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第49話 メフィスト退治(ついうっかり)

「スカポンターン」

「あらほらさっさー」

「スカポンターン」

「あらほらさっさー」


そんな間抜けでお馴染みの掛け声の元に、俺とサユリは、雲霞の如くブロッケン山に溢れる敵中に、一気に駆け込んで行く。


「斬鉄なんか免許皆伝技ですよう」

から

「見てればわかりますよう」


そう俺やジェニーに言ったサユリは、言を左右する事なく、竜骨剣を構え前傾姿勢のまま駆け抜けて行く。

サユリが抜けた後には、胴から二分されたロボットが転がっている。


俺はまぁ、いつも通り。一歩一歩を5~6mくらいに飛び跳ねて行く。それだけ。

後にはバラバラになった機械の残骸が転がっている。色々やってんだよ。


「なんという。なんという。甘美な調べよ。

私は無意味な存在だ。

私は無駄な存在だ。

私に生きて行く価値などない。

そう思っていたけれど。

私には新しい仲間がいる。

私には新しい目がある。

だから、私は歌う。

仲間を授けてくれた神の為に。

私を受け入れてくれた仲間の為に。」


戦場にジェニーの歌声が響き渡る。

曲名は、アメージンググレイス。

18世紀、イギリス牧師が黒人奴隷貿易の悲惨さを嘆いて作った讃美歌だ。

背景はともかく、そこには悲惨な状況を乗り越えて約束の地へ向かう前向きな精神が謳われている。

そして

ジェニーの歌声は、物理法則を無視して、俺達全員の仲間の耳に届いてくる。

当然だ。俺達のパーティには神と神に準ずる存在が3人もいるから。

その神の遣いの一人、八咫烏が静かにジェニーの肩に止まり、時折飛んでくる流れ弾からジェニーを守っている。


神様の一人、天照大神が娘・多岐都姫の化身たる小鳥のピヨちゃんは、自らの身体を弾丸にして、ロボット達を一体一体貫いている。エンシェントドラゴンにして龍神に相当する我が義娘(養女と書くにはちと違う)ユカリは、龍化すると同時に風となった。その爪で次々とロボットを切り裂いて行く。

俺には視認出来るけど、そこらの魔神程度じゃ二人ともただの線にしか見えないだろうな。


「わははははわはははは!」

あー…、ボス・◯ロットの口から光子力ビームを撃ちまくる鉄血宰相は無視しよう。

一応、戦況は把握しているらしく、俺達が中央突破を図っているのに対し、外縁部を交互に駆除しているから、まぁいいやね。

「わははははわははははわははははわははははわははははわははははわははははわはははは。」

…ほっといて大丈夫だよな、あのオッさん。

一応史実はなるたけ変えないようにしたいけど、脳血管がブチ切れて戦死とかなったら、19世紀以降ヒトラーまでのドイツ近代史が「わや」になるから、それはそれで、辻褄合わせが面倒くさい。

「わははははわははははわははははわははははわははははわははははわははははわははははわははははわははははわははははわははははわははははわははははわははははわはははは。」

…なんかもういいや。

掃討戦は全部あのオッさんに任せよう。

「任されたわい!わははははわははははわははははわははははわははははわははははわははははわはははは。」

遠く離れた人の独り言に勝手に反応していやがるし。


という訳で、俺とお嫁さんが錐の如くブロッケン山山頂に群れる◯ンドロ軍団のど真ん中に(大)穴を穿ち、その穴をピヨちゃんとユカリさんがちり紙に落とした水染みの如く広げ、後方からはジェニーの掩護歌が響き、更にその後ろからは◯ス・ボロットと化したブロッケン山の怪物から、プロイセン公国宰相が残った敵を掃討しまくるという、◯ンジョ様には悪夢な光景が広がっている訳で。


「スカポンターン」

「スカポンターン」

「スカポンターン」


という悲鳴?が響き渡る地獄絵図(敵にとって)が展開してる訳だよ。

一つ、面白い事に気がついた。

ドロ◯ジョ様の「スカポンターン」が繰り返すたび、そのドロ◯ジョ様がデカくなってる。妖怪巨大女って超B級映画あったなぁ。しみじみ。

まぁ、目の前のあれ、中身人間じゃないし。


という訳で、俺達が敵ボスの元に辿り着いた時には、身長57mの巨大女と相対する事になりましたとさ。

「慎吾様、あれどうしましょう?」

「スカポンターン」

「スカポンターンしか言わないし。」

ユカリさん、ドラゴンのまんまでユカリ声を出されると、なんか萎えます。

「スカポンターン」

「どうしましょう。」


「吾輩に任せんか〜い!」

両手で包む様にイギリス皇女を運んできた◯ス・ボロットがドタバタ走って来る。

うっさいなぁ。

それでも、きちんと丁寧にジェニーを俺達の元に下ろすと、「どすこ〜い!」と◯ンジョ様と◯ス・ボロットが手四つの体勢で力比べを始める。

始めるけど。ボスボロットって(実名)身長12mしかないんだよなぁ。コンバトラーVとじゃスケールが違い過ぎる。

Zがデビルマンと共演した時は、どうしたんだっけ?

「やーっておしまい!」

「オロロロロ?」

まぁ、◯ス・ボロットは格闘戦は苦手だからなぁ。基本、ガラクタ集めてこさえたポンコツだし。

「あ〜れ〜〜〜。」

はい、頭だけすっ飛んできました。

元がデュラハンだし。そりゃ、◯ンジョ様が首元に小橋建太ばりのチョップ一つしただけでそうなるわなぁ。

「あの方、何しに来たんでしょう…。」

まぁまぁ。おかげで雑魚を一掃してくれたから。隣国の宰相さんをそうそう悪く言いなさんな。


さて、我が弟子よ。

「実戦中に師弟モードですね。なんでしょうか、おしっしょさん。」

西遊記のマチャアキはともかく。

「似てませんでしたか?」

似せようともしなかったくせに。

「だって実物見てないもん…。」

とりあえず、アレ倒してこい。

「スカポンターン」

「アレですか?」

アレ自体はただのこけ脅しだよ。中身はともかくな。だから、核となる物を探せ。

あの巨体は人間相手だから、“使える“手立てだ。たしかにあの巨体には実態があるし、実体もある。ビスマルクのオッさんが力負けして吹き飛ばされた様にね。

北で青鬼を倒した様に、本体を斬れ。

竜骨剣は、竜骨刀は、「本体を見誤る事」はない。見誤るのは、剣を、刀を振るう人間だ。

お前の中には、(蛇)神が宿っている。

お前の娘は、龍だ。

ならば、お前がする事は一つ。

自らを、家族を信じて斬れ。

それだけで、充分。


「わかり…ました。」


ウィーンで暴れた時は勢いだけで飛び出していったからな。久しぶりのお嫁さんマジモードの開始だ。

竜骨剣を鞘に収めると、◯ンジョ様の前に一つ立つ。

「やーっておしまい!スカポンターン!」

巨大◯ンジョ様が大きく右脚を上げて、ちっぽけなサユリを踏み潰そうとする。

「…遅い…。」

サユリの居合術は、俺の薫陶宜しく、それなりに高速になっている。

ただの道場剣術ならば、充分達人の域に達していると言って良い。

「スカポンターン」

竜骨剣の剣先は、いや剣先から延びる「力」は、スルスルと巨大女の足を貫き、身体を貫き、顔を貫き、頭頂から天に向かって延びて行く。

俗に言う、串刺しの刑。

アレは肛門から、自らの体重で貫いて行く刑らしいけど、右脚の裏から頭の天辺を、龍と蛇の力が貫いている訳で。

そのまま、巨大◯ンジョ様は、縦に真っ二つになると、そのまま倒れて行った。


「やったの?」

ジェニーがフラグ立てみたいな事言うが、勿論そんな事ない。

ボスキャラは二段変身が当たり前。

ここまでは、うちのお嫁さんの稽古にしかすぎないよ。ほら。

地に横たわろうとした寸前、巨大◯ンジョ様は、黒い霧になり、その霧は全てが蝙蝠に変幻する。

「なんですか?アレ。」

一仕事終えて、お嫁さんが俺の元に帰ってきた。まだ戦闘中であるんだけど、晴れ晴れとした顔をしてる。

「ヒィヒィ。ひいこらさ。」

ブロッケン山のダイダラボッチが、グルグルメダマンになっているプロイセン公国宰相を摘んで合流してくる。

アレね。多分、ヨーロッパ編のボスだと思うな。

「ピヨ」

うん、前回言ってたね。

アイツの正体は「メフィスト」だって。


青白い身体。 

山羊の角。

蝙蝠の羽根。

蛇の尻尾。

見事に悪魔。どこをどう切り取っても悪魔。

ディスイズデビル。

ああ、そう言えばさっき一瞬、デビルマンの話をしてたなぁ。

「どどどどどどど」

おや、何処かで雪崩の音がするなぁ。

「どうするんじゃ。悪魔じゃないか、サタンじゃないか、魔王じゃないか!」

ああ、どっかの総理大臣閣下でありましたか。

「うむ。吾輩はプロイセン公国宰相ってそんな事はどうでもいいわい!」

おおっ。微妙なノリツッコミ。

「やばいやばいやばいやばいやばい。アレはやばいやばい。」

「宰相。大丈夫ですよ。旦那様に任せておけば。」

「いや、しかしなぁ。」

「慎吾様の旅に同行するならば、いつでもこうなります。わかっててブロッケン山までついてきて、あれだけ大暴れしていたのでは無いんですか?」

「うむ。そうはそうなんじゃが、悪魔って、悪魔の姿を具体的にとられると、なんか身体の芯が怖気付くのじゃよ。」

「不思議な人ですねぇ。」

ああ、お嫁さんさぁ。

頭に三角頭巾をつけて、死に装束で、足のない(円山応挙は、お嫁さんの時代からは本来ずっと後世の人だけど)幽霊が、柳の下に現れて平気かね?

「ああ、それは怖いですねぇ。」

キリスト教圏の人には、悪魔は恐る存在。

そう、DNAに刻み込まれているんだろう。

「でも、ジェニーは普通ですよ。」

「わたくしは、旦那様を信頼し切っていますし、今ここで生を終えようと、旦那様がいらっしゃるから、それはそれで満足ですし。」

「ああ、それならわかるね。」

「おんしの嫁御たちは、随分とおんしを頼りにしとる様だのう。」

ま、これはこれで。

男冥利に尽きるってもんだよ。

さて、ここからは俺の出番だね。

ユカリ、ピヨ、八咫烏。わかってんな?

「うん。」

「ピヨ」

「カー」

神様三人衆には、それだけで伝わる。

要は、俺の家族と、俺の仲間を守れ。


メフィスト。

正式にはメフィストフェレス。

中世の神学博士ファウスト氏に召喚された悪魔とされ、何故かプロテスタントの生みの親、マルティン・ルターに非難され、以後「地獄の辞典」等、数々の魔導書・グリモワールに取り上げられて行った「ただの悪魔」だ。


神も悪魔も、この通り存在する。

人の想いが、想像が、悪意が、願いが、神と悪魔を既定し、確定させるからだ。

逆に言えば、人がいなければ、神も仏も悪魔も存在し得ない。

神様だの、悪魔だの威張ったところで、それがこの世に於ける「哲学」だ。


メフィストの魔力が格段に跳ね上がり、ブロッケン山に魔力の嵐が巻き起こる。

お嫁さんから、久方ぶりの蛇神が飛び出すと

ブロッケン山のダイダラボッチに巻き付いた。つまり、ダイダラボッチを自分の身体をもって障壁とした訳だ。

ふむ。ただの悪魔とは言ったけど、それなりに魔力はあるのか。

おい、ピヨちゃん。

「ピ?」

ラスボス前だし、今更隠れてもしゃんあんめえ。いいぜ。やっちまいな。

ピヨちゃんのじゃ頭を優しく、しかし乱暴にぐりぐり撫でると、光の中から多岐都姫が現れる。

「ふむ。オーストリア以来だの。」

好きにしてよし。お前さんの判断に任せる。

「とは言え、アレは育ち過ぎだの。伝承通りの悪魔なら事さもないが、日本神は基本的に闘う神では無い。守る神じゃて。それで良いかえ?」

戦闘力なら足りてるから大丈夫だよ。

「相変わらず滅茶苦茶だのう。ならば、妾は守ろうぞ。人を守り、土地を守る。それで良かろうもん。」

上等上等。後は任せた。


ワタリってのは、伊達に神すらぞんざいに扱っている訳では無い。

神に物事を頼まれて、様々な世界を渡り歩いている訳ではあるが、逆を言えば、神を殺す事もある。

狂った神。

堕ちた神。

そして、生き飽きた神。

その世界を神が守る為に選んだ手段を完璧に履行出来る存在が俺であり、なんなら神の意向以上の事をさらっと仕上げるのも俺な訳。

最近ご無沙汰な、うちのドラゴンちゃんなんかも、その副産物だし。


その俺の神殺し技の一つ。

あっ。悪魔って基本的に堕ちた神だから、堕ちてない神よりは大抵弱いのよ。

練ったワタリのじゃ力をぶつける掌底打ち。

んー。なんも技名考えてなかった。折角だから、なんかこうカッコいい技名ないかな。

「パパ。ありきたりだけど、“かむい“ってどうかな。」

ユカリさんから提案。さすがに魔力全開なので、人間形態は取れないらしい。

ふむ。かむいね。

神威・神居・可夢偉・カムイ。

うーん。

「ga ga ga ga ga ga ga ga!」

あーもう、うっさい。考え事してんだから邪魔すんな。

メキ。


「ねぇ、慎吾様が今、あの魔王を叩いたら、壊れちゃったよ。」

「旦那様もたいがいだけど、余所見してる旦那様に無碍にされたら滅びちゃう悪魔って。ボスってなんなのよ。」

「アレじゃ、嫁御たちも信頼し切る訳じゃのう。」

「あれれ。ひょっとして、パパの邪魔しちゃった?」


あ、しまった。

最後は、ビスマルクとダイダラボッチを含めた「総攻撃」でとどめを刺す「盛り上がり」を考えていたのにぃ。

「いや、妾は何のために神化したんじゃ?」

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