第48話 ワルプルギスの夜
うわーんうわーん。
崖の下からは、ブロッケン伯爵の泣き声が響いていたそうな。
うわーんうわーん。
「慎吾様?何故に常田富士男なんですかね。」
だってほら、ブロッケン山の怪物が、ただのダイダラボッチになってる。まるで日本昔話みたいだろ。
だから君も市原悦子になりなさい。
「文字だけで物真似するのは、幾ら蛇神を使役する剣術小町としても難しいのォ。」
「…語尾をあまりにも微妙にオババ化してますが。」
「だからジェニー、言わなきゃわかんないんだから触れないで。難しいなぁ。家政婦になってみようかなぁ。」
「奥様?何か家事出来ましたっけ?」
「しまった。ご家庭の主婦として、色々欠けている私だった。」
「おかーさんは自分で言って、恥ずかしくないのかなぁ。」
「だから、ジェニーとユカリに教えて貰ってるでしょ。素っ裸同然で郷を出てきた馬鹿娘だから、自分の欠点は素直に認めるし、自分に足らない事は例え歳下であっても素直に師事してます。」
「うわー、おかーさんが開き直りましたよ。奥さん。」
「だから奥様は無敵の人なのよ。奥さん。」
因みに市原悦子さんの本名は「しおみえつこ」さんな。
「「「ビジンター?」」」
3人揃ってそれ?えっちゃんも色々やってるよ。ナガブチヨメとか。
「ピヨ」
ハイハイ。わかってるよ。
ピヨちゃんに急かされてブロッケンに話しかけてみた。
取ったげよか?
「うわーんうわーん、うわー?…君だあれ?」
通りすがりの常田富士男です。
ア・レコードでお馴染み、私のビートルズ。
あと、ゲバゲバとカリキュラマシーンと。
「パパパパ、常田富士男を面白がってて、また話が進んでないよ。」
でもさ、宍戸錠とコントやってたんだぜ。
エースのジョーだぜ。穴と鍵。
「だからそれはVOWのみうらじゅんネタだよ。」
「ピーヨー!!」
わぁピヨちゃんが怒ったあ。
ピヨちゃんは怒ると怖そうなので(すっかり忘れてたけど、この子天照大神の娘さんの多岐都姫だったのよね)、ブロッケン伯爵に声をかける事にしよう。
「僕の頭が、落ちちゃったのー。」
ブロッケンさんさ。あまり変なキャラ付けすると、豪ちゃんに叱られるぞ。
「大丈夫、あっち(原作)も“相当“だから。」
いや、そうだけどさぁ。
「と言うか、ぼくをダイダラボッチにしたのはきみだようん。」
え?俺が悪いの?
「ピヨ」
そうですか。
このブロッケン山の怪物は、「何者か」の意志によって具現化した怪物である事は事実らしい。本人がそう言ってるし。
「そーそー。」
人に解説をちゃっかり押し付けてる首無しおじさん。
俺が話しかけたら、自分の首をほったらかして胡座し出したんだ。いや、首は?
「ぼくはデュラハンだから大丈夫。」
ブロッケンの怪物→ブロッケン伯爵→デュラハンの連想か。誰の意志かは知らんけど、自由過ぎねぇか。
「慎吾様が言えた事ですかねぇ?」
お嫁さん、うるさい。
「ぼくはただの影だったの。そしたらさっき、身体をやろうかって誰かに言われたの。欲しいなーって思ったからくださいって言ったの。そしたら黒い丸が飛んで来て、ビックリして避けたら頭が落ちちゃったのー。そしたら光と影、どっちが良いって聞かれたの。影はもうやだから、光が良いって言ったの。そしたらこうなって、きみに話しかけられたの。」
光を割り込ませたのは、ピヨちゃんの仕業だなぁ。多分。
声は谷底から聞こえてくるのに、身体は一生懸命に身振り手振りするのが面白い。
「ぼくを助けてください。」
「ピヨ」
ピヨちゃんが返事するんかい!
まぁね。早よせんと、ブロッケンの頭が食べられちゃうし。
「へ?」
「ピヨ?」
キレットの下見てみ。
「…なんか丸っこくて、棘がイガイガ尖ってるのが、近寄って来てますよう。」
「ア◯ドロ軍団?」
何が出ようと、今更驚かないけどね。
というか、何故知ってるの?ジェニーさん。
「と言う事は、ブライキン◯・ボスが何処かに居る筈ですね。」
半世紀近く前のタツ◯コアニメに詳しい16世紀のイギリス女王(12歳)。
「ああ、実写映画が北◯原人並みに有名な。」
「でも、目◯祐樹版ルパ◯とかよりは良くない?」
「あれはあれで、一種の前日談として面白いわよ。小◯旬のが真面目に作った分、変に寒々しくなってたじゃん。」
うちの嫁ーズはオタクなのだろうか。それもカルト系の。そして◯◯トークが終わりそうにないし。
「でも、キャシャ◯ンってバッドエンドなのよねー。」
「だってほら、科学忍者隊も全滅エンドだし、くしゃみ一つで呼ばれる魔王も、鬱鬱エンドよ。タ◯ノコってそうなのね。」
魔王は魔王で、あの大魔王が出て来れば、この物語がもっと呑気になるなぁ。
「あの時代の子供達はどう思ったのかしら?」
「出崎さんの終わりの歌が真っ暗なのは有名だけどね。」
嫁ーズのオタク談義が止まらないよう。
ところでブライキン◯・ボスと言えば、ごっつい片目アイパッチなオッさんな訳だけど、俺の視界に見えているのは、黒いビキニスーツで黒いとんがり頭巾の女の人。
◯ロンジョ様にしか見えないなぁ。
「ピヨ」「カー」
うちの神様コンビから忠告が入った。
あの◯ロンジョ様は◯ロンジョ様にあらず。
正体はメフィストなり、と。
…メフィスト?
ちょっと待て。
ブロッケン山でメフィストって言ったらさ。
「ピヨ」
魔女の火祭り・ワルプルギスの夜じゃん。
ワルプルギスの夜。
某魔法少女ではラスボスだったけど、元ネタはただの季節祭、夜祭・火祭だ。
火と言うものに聖を求める、聖を当て嵌める文明は多い。
火はありとあらゆるものを燃やす、中世の人間にとっては意味不明・原因不明な物理現象。
火はあらゆるエネルギーの発露であり、あらゆる悪魔の源でもある。だから人類は火を祀った。洋の東西南北を一切問わずにだ。
さまざまな神話が生まれ、さまざまな悪夢も生まれた。曰く、魔女のサバト。曰く、神の再生。そしてここブロッケン山を舞台としては、悪魔の跋扈と妖精の結婚が物語として紡がれてきた。
その作者こそゲーテであり、シェークスピアだった。ああもう、モーツァルト並みに悪魔化されやすい連中じゃねぇか。
「うわーうわーうわーうわー。」
ブロッケン伯爵が騒ぎ始めた。あらら、キレットに挟まっている顔にアンドロ軍◯が集り出した。
「ピヨ」
わかってるよ。ほいっとな。
重力魔神をお手軽に呼び出すと、Gの逆転でスルスルとブロッケン伯爵の元に頭が戻ってくる。
「…何したの〜。」
内緒。俺はこのくらいなら朝飯前の寝起きに冷たい水一杯。うん、旨い。
頭に集ってたアンドロトリオはお嫁さんが一振りで吹き飛ばした。
「慎吾様、それ平仮名で書いたらメッですよ。」
うちのお嫁さんの叱り方が可愛い件。
さて、今回もそろそろ暴れますか。
「吾輩わ?もう2500文字超えたけど、前回からほったらかされてるよ。」
あ、プロイセン公国の鉄血宰相を忘れてた。
「やっておしまい!」
「「あらほらさっさー」」
◯ロンジョ様が指示を出すと同時に、◯ンドロ軍団がわらわら崖を這い上って来たよ。
あらほらさっさーは、ロボットには似合わないと思うけどなぁ。
「団体さんのお着きだあ。」
お嫁さんが、斧の代わりに竜骨刀を抜く。
「…あの、慎吾様。あれ、鉄の塊に見えますよう。」
次から次へと迫ってくるア◯ドロ軍団を近くで見て、やっと気がついたみたい。
遅いよ。
「そんな事言ってもー。」
鉄だろうとなんだろうと、斬りゃいいだろ。
「私、斬鉄なんかした事ありません。そんなの、そこらの流派なら皆伝物ですよう。」
簡単な事だ。竜骨は鋼より硬く、鋼よりしなやかだ。つまり、竜骨ならば腕次第で多少修行が足りなくとも、刀の性能でなんとかなる。見てな。
俺は久方ぶりに草薙の剣を携えた。
無造作に鞘から出すと、一気に踏み込んで行く。そして、そのまま引き返す。
「旦那様?何を為されたのですか?」
そのまま、鞘に剣を納める。そのままそのまま。ロボット相手だと、血や脂がつかないから、懐紙で拭う必要もない。
カチッと言う金属音をわざと派手にさせた瞬間、前面の◯ンドロ軍団が50体ばかり袈裟斬りで分解した。
「…そんな。わたくしには何も見えなかった…」
「大丈夫。私には見えた。」
「え?」
「うふふジェニー。私はこれでも慎吾様の妻で一番弟子なのよ。師匠が見本を見せてくれれば充分なの。」
ジェニーは下がれ。お前にはお前にしか出来ない仕事がある。
「なんですか?」
歌でサユリを守れ。癒しではない。勇気だ。
サユリに勇気と力を与える歌を歌え。
「と、仰いましても…」
曲はなんでもいい。あのウィーンの迎撃戦では、ベト7の管楽器がサユリとユカリに力を与えていた。お前はただ、友達を、仲間を想え。その想いが、友達の、仲間の、家族の力となる。
「わからないけど、わかりました。頑張れって歌うんですね。」
その通り。上等!
ユカリさんとピヨちゃんは遊撃に回れ。お前さんなら、たかだかロボット、なんとかなんべや。
「わかったー。なんとかするー。」
「ピヨ」
八咫烏はジェニーの掩護に回れ。俺の女なんだから、身体に擦り傷一つつけたら、今晩のおかずにすっぞ。
「カー…」
いや、本気にしないでよ。勢いだよ勢い。
「あの、吾輩…」
待ちなさいっての。プロイセン及びドイツ史上、最強かつ最も有能な男。いや、漢。オットー・フォン・ビスマルク閣下さん。
「閣下呼ばわりされてても、ちっとも敬愛の雰囲気が伝わって来ないんだが。」
俺とお嫁さんが先鋒で突っ込んで行くから、ビスマルク閣下には後方で遠距離支援をして欲しい。
「吾輩に後方に下がれとな!」
ビスマルク閣下の得意技は「銃」なんだろ?
「ま、まぁね。しかし、あの鉄人供に吾輩の拳銃が効くとは思えんのだが。おんし達みたいに斬る剣は、そうそう得意でもないのでな。」
まあまあ。おい。ブロッケンさん。
「なぁにぃ?」
このオッさんを咥えてくれんか?
「ちょっ!」
「わかったのだ。」
首が取れる、マ◯ンガー、で思いついた。
これ、光子力研究所側にも、そっくりな奴居るじゃん。すなわち。
ジャンジャジャーン。
◯スボロットだい!
俺がそう決めた。元々、このブロッケンの怪物は、何者かの意思や、ピヨちゃんの横槍で実体化してるわけだ。で、俺がダイダラボッチといい加減に定義したらそうなった。
つまり、俺の考え一つで存在が固定できる。何者かやら、ピヨちゃんやらよりも上位な存在としてだ。そりゃ当たり前だよね。俺は神様より偉いワタリだからな。
黄色い頭に赤い身体。丸々と太り長い手足は蛇腹式。何処から見てもアイツだ。
ビスマルクさんは、格子状になった口から覗いて叫んでる。
「出来ればZやグレートの方が良かったのうううううぅ。」
ああ。あんたはプロイセンでは主役だけど、俺達の中ではゲストだから。主役メカはあげらんない。けど、脇役メカならOKだ。
この戦いの間、愛銃から光子力ビームが出るようにしとくから、その高みから遠距離迎撃を頼むわ。
「承知。腕が鳴るわい。メキボリグシャ。」
骨折してねぇだろうな。
んじゃ、始めっか。
謎のタツノ◯プロ軍団対秋津家。ファイ!
「秋津家って誰ですか?」
お前さんは何処の家に嫁入りしたのかね。
「…………。ぽん。そういえば、慎吾様ってお名前、秋津慎吾様でしたね。私も秋津サユリでした。」
久しぶりに設定ノート引っ張り出したみたいな事言わないの!




