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第59話 新大陸

大西洋をえっちらおっちら、昼寝をしぃしぃ乗り越えて、やってきました新大陸。

ぱぱんぱん。

ニューヨークはマンハッタン。自由の女神が聳え立つ、ここは移民の国、自由の国、ぱん、アメリカ!


ぱぱんぱん。


糊がバッチリ効いた紺色の着物を着込み、扇子で釈台を叩きながらリズムを取り、今日の導入は講談と行こう。


「何が始まるんですか?」

「慎吾様のお召し物を見る限り、秋津家の家紋は鶴丸だったんですね。というか秋津家は家紋持ちですか。武家ですか?お公家様ですか?」

庶民です。

「なーんだ。」

そこの嫁!自分が嫁いだ家の悪口言わない!

「かもん?COME ON?」

多分英語が伝来して直ぐ生まれた洒落だろうな、それ。

「ジェニーの家にも紋章ってあるでしょう。家紋って言うのは、私達の国の、家の紋章なの。」

「うちの紋章は赤薔薇と白薔薇を意匠化したものですよ。えっと、確かこの辺にしまった様な。」

こら、他人のポッケに勝手に手を入れない。掻き回さない。ついでにズボンの上からさわさわ撫でない!おっきくなっちゃうだろ。

「サービスです。」

「なんで着物着てんのに、ズボンのポッケがあるのよ。まぁ着物だから感触は殆ど直よね。私も触ろっと。」

毎晩毎晩2人して絞り抜きながら、まだ絞る気か。


「ほら、これ。」

ジェニーが俺の急所を絶妙なタッチで触り抜き(恐るべき12歳)、むくむくっとなった事を確認してから取り出したのは、あの地下牢からジェニーを救い出した時に着ていた服に付いていたブローチ。

あの時はお互い直ぐ素っ裸になったし、翌朝からは振袖を着ている金髪英国少女なので、無責任にもこの娘は王家の証を俺に預けっぱなしなのだ。


「凄いな我が家。たかだか700文字過ぎたら初期設定の講談が無くなりつつあるよ。」

待て待てユカリさん。まだだ。まだ終わらんよ。


「これです。ランカスターの赤薔薇とヨークの白薔薇を合わせたデザインなんですよね。うちは薔薇戦争って内乱を勝ち抜いた家なんです。」

「はぁ。何処の国にもあるのね、そんな事。」

つまらん勢力争いをしないとならないのなら、お上より強い力を持ちながら無責任に暮らせる庶民の方がいいんだわ。

「因みに鶴丸には何か歴史はないんですか?」

んー?単に、鶴は千年亀は万年にかけて長寿祈願だけらしいぞ。

もっとも、鶴丸をつけた有名武将は、織田さんとこの森さんとか、長生きした人を俺は知らんけど。

「なんだ。」

あからさまガッツリした顔すんなや。

だいたい、サユリんとこはどうだったんだよ。

「うちは百姓ですよ?法事でも普段着だし、強いて言うなら、お寺さんの紋を借りますかね。うちのお寺さんは井桁に橘でした。」

…………?

「なんですか、慎吾様?」

うちのお嫁さんが、まともな知識を披露している。驚くやら驚くやら、よよよ。

「驚くだけですか?関心するところでは?あと、学はたしかにありませんけど家の事ですよ家の事、お父やお母に一通りの事は聞いています。亭主に嘘泣きされる程情け無い嫁ではありませんよう。」


「因みにユカリにも紋章があります!」

おお。ユカリさんが取り出したメダルには…蛇?羽根の生えた蛇?が浮き彫りにされている。

「竜人達が奉納してくれました。」

あーあったなー、竜人の世界とか。

元族長の娘姉妹が嫁入りに待ってるとか、本当の初期、こんな話が珍奇になる前、まだまともに物語を綴っていた頃の話だなぁ。まさかこんなんなるとは思わなかったから。

あの伏線をどう回収したらいいんだろう。

「本文で伏線回収を悩み出す主人公というのも前代未聞では?」

そもそも物語自体が右往左往しているので、その程度のメタで動じる人なんか、作者も読者も登場人物も、1人もいません。


ぱぱんぱんぱん。


「あ、よかった。パパは今回講談師だって事を忘れてなかった。」

…これ便利だなぁ。閑話休題ギャグを何回か使ったけど、もう展開が無くて困ってたんだ。

司馬遼太郎の余談だがギャグもそうそう使えないし。

釈台を扇子で叩けば、それだけで場面転換の表現が出来るんだ。

「講談と講談社って関係あるの?」

「アソコは元々雄弁会って言って、政治家などの演説を文字起こしして出版するために作った会社なの。その業務の一環として、当時の主要娯楽のうち、物語性の高い講談を文字起こしした本を出版するために起こした子会社が講談社なの。」

「でも、今の講談社ってマガジンよね。」

「そこら辺はね。日本の出版史を調べないと。小学館と学年誌で競争をしてたの。でも負けたの。そこは学年誌の専門であり、老舗だからね。そこに小学館が新しく子供週刊誌を創刊する事になった。それがサンデー。これ以上競合会社に負けるわけにはいかない。なのでマガジンを創刊した。そんな流れ。」

日本の週刊漫画史に詳しい英国女王。

そして相変わらず脱線しかしない俺たち。

新大陸まで来ても変わらない俺たち。

ぱぱん。


東部を思い切りすっ飛ばして、ここは西部。

さっきテキサスを超えたので、ニューメキシコに入ったのだよ。



赤茶けた地面。岩砂漠。

ダンブルウィードが乾いた風に転がって行った。


喉が乾いた。テキーラでも調達しようか。

俺達はサロンのスイングドアを開く。

途端に銃声が響く。

「きゃ!」

ジェニーが小さく悲鳴を上げた。途端に中から下卑た笑い声が響く。

テーブルに脚を乗せた男達が拳銃をこちらに向けて笑っていた。

「よう兄ちゃん。随分と可愛い子を連れてんじゃないの。」

「まだ子供じゃねぇか。兄ちゃんも好き物だなぁ。」

「そんなヒョロヒョロよりも俺達と呑まねえか?たっぷり可愛がってや…

男はそれ以上の声を発せなかった。

風塵の如く飛び込んだサユリが、喉元に剣を突き立てたからだ。

僅かに右手を引くと、そのまま男を蹴り飛ばす。サユリの殺気に既に失禁していた男の首には、皮一枚切られた血が滲んでいた。


「マスター、飲みもんを頼むわ。俺にはこの店で一番高い酒を、子供達にはミルクでも出してやってくれ。」

「お前に出せる飲みもんはねぇな。」

「おやまぁ。」

グラスを磨いていた男は心底俺を馬鹿にした表情を見せた挙句、カウンターから拳銃を取り出し、出せなかった。

俺が草薙の剣でマスターの右腕、いやカウンターごと切り落としたからだ。

傷口から血が噴き出る前に、カウンターごとマスターを蹴り飛ばす。

マスターは背後に並んだ酒の瓶のガラスに全体を貫かれ、壁を突き破り、奥の部屋で絶命した。


ここまで1分と経っていない。

半ば固まっていた男達は、ようやく我に帰ると一斉に銃を抜いた。

が、そこまでだった。正体がエンシェントドラゴンたるユカリが、幼女の姿のまま吠えたのだ。龍の咆哮に正気を保てる者はいなかった。

サユリが竜骨刀を一閃する。

それだけで、男達が持つ銃の銃身が全て切り落とされる。


俺達がスイングドアを開けてちょうど3分後、右手がない男の死体、発狂した男達と、そして崩壊したサロンの建物がそこにはあった。


うーん。

一応の情報収集と、今回から西部劇ですよって事で酒場に入っただけなのに。

俺達が関わると、店一軒無くなっちゃった。

「出来た出来た!慎吾様出来ましたよう、斬鉄が出来ました!それも手に持ってる不安定な鉄を斬れました。」

「おかーさんが、とうとう剣術では皆伝級の腕前になってんだけど?パパ、この人どーすんの?」

一応、俺のお嫁さんだし、俺の弟子だから、最後まで面倒は見る気だけど?

「頼みますよ。パパに関わるとヒトがヒトの域を平気で超えてっちゃうんだから。…そおゆうユカリも龍の咆哮なんか今まで使った事も使おうとした事もないんだけど。」

「わたくしも、わたくしの歌になんだか魔力が付随し始めてませんか?」

そりゃあねぇ、お嫁さんの中の蛇神を含めると、俺達4人と2羽のパーティの中で4柱神さまが居るし。

「…異教の神様とはいえ、皆様の神力の影響を受けているという事ですかね。わたくし、処女を失って久しいんですが。」

人の股間を触って大きくするのが上手い12歳というのも、そこらの娼婦より凄いんだけど。

「旦那様に仕込まれましたから。」

そうは言うけどさ、俺はジェニーの性感帯を開発してるだけで、テクニックは教えてないよ。

「そっちは師匠がいますから。」

「はーい、ししょーでーす。」

しまった。ジェニーより少し歳上で少し付き合いが長くて、とっても助平なお嫁さんがそばにいた。うわぁ、コイツにはしっかり仕込んだ覚えしかない。


「もすもす?」

ビックモスマン?

「誰がポリシの格好すたプロレスラーかね。」

びろ〜ん アンタ誰?

「誰がダニー・ケイかね。」

このギャグはこの連載でも昔一回使ってるなぁ。

「パパ。ダニー・ケイと谷啓の区別をつけさせないと。」

「ユカリは慎吾様に突っ込む方向が少しズレてない?」

「だってパパ。この保安官さんとまともに会話する気が無さそうだよ。」

いや、ユカリさんこの人見てみい。

目ん玉繋がってるし、声は肝付兼太そっくりだし、ズーズー弁だし。

「…本官さん?」

「或いはバンジュンさんかしらね。」

ズーズー弁で先ず伴淳三郎を連想するイギリス女王12歳。

「………。今回、12歳を押しますね。」

「と言うか、本官さんの中の人、スネ夫の人なの?」

“元祖“ではね。

無印では目玉のオヤジだったり、以降はメガネだったり。


「いやいや、ちょっと話ば聞かせてもらわんけんど。酒場さ、はあ壊れてんど?」

「「「カッとしてやった。反省する気はない」」」

鉤括弧が3つって事は、うちの女性陣全員の台詞だな。みんないい性格に仕上がってきた。

「「「(慎吾様・旦那様・パパ)の家族なので。」」」

…なんですかピヨちゃん。耳たぶを甘噛みしないでください。感じちゃうだろ。いや、別に俺が仕込んだ訳じゃないよ。

夜の方はともかく、普段の言動は彼女達の地でしょ。

「「「どんなに真面目になっても、最後は滅茶苦茶になるので。」」」

最近、状況の方が先に滅茶苦茶になるけど、俺は割とまともだぞ。


「はぁまぁ、とりあえず事情を話してくんろ。保安官事務所まで来てや。」

壊れても知らないよ。

「あんりまぁ、なるべく壊さんで欲しいのう。」






今回は割とまともなラノベに収まったと思うんだけどユカリさん。

「私が最近情緒不安定になって来てるから、その辺なんとかしなさい。」

キャラクター設定で娘に叱られる主人公ってのも、そうはおるまい。

「威張ってどーすんのパパ。…講談師はまた使うの?」

便利なのはわかったから、その内どっかで。

「どっかで?他所様では真面目に書いてるんだから、迷惑かけちゃダメだよ。私達だと、他の作家の人に平気で出張しそうだし。」

考えとこう。以下次回。

「イカ2巻?」

他人のギャグは使わないように。パクリはくせになるぞ。

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