。」


俺はユカリの背を駆け、背中をあえて蹴飛ばす。ショックでユカリの身体が震えるが、龍体の場合、こうでもしないと逆鱗が表面に出てこないのだ。


かぷっ。

甘噛みしてあげる。

ドラゴンちゃん曰く、背中の栗だそうなので、ぶん殴るよりも、愛撫の方が効果ありそうだから。


ユカリが吠えた。

同時にドラゴンちゃんも吠える。

2柱の龍はお互い向き合いながら、その咆哮は大地を震わせていた。

俺は再びユカリの頭に駆ける。


「ユカリ。行くぞ。あと20メートル上昇したら、顎を40度の角度開けて火を放て。そこにアイツらの牧場が有る。それで全ては終わる。」

魔力が暴風となって暴れている中だから、俺は静かに話しかけた。


ユカリは俺の指示通りに空中を走り、言われるがままに炎を口から放った。


クラントン一家は、戦車も人も建物も全て蒸発した。一応、咬ませ犬として出した訳だけど、それにしちゃ弱すぎた。

やっぱり俺達相手じゃ人間はもう無理だ。


山向こう、とドク・ホリデイが説明した山は、既に無くなり平地が広がっていた。

クラントン一家がこの世に存在した証は全て塵となり、上空に噴き上げられた。

廃坑と言われた銅鉱山は表土を吹き飛ばされ、新たな露頭が現れる。


更に一つ大きな咆哮を残してユカリは墜落した。力を使い尽くしたのだ。

俺の力で強制的に人間体に戻すと、空中でユカリを抱き抱えた。

「あ、良いなあ、お姫様抱っこだ。」

新婚当初、俺の攻めに腰を抜かしたお嫁さんを抱っこして以来かな。

「初夜の嫁の腰を抜かすとか、相変わらず我が主は鬼畜だのう。」

あいつは初対面から下ネタ溢してたムッツリ弩助平だからいいの。

「弩助平とか、文字面で見ても、アタシから見てもいやらしいの。」

いつもの憎まれ口を叩きながらも、うちのドラゴンちゃんが静かに俺の足元に潜り込み、俺達と共にゆっくりと地表へ降りて行った。


いち早く結界から飛び出して、サユリがユカリを抱きしめる。

後からジェニーと多岐都姫も加わり、ユカリを中心に一つの輪が出来た。


サユリの声に、ユカリはそっと目を開ける。


「初めてにしちゃ上出来だ。背中の栗は気持ち良かっただろう。」

いきなりそっちか、ドラゴンちゃん。

「おうよ。逆鱗を超える事は、龍としての限界を超える事。元々強かったアタシはアッチ方面に極振りしとるが、コイツはコイツの選ぶ道もあろう。何しろ。」


家族の、仲間の輪に、一瞬。ほんの一瞬だけ羨ましそうな顔を見せて、ドラゴンちゃんはユカリに話しかける。


「お前には最愛の家族と、本物の神様が一緒だからな。もはや、アタシには選ぶ事が出来ない道だ。」

そうでも無かろう。お前はまだなんでも出来る。なんでも選べる。

「うんにゃ。アタシはアタシで、アタシがやった事を知っているし、別に後悔もしていない。それに今のアタシもアタシは大好きだ。我が主よ。人は死ぬ。だが、アタシらは死なない。死ねない。だから死ねる人間の嫁達に我が主を預ける。永久の時を生きる我らには、永久に愛を交わす時が有ると言う事だからな。でも、たまにはアタシの相手をしてくれよ。ご飯はまだ有るけど、我が主の我が主ほど、心が満たされるものはないからな。」


言いたい事を言いたいだけ言うと、ドラゴンちゃんは巣に戻って行った。

「姫いうのが1人いてな。まだ処女みたいだから、たっぷり時間をかけて、ガッツリ堕とすのだ。」 

つまりは、あのモスクワっぽい城で、ちゃっかり狩りをしていたと。

「名前をアナスタシアとか言ったたのお。」

おいおい。あれが革命前だとしても革命後だとしても、その娘はまだ幼女だぞ。

「光源氏計画じゃー!!!」

女が幼女を性的に育成すんな。


1人の龍が神としての資格を得て。

数人の悪漢が存在を分子に変えて。


そして俺は竹子舞を編んで土壁を塗っていた。ついでだから下見板も貼って上げようか。黒く塗れば豊臣政権下のお城だぜ。


という訳で、なんとか言う一家は消滅させた。あと、廃坑になってた銅山にまだ銅鉱石が残ってたから、余計な土や岩を取り除いてある。

あとはお前らの好きにしとけ。


ぱんぱん。保安官事務所の壁を一枚直して終わり。あれれ?おかしい。さっきまで真壁作りで壁を作っていた筈なのに、いつの間にか軽量鉄骨パネル構造・窓は防弾機能付きシャッター仕上げになってた。

うん。俺の職人気質が出ちゃったか。


「あんがー。」

おい、しっこアープ。保安官はどうしたんだ?

さっきから口開けてあんがーしか言わないけど。

「ドラゴンが暴れて山をいくつか吹き飛ばす姿を見てんだよ。おかしくもなるわ。あと、私をしっこ言うな。」

お、漏らしてないんか?

「もう一滴もでんわ!」

ズボンを履き替えたんじゃなくて、色変わる程ビチョビチョなんか。

「………。出来れば愛液でこのくらい濡らしたいけどね。この東洋人で。」

なんか言ったか?

「なぁんにも。」

そうそう。そんな時(しっこ時)に誤魔化せる良い方法を教えてやろうか?

「……一応、聞いておこうかしら。」





「いくぞホリデイ!」

「負けんぞ!ワープ!」

「「最初はグー!」」




「中ほどは、ちゃんとしたお話をしていたと思ったのに、最後の最後でふざけましたね。」

まぁ、仲本さんと志村さんも西部設定だったから、それはそれで良いんじゃない?

「でもアメリカ編は、思ったより脱線しませんでしたね。脱線の主犯たるわたくしが言えた義理じゃありませんでしたけど。」

ユカリのパワーアップが目的の回だったからな。本当はメキシコくらい吹き飛ばす予定だったのが、ユカリの奴、全く正気を失わなかったから、お話がちっとも暴走しなかった。

「このお話って…本来ならわたくしが司会進行役で、ユカリさんはマスコットの筈なのにね。これは一種の下克上かしら。」

まぁ良いじゃないか。


車の助手席には、今日はジェニーが座り、ジェニーの両肩に白い小鳥と、黒い仔烏が止まっている。

何故ならば、後部座席でサユリとユカリが肩を寄せ合って眠っているから。

たまにはこんな静かなエピローグで締めるのよ。


「あ、ワイアット・アープ女史より伝言を預かっていました。」

しっこから?大体想像はつくけど、聞きたくないなぁ。

「えぇと。こほん。いきますよ。後ろの2人が起きない様に。

かんばっく、しぇーん

だそうです。」

それ、別の映画のラストシーン。


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