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第52話 釣れたものが、よりによってさ

おおお!かかったぞ。引いてる引いてる。

「?。随分と引きが強いですね。竿も殆ど直角に折れてますし、糸切れませんか?」

切れません。タモもいりません。世界の輪!

「因みに鮪とか鰹って、重さどのくらいなの?」

お嫁さんに、30年前のタモさんギャグが流された?

「そうですねぇ。クロマグロで、大きい成体で300キロオーバー。種類によっては500キロを越えるものも居ますよ。」

「パパなら多分、片手で吊り上げるよ。」

「まさかぁと思いつつ、慎吾様ならやりかねませんね。松方弘樹じゃあるまいし、ですけど。」

電動リールが大きく回る、おお、暴れてる暴れてる。

俺は竿を担いで後に下がる。ワタリ印の絶対に切れない糸と絶対折れない竿に絶対バレない針だから、好き放題な格好で釣りゃあいいし。

そんなチートが釣りが楽しいかって?旅人の俺からすりゃあ、釣りはただの狩りだから。飯を食うから、おかずを釣る。その為の俺にストレスを与えない、その程度のチート能力は付録にしかすぎないし。


…邪魔だなぁ、この足元の肉。

誰だこの、頭だの四肢だの、腐臭漂う肉をこんな所に並べた奴は。

「奥様。2日続けての慎吾様ボケですわ。」

「そう言われましても、昨夜は、わたくし寝てて聞いてないので、話についていけませんのよ奥様。」

「大丈夫。ユカリが居ますはわおくさま。パパのボケはスルーで。そうパパの妻子会議で決まったのでございますわおくさま。」

「ピヨ」「カー」


うっさいなぁ。

あと、家族と仲間が仲良しになっているのに、お父さんには冷たいぞ奥様。


「あのぅ。そろそろあっし達のお話を聞いて貰えんのかね。」

ビロ〜〜ン!あんた誰?(※谷啓の名曲だよ。びろーんって、歌詞カードに載ってないんだよね)

「あっしは前回、化け物が襲って来たぁと知らせに来た船員でさぁ!この緊急事態に忘れんといてや!」

皮のズボンにボーダーシャツ、ついでにバンダナという、実にわかりやすい船員の格好をした男が、ジタバタ暴れ出した。世紀末が来るのかな?

…何処かで見た事のあるアクションだなぁ。

…ぽん!わかった。維新軍団の集中ストンピング攻撃だ。そう言えば、マサ斉藤さんのムーブって、地団駄という言葉が綺麗にはまってたなぁ。地団駄ラリアットを使ってた人もいたなぁ。あの人も、もう鬼籍の人かぁ。


「ああ、あのモードに入ったパパとまともな話が出来ると思ってんだ。なんかギャグ混ぜてだし。」

「可哀想な人ね。」

「ほんとにね。」

「…なんであっしが子供達に、そんなに言われなきゃならないんだろう。そんな可哀想な目で見られているんだろう。」


そっか。そうだよな。側から見たら子供達だよなぁ。

改めて、うちのパーティには大人は俺しか居ない事を実感する。

実年齢は、嫁ーズ以外、みんな大変な事になってるけど。そこはスルーの方向で。

「…なんかユカリ達の機微情報をパパにスルーされた気がしました。」

察するんじゃありません!


さてと、この足元に転がっている腐肉だけど。本当に邪魔だなぁ。竿をそこらの甲板にブッ刺して固定させると、(船員氏曰く「鋼鉄甲板に気安く竿をぶっ刺しやがったあ」)一本の金属バットを取り出す。きっききききき金属バット1号!

「そんなマイナーな兄貴な歌。誰が知ってんのよ。」

スーパーな兄貴を知ってる段階で、色々アレな事をバラしてますよお嫁さん。

真面目に生きなさい。

「私は慎吾様みたいな細マッチョが好みです。

細いけど、かっちかちな腹筋と胸筋が、私の細やかなおっぱいや、柔らかいお腹と接して重なる時間は、何より女としての幸せを感じる時間だもん。」

「ああそれわかるぅ。鍛え抜かれた東洋男性の塊って感じで、サムラーイ、ウタマーロってその時間は頭の中でループし始めるの。」

人様の前で、15歳と12歳の女の子が、はしたない事言うんじゃありません。なんですかその、20世紀の西洋AVみたいな形容は。

というか、君ら正常位が好みなのね。

「「顔をそばでずっと見てたいもん。気持ち良い時に思いっきり抱っこできるし」」

そうですか。

「「少しは照れやがれ!」」

知らんがな。


で、金属バット1号をどうするかと言うとだね。左手で握ったバットを立て、右手を左肩から、二の腕あたりをさするポーズをします。

「ああ、鈴木一朗さんか。」

「それは、R・田中一郎さんとは違うのですか?」

そう言えば、あっちには粉砕バットが出て来たなぁ。偽オズマ(←間違い)が見えない(最初から持ってない)バットを振り回していたあのパロディ描写も今ではアウトなんだろうなぁ。


さてさてさて。いちにぃの、さ〜ん!

金属バット1号を、中村ノリ張りにヘルメットを飛ばして、身体が傾く程豪快に素振りを振り抜くと、足元の船長さんだった肉は、遥か沖にすっ飛んでった。あれ、少し血が甲板にこびりついてんな。ま、いっか。

雨の一つも降れば、流れていくだろし。


「…ねぇパパ。今更だけど、夕べみたいに存在を固定してだっけ?吹き飛ばすってやり方じゃダメだったの?人肉がショットガンみたいに海に散っていく光景は、さすがに描写しちゃダメでしょ。」

だから、軽〜い描写しかしてないでしょ。R指定かけてるし。

「邪魔だから人肉を撒き散らすって、コンプラ的にどうなんだか。」

こないだは刹那的って開き直ってた龍に道徳を説かれ始めるパパだった。


あ、竿をすっかり忘れてた。

「出来れば、モンスターの方も忘れないで頂きたいんだけど。」

あ、そっちもすっかり忘れてた。


まぁとりあえずは、釣りだよ釣り。

何がつ・れ・た・か・な♪

「いや、釣りが先ですかい…。」


釣れたのは、全裸の女性でした。

針を口元に盛大に引っかかって、身体中をビクビク痙攣させてます。


「私達も慎吾様に引っかかった方だけどさぁ。この人、海からも女を釣り上げますかねぇ?」

「気のせいですかねぇ。この人、海の中に居た瞬間まで、下半身がお魚には見えましたけど。」

うん、ジェニーの観察は正しいよ。

だってこの人、セイレーンだもん。

「「はい?」」



「だって、船員さん曰く、船首の方で今暴れているんでしょ?」

同じ船だし、そんだけ沢山セイレーンが来んなら、後の方にも回って来んでしょ。

「セイレーンと言えば、悪魔の歌で、人の精神を狂わせる存在ではなかったでしょうか?」

「んだんだ。船首では今、みんな耳栓してライフルで撃ってるとこだ。けど、耳栓くらいじゃ通用せんと、バラバラ海に落ちてるから、こっちに来たんだ。」

何故、船員氏がズーズー弁になって来たんだろう。

「で、慎吾様?何かやらかしたんですよね。ご説明を。」

ん?コイツがセイレーンな事は、針に掛かった瞬間にわかったから、水中から出た瞬間に本来なら肺呼吸になるところを、鰓呼吸で固定しただけだよ。ほら、口をぱくぱくさせて苦しそうだろ。呼吸器系統は魚のままだから声帯も無いから、声も出せない。それにほら。


俺は、タイタニックが起こした航跡波を指差す。そこには、セイレーンの死体が、どんぶらこどんぶらこと、波に連れられ、海上をタイタニックについて来てる。

いや、人肉を喰らうモンスターがいるのわかってて、人肉を撒き餌にするなら、撒き餌に細工の一つもするよ。

例えば、神力とか。な。

「ピヨ」

「ああ、ピヨちゃんが悪い顔してますう。」

「小鳥の悪い顔ってなんなの?と思ったわたくしですが、なんだろう。ピヨちゃんさんの顔見たら全てがわかりました。」

「セイレーンって、呼吸器系統魚類なんだ。上半身人間だったのに。」

ユカリさん?肺呼吸だったら、海中生活なんか出来ないでしょ。

それとも鯨みたいに、鼻の穴から盛大に鼻水を噴き上げるかい?

「そんなセイレーンは嫌だ。」

おやおや、元気が出るテレビかな?


「…あんたら…なんなんだ。なんなんなんだ。」

おお!こっちはこっちで、清六ちゃんだ。村の時間の時間の人肉の時間がやって参りました。

「そんな人肉時間の村は、嫌です。」

おや、こっそり混ぜたらバレた。

「私は貴方の妻ですから。悪ふざけくらい見破れます。」

「ご夫婦で仲がよろしいのは、第二夫人として、微笑ましくも嫉妬しますが…」

知らないうちに、ジェニーはお妾さんから、第二夫人にビルドアップしたらしい。磁石の力かな。あれ歌詞の半分が、バロム・1かラノベかと言わん限りオノマトペの塊だったね。


「あっちのアニキさん、よろしくないお病気されたそうですが、頑張って欲しいな。」

つまり、スーパー兄貴の存在をこっちのアニキと固定した訳ですか、お嫁さん。

「私は細マッチョが好みです。私のおっぱいの…」

「どうしよう。夫婦でボケ始めたら、わたくしでは手に負えませんよ。ユカリさん助けて。」

「なんだか馬鹿馬鹿しくて触るのも嫌になるけど、パパ?おかーさん?」

なんですか。

「どうしたの?我が娘よ。」

「おかーさんのテンションが変な事はわかったよ。それはどうでもいいけど。」

「私がたまに遊んでただけで、娘に捨てられましたよう。お父さん。」

「あーもー面倒くさーい。」

「また、話が進まなくなりましたね。」

いつもの事、いつもの事。

で、ユカリさんは、何か言いたそうだけど何かな。おとーさんには教えてくれるよね。

「…パパ達が本当に子育てを始めたら、面倒くさい親になる事だけはわかりました。」

一応、育児は過去に二桁以上経験してるんだけどな。

「私が言いたい事は、パパ?その人型セイレーン、どうすんの?」

あ、忘れてた。

「「「「忘れんといてや」」」」


釣り竿の先っちょでポイと突つつて拷問時間しゅーりょー。やっと肺呼吸出来る様になったセイレーンちゃんは、女の子座りのまま、おっぱいに右手を当てて、深呼吸を繰り返してます。

お嫁さんが竜骨剣を首筋に当てて、要らん事したら、即効素っ首を叩き落とす準備をしてます。別に俺は何も言ってないけどなぁ。

根は相変わらず優しく素朴な百姓娘なんだけど、仲間の安全の為なら、一瞬で剣士に切り替わられるスキルを身につけたみたいだ。

うむ。良きかな良きかな。4期かな。

「一年四クール以上放送するドラマとか、アニメとか、なくなっちゃいましたね。」


…ねぇユカリさんさ。話が脱線するのは、俺やお嫁さんだけのせいでは無かろうってわかるだろ?

「だって、今はわたくしがボケろと、誰かに言われた気がしたんですもの。」

誰にだよそれ。


ところで、またしばらくほっぽって置かれたセイレーンさんは目を離した隙に


それはそれは美しい土下座を見せてくれたのでした。勿論、全裸で。 

「パパと旅をしてると、時々女の子が全裸土下座をするよね。」

ユカリさん、また人聞きの悪い事を言うんじゃ有りません。

  


「負けたーーー!!」

セイレーンって、魔物美術的な美があるから当然このセイレーンも美人さんなんですが。

描いた訳でもないのに、整った眉。

厚すぎず薄すぎず、清楚なのに色っぽい唇。

西洋彫刻の頂点みたいなかんばせ。

大き過ぎず小さ過ぎず、男の手に綺麗に収まる乳房と、見本みたいな色と大きさの乳首。

きちんと括れた腰回り。 

抱えるのに丁度良い大きさのお尻。

すらりと伸びた足。

普段、女の裸なんか描写しないのに、あまりの見事さに7行も費やしちゃったぞ。


なのに、なんで土下座から顔だけ上げて叫んだ声が酒焼けしてて、言ってる事が現役時代の(最近ハマグチェ寄りになって来てる、あと娘を早く嫁にやれ、古いプロレスファンはあの娘がJCの頃から見てんだよ)アニマル浜口なんだよ。

このセイレーン、ただの姐さんじゃねぇか。

…姐さんだったら、うちにも既に1人居るしなあ。くっころ騎士の調教で忙しそうな(まだまだ在庫が沢山あるらしい)妖艶にも程がある姐さんが。

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